33話 検証


 リザードマンたちと探索に繰り出した俺たち。

 未踏のエリア直前で出会ったのは二体のオーガだった。

 しかも魔族に強化された個体でレベルも高い。

 俺、ドクンちゃん、ホルン、トリスケ、ホブスケ。

 リゼルヴァとリザードマン二人。

 マミーとリザードマンのチームワークで乗り越えたいところだが……。

 

 幸いにも相手はこちらに気がついていない。

 小声で作戦を立てる。


「各個撃破でいこう。囮はホルンな」


「なんだとっ! 誇り高き聖獣の我を卑怯な駒に――」


「ホルン先輩の走り、リザードマンに見せてやってくださいよ。腰抜かしますぜ!?」


「……作戦とあらば致し方ない」


 この馬ちょろいな。

 二体のオーガはどちらも見上げるほどの巨体だ。

 身長は3メートルに届きそうなほど。

 腕は丸太のように太く、手に持った斧も実に重厚。

 一発もらったらバラバラになりそうだな。

 戦う前からすさまじい威圧感を与えてくる。


 正面戦闘は避けたい。

 卑怯といわれようが最も安全確実に倒すのが一番大事。

 ホルンとトリスケが一体をひきつけ、その間にもう一体を集中攻撃するとしよう。

 

「作戦開始!」


 合図とともにトリスケが派手に飛び立つ。

 突然バカでかいニワトリが現れ、さすがのコワモテたちも驚いたようだ。

 同時にホルンがオーガたちに向かって走り、途中で方向転換。

 鬼ごっこのお誘いだ。

 案の定、オーガたちはホルンをケツを追い始めた。

 

「撃て!」


 背を向けた一体へリザードマンが矢を放つ。

 期待通り、こちら振り向いた。

 一体がホルンたちを追い、一体がこちらにやってきた。

 これでオーガを分断したぞ。

 斧を振り上げながら、鬼さんはこちらに一直線。


「ガアアアアアア!」


「うひょー、すげえ迫力」


 ライオンの鳴き声みたいだ。

 ここで隊列確認。

 俺、リゼルヴァ、ホブスケが前衛。

 ドクンちゃん、リザードマン二人が後衛だ。


 まずは魔法で下準備。


「”スーサイド”」


 ホブスケを対象に黒魔法をかける。

 初めて使う、黒魔法Lv3の呪いだ。

 スーサイドをかけられた者を傷つけると相手は同様の傷を受ける。

 つまりホブスケにダメージを与えたオーガは、自分にもダメージが返ってくるのだ。


「”ファイアボルト”!」


 一方でリゼルヴァは攻撃魔法を唱えた。

 大きく開いた口から炎の矢が飛び出す。

 口から発射とは……怪獣チックでイカすビジュアルだ。

 炎は腹に命中し、オーガがたたらを踏む。

 が、まだまだ元気そうだ。


「魔法の撃ち方めっちゃカッコいいね!?」


「リザードマンはみんなこうだが?」


 平然と答えるリゼルヴァ。

 ひょっとして俺も口から撃てたりするのかしら。


「俺たちが突っ込む、もう一発頼むわ」


 ホブスケと俺とで前進。

 全身甲冑のホブスケが構えるのは問題作、『死のアイスブランド』だ。

 俺の愛剣だったが、不慮の事故でとんでもない効果がついてしまった。

 『振ると確率で死ぬ』という恐るべき呪いだ。

 

 今回の戦闘では実際に呪いの効果を検証する。

 道すがらホブゴブリンの死体を発見していたから、万一潰されてもホブスケは補充可能である。


「俺の動きについて来られるか!」


 包帯を使って派手に動き、オーガをひきつける。

 ホブスケを狙わないようにしないとアイスブランドの検証ができないからな。


 稲妻のようにジグザグに地を蹴る。

 我ながら無駄にスタイリッシュな動きだ。


 頭上から斧が迫る。

 速い、がどうにか躱せる。


「よっ! お返しの”シャドースピア”!」


 難なく回避、そして反撃。


 あごを大きく開いて意識を集中。

 上手いこと俺の口から闇の矢が発射され、オーガに命中した。

 実にスタイリッシュかつモンスターらしいではないか!

 これで手を使わず魔法が撃てるようになったわけだ。

 戦術の幅が広がったぞ。


「おおっ、できたできた!」


「喜んどる場合かー!」


 後方からドクンちゃんの注意が飛ぶ。

 そんなに怒らんでも。

 

 包帯による高速起動で翻弄しながら、黒魔法を打ち込んでいく。

 その間、剣を振るホブスケに異常がないか見守る。

 今のところガシガシ斬りつけている。

 切り傷をよく見ると凍っているようだ。

 『死の』効果は自殺デメリットの引き換えとして、ほかの効果を高める。

 よってアイスブランドの氷属性が強化されているのだろう。


「”ファイアボルト”!」


 リゼルヴァも近接戦闘を避けて、魔法主力で立ち回っている。

 後衛のリザードマンたちも毒矢で援護してくれてるが、毒はかかっているのだろうか。


 そのとき、俺の視界にいよいよ”あの”ウィンドウがポップした。


<<スケルトンウォーリア: curse (3)>>


 どうやらホブスケに『死』が発動したようだ。

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