24話 当たらなければどうということはない(当たる)


 マミーに進化して絶好調の俺。

 ホブスケは斧&兜装備で重戦車化け。

 トリスケはルーキーにしてエース。

 ドクンちゃんは、まあ、うん。

 快進撃を続ける俺たちが開け放った先には――



 次の部屋は湿地部屋と似た風景だが、少し違った。

 早朝のように明るく、地面はぬかるんでいなかった。

 背のひくい雑草だけじゃなく、広葉樹の生えた――森だった。


 目を引いたのは、木々のなかに佇む白い馬。

 なんだか角が生えているような。

 それを視認した瞬間のことだ。


「いまだかつてないスピード感で瀕死だよ、あっぶねぇ」


 白い馬を認識した途端、頭の右半分が消失した。

 というか体右半分ごと持っていかれた。

 

「体半分ないとか転生直後を思い出すよ」


「その割にマスター元気そうね」


 HPゲージは2割を切って点滅している。

 今の俺は壁に寄りかかって回復中だ。

 ダメージを受けた瞬間、ゴブスケに慌てて扉を閉めさせた。

 以降、幸いなことに敵からのアクションはない。

 

「あのお馬さんはなあに? マスター」


「十中八九、ユニコーンだろうな」


 聖獣ユニコーン。

 白馬に角が一本生えた、ありがたいモンスター。

 イケメンなビジュアルから、どっかの王家の紋章にもなってた……と思う。

 雄々しい一本角には聖なる力――特に癒しの力があるとされることが多い。

 ゲームなんかだと回復技を覚えがちだ。


 ちなみに馬に羽が生えると『ペガサス』になる。

 角と羽、両方生えるとどう呼ばれるかは知らん。

 

「まさか出会いがしらに攻撃ぶち込んでくるとは思わなんだ。聖獣とかいってクソ凶暴じゃねえか」


「傷の具合からして聖属性魔法かしら。マスター、頭の中スッカスカよ」

 

 グラつく頭を抑えてくれるドクンちゃん。

 残念ながら自分の頭の断面図は見えない。

 見たくもないけど。


「にしても恐ろしく速い詠唱だったな。それでこの威力はやばくないか」


「マスターは聖耐性-5だから。詠唱が速い代わりに低威力の魔法でも、めちゃくちゃ効くんじゃないかしら」


「……ここにきて天敵登場とはな」


 俺の弱点は聖属性と火属性だ。

 どちらも耐性は-5……こうかばつぐん、なのである。

 今まではこれらで攻撃してくるモンスターはいなかった。

 

「考えてみりゃ、聖属性のモンスターって人間と敵対しなさそうだよな。アンデッドの敵はわんさかいるけどさ」


 ゲームだと天使とか神とか、その下っ端が聖なる属性をもっている。

 そういうやつらは人間を守ることはあれど、あまり敵対しない。

 つまり魔を滅ぼす勇者とも敵対しないだろうし、よって収納されることもない。

 アイテムボックス内で出会わなかったのも納得できる。


「じゃあなんでユニコーンは収納されてんだ……?」


 半分しかない頭を抱える俺。

 いやいや、問題は突破方法だ。


 囮を立てるか?

 あの詠唱速度と威力だ、囮も一瞬でやられるから効果が薄い。


 ブラインド……をかけたところで効果時間は短く、クロスボウ一発打ち込むのがせいぜいだ。

 クリティカルヒット的に一撃で倒せるか? 厳しいだろう。


 もう諦めて戻ろうか。

 トロールの部屋の分岐、砂漠の部屋方面へは未着手だし。

 

「白馬の王子さまって女の子の憧れよねー、マスターどうにかならない?」


「んな乙女チックしてる場合か……ん? 女の子……?」


「なによ! アタシは今をトキメク女の子よ! 文句あるの!?」


「ちょっと黙って」


 女の子、乙女。

 引っかかた言葉を頼りに記憶をサルベージする。

 ……思い出したぞ。


「よし、やってみよう」


 体の復元を待ちながら、俺は作戦を伝えた。



 ……


 ……


 ……


 しゃなりしゃなり。

 

 茶髪の女性がゆっくりと歩を進める。

 その先にはユニコーン。


 警戒しているのだろう、女性から一切を目を離さない。

 が、攻撃もしない。


「こ、こんにちはー。アタシ、ドクンちゃん」


 にこやかに手を振る女性。

 笑みこそぎこちないが、その顔面はモデル顔負けの美しさだ。


 そりゃモデルを元に作った幻影だからな。

 茶髪美女の正体は、ホブスケだ。

 幻惑の杖で俺が想像した美女(昔好きだったモデル)に変えた。

 そしてホブスケの内部にはドクンちゃんを格納している。

 姿担当、ホブスケ。

 声担当、ドクンちゃんである。

 

 予想通り、ユニコーンは女性に対して即攻撃することはなかった。

 そわそわして今にも駆け寄っていきそうな気配さえする。

 まるで人間にかまって欲しいのを堪える犬のようだ。


 そう、俺は思い出した……ユニコーンは女好きなのだ。

 それも筋金入りの『若いコ』好き。

 聖獣とか言われておきながらとんだ俗物である。

 もはや性獣である。


 作戦とは女の子に化けたホブスケ&ドクンちゃんが接近、隙をみて奴を拘束する。

 そうしたら俺とトリスケが全力で走ってぶん殴るという算段だ。

 幻惑の杖が早速役に立ったぜ。


 閉まる扉に大きめの石を挟み、その隙間から俺は機会をうかがっていた。


 もしこの作戦が通じなかったら全力で逃げて、砂漠部屋ルートを進もう。


「素敵なお馬さんねーナデナデしちゃう!」


 じりじり近寄るドクンちゃんだが、なんか言葉遣いがオネエっぽくないかい。

 俺の心臓から生まれた以上、ドクンちゃんを『女の子』に分類すべきかは疑問の余地が残る。


 まあいい。

 このまま近づけば、ホブスケが首根っこを締め上げる……雪辱を果たしてくれようぞ。

 思わずほくそ笑んだとき、予想外の事態が起こった。


 ユニコーンが口を開き――


「可憐な乙女よ、何故このような場所にいる」


 しゃ、しゃべったああああああ!!

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