25話 ウマい話には裏が
ユニコーンの部屋を勢いよく開けた俺は、勢いよく先手を打たれて瀕死になった。
雪辱を果たすべく考案したハニートラップ。
美女に化けたホブスケ(ドクンちゃん内蔵)は上手いことターゲットに接近できるのか?
――という作戦は順調な滑り出しを見せた。
ユニコーンは偽美女に攻撃してこなかったのだ。
しかし……
「可憐な乙女よ、何故このような場所にいる」
馬のくせに、まさか話しかけてくるとは。
ユニコーンと意思疎通が図れる可能性は考えていなかった。
ここはドクンちゃんのアドリブに任せるしかない。
「え、えっとおー、勇者に閉じ込められてしまったんですう」
しくしくと偽美女に泣き真似させてみる。
ホブスケの操作は造物主たる俺が担っている。
対しユニコーンは蹄で土を蹴った。
(あれっ、怒ってる!? もうバレた?)
「貴女も邪悪な勇者の犠牲に! 許しがたい卑劣漢め」
ほっ。
どうやら上手くごまかせたようだ。
「あの者は勇者にあらざる金の亡者。聖獣に跨れば権威が増すと、我を屈服させようとしたのだ」
語りだしたぞ。
よっぽど腹に据えかねてるんだな。
「まあ、勇者に立ち向かうなんて勇敢なのね」
「そうとも! 先祖の血にかけて我は抗った! とうとう御しきれぬと悟った勇者は、我を封じる他なかったのだ」
どや顔でカポカポ歩くユニコーン。
偽美女との距離がどんどん近づく……いいぞいいぞ。
「どうかアタシを守ってくださあい」
「もちろんだとも……む?」
不意に鼻を鳴らすユニコーン。
辺りの匂いを嗅いでいるようだ。
「なにやら不死者の匂いが濃く……?」
「マズい! かかれ!」
バレる。
そう判断した俺は、ホブスケに指令を飛ばす。
両腕を回してユニコーンの首をがっちり捕らえろ、と。
途端に美女は迅速に接近し、馬の首を見事にホールド。
「な、なんだいきなり! さては不死者め、騙したのか!!?」
「乙女なのは本当よっ!」
ホブスケの胴からドクンちゃんが躍り出る。
そのままユニコーンの顔面に張りつき触手を巻きつけた。
よし、視界は完璧に塞いだぞ。
「ドクンちゃんナイス! いくぞオラァ!」
俺とトリスケが突入。
同時に幻惑が解けてホブスケの正体が露わになった。
幻惑の効果時間ギリギリだったか、危ない危ない。
ユニコーンの角が明滅し、部屋のどこかで破裂音が聞こえる。
たぶん聖属性魔法が的外れな場所に打ち込まれたのだ。
「”シャドーブラスト”!」
闇魔法、第三の攻撃技。
威力、射程ともに高水準の遠距離攻撃だ。
こいつは肉体と同時に精神へダメージを与える。
燃費はかさむが短期決戦を狙う。
バレーボールサイズの黒い球が俺の眼前に現れ、ユニコーンへ飛んでいく。
暴れる顔面に命中したそれは、黒いしぶきとともに炸裂した。
「ヒヒーン!」
悲鳴は馬なんだな。
きれいな動物を殺すのは心苦しいが、しかたない。
こちとら下手を打てば一撃で昇天させられるのだ、文字通り。
「ギケッ!」
背後からも悲鳴。
振り返るとトリスケが地面でもがいていた。
どうやら聖魔法を食らってしまったようだ。
息がある分ラッキーとしておこう。
「マスター! はやく……あっ!」
がむしゃらに暴れるユニコーン。
その力は相当なようで鎧を着こんだホブスケが投げ飛ばされた。
宙を舞うホブスケは地面に激突し、バラバラになってしまった。
装備の重さが仇になったか。
「許さんぞ不浄なる者どもが!!」
「ひえぇぇぇ」
どうにかしてしがみつくドクンちゃん。
視覚だけは奪えている状況だ、猶予は少ない。
いななくユニコーンの角が一瞬光った。
すると視界の中に閃光が走った気がした。
晴れた空に稲光? そんなはずはない。
俺の頭を半分飛ばした聖魔法だろう。
(どこから来る!?)
その直後、足元から破裂音。
「うおおお! つま先が無い!!」
左足の五指全部が消滅していた。
ショートケーキをスプーンでえぐり取ったように足の甲が抉れている。
魔法の軌跡は見えなかった、どうやら飛翔体を放つタイプじゃないらしい。
指定した地点をピンポイントに攻撃する魔法のようだ。
目を封じられながら当ててくるということは、別の感覚でこちらの位置を把握しているのかもしれない。
ベースが馬だから、嗅覚か聴覚のどちらかだろう。
バランスを崩した俺は、なんとか転ばないように進むと詠唱を再開する。
「さっさと仕留めるぞ! ”シャドーブラスト”!」
「ヒヒン!」
命中。
大きくよろめくユニコーン。
闇魔法はかなり有効なようだ。
「そこか!」
目をふさがれているにも関わらず、俺のほうへ首を巡らせたユニコーン。
その角はすでに光を帯びていた。
(ゴブスケ援護!)
命令を飛ばしたのは、遠距離に待機させていたゴブスケ。
クロスボウによるフォローを担当させていた。
今がそのときだ。
「ヒヒン!」
クロスボウから放たれたボルトは、ユニコーンの胴に突き立った。
ダメージはともかく、突然の痛みに聖魔法の標的がずれる。
――バシリ!
やはりな。
上空からのピンポイント攻撃か。
一瞬落雷のような光が落ち、俺の前方を焼いた。
「”シャドーブラスト”!」
さらに追撃。
闇魔法を受けたユニコーンは、脚を震わせてどうにか耐えている。
よし、もう一発打ち込めば戦闘不能に追い込めるだろう。
「”シャドー……」
とどめだ。
俺の詠唱はしかし遮られた。
「そこまでだ、不死者よ!」
「はい?」
ドクンちゃんを顔面に張りつけたまま、俺に向き合うユニコーン。
凛々しい声でいきなり仕切り始めた。
「我相手によくぞ健闘した、しかしこれ以上は互いにとって損失。矛をおさめようぞ」
「俺らが優勢でしたけど」
足音を立てないように静かに移動する。
すると、ユニコーンの顔の向きは変わらず、俺がいた地点に話し続けた。
……どうやら聴覚で位置を把握しているようだ。
「貴君も勇者に閉じ込められたのであろう、であれば我らの目的は同じはず」
「……手を組もうってことか?」
……助けるべきか、いや無いな、不意打ちする気かも。
一瞬考えて、やっぱり打ち込む。
「”シャドーブラスト”!」
「ヒヒーン! き、貴君には血も涙もないのか、勇者と同類か!?」
「……そういう風に言われると癪だわ。話してみ」
膝をつくユニコーン。
まだ耐えるとは。
伊達に聖獣じゃないな。
「どうするのマスター……ちょっと可哀想じゃない?」
ビジュアルがいいって得だよね。
これまでほとんどのモンスター殺してきたけど、きれいで話が通じると情が湧いちゃうもの。
「魅力的な申し出ではある。が、お前は危険すぎる」
「むむっ、だからこそ戦力になるのだ!」
なんせ高速詠唱で大ダメージを与えてくるのだ。
背後から頭を狙われたら余裕で即死。
ユニコーンはスケルトンみたいに絶対服従じゃないし、仲間に迎えるにはリスクが高い。
経験値も欲しいし、ユニコーンに憑依している分身ドクンちゃんも手に入れたい。
こいつを生かすメリットは正直乏しい。
「じゃあユニコーン君は俺たちのために何ができるのかな」
「回復ができるぞ! それも上位の聖魔法だ!」
目隠しされたまま、食い気味に返答するユニコーン。
「結構です」
死ぬのよ、聖属性の回復受けると。
アンデッドにとって聖魔法は毒でしかない。
「例えば角のパワー抜きだと何ができるのさ」
カマをかけてみる。
「貴君より何倍も早く、長く走れるぞ! それに力も強い!」
「ここ屋内だからあんまり活かせないなあ。それだけ? 角がないと魔法は使えないの?」
「ぐ、ぐぐ……力だけでも魔獣風情に退けはとらぬ!!」
なるほど、角抜きじゃ魔法は使えないと。
俺は静かに腰に手を伸ばし、アイスブランドを抜き放った。
目隠しされてるユニコーンに気取られないよう。
「どうだ、悪い話ではなかろう」
「オーケーわかったよ……ちょっと動かないでね」
一閃。
振り下ろされた刃は、ユニコーンの命を絶ち切った。
無論、命というのは比喩表現。
拘束を解かれたユニコーンは、失われた代償に狼狽した。
「あああああああ我の角が!!!」
ぽとりと落ちたのは馬の首ではなく、立派な一本角。
聖獣にとって命の次に大事なものだ。
「気の毒だけど俺にとってそいつは命取りでね。それともあっちのほうがお好みかな?」
未だにのたうつトリスケを顎で示す。
コカトリスのように、殺して従属させることもできるのだ。
「あれは、まさかコカトリスか? それをスケルトン化するなど……貴君は一体……」
馬も驚く表情するんだな。
わかってくれたようで何よりだ。
「脱出できた暁には角をくっつける方法を探してやるよ、それで勘弁してくれ」
「致し方あるまい……。 と、ところで先ほどの不死者の美女はどこなのだ」
そわそわするオス馬。
女ならアンデッドでもいいんかい。
幻惑が解けた瞬間は目隠しされてたから正体に気づいていないのか?
「俺の好きなモデルになーれ」
幻惑の杖をホブスケに振る。
スケルトンウォーリアが魅惑の美女に早変わり。
「ドクンちゃんもいるよ」
モデルの型に飛び乗る心臓。
「……ヒ、ヒヒーーーーーン!!」
悲しみのいななきが、森にこだました。
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