22話 ベッドの下は男子の聖域
勇者のありがたいレベリング(皮肉)のおかげでマミーへ進化した俺。
湿地部屋の次はどんな敵が待ち受けるのか。
「楽勝すぎて笑うわ」
湿地部屋の次も湿地部屋だった。
中央に大きな池はなく、泥と草で構成されている。
そして中にはゴブリンがひしめいているだけだった。
数にして二十はいたか。
新しい体の試運転にはもってこいだ。
マミーになった俺は、体に巻いている包帯を自在に操れるようになった。
右手の包帯でゴブリンを巻き取り、そのまま別のゴブリンへ放り投げる。
重なり合って倒れた二匹へ『シャドースピア』。
黒い槍がまとめて串刺しにする。
はい、二丁あがり。
「そうね!――はっ、とおっ!」
ドクンちゃんはゴブリンの群れをアクロバティックに飛び跳ねている。
軽やかな動きで翻弄しつつ、毒液と触手で敵を仕留めていた。
どうやら『統率者』スキルで強化されたみたいだ。
その向こうではホブスケとトリスケが大暴れだ。
ホブスケはトロールの棍棒で容赦なく叩いて回る。
トリスケは尻尾の大蛇と足を操り、ゴブリンを解体していた。
スケルトンズは『死霊術』と『統率』のダブル強化を受けて、手がつけられない。
「さすがLv45、スケルトンコカトリスは違うなー」
馬ほどもデカい骨のニワトリ。
新メンバーのトリスケだ。
『死霊術Lv3』でコカトリスをスケルトン化できたので、めでたくパーティに加入した。
生前に散々手こずらされただけあり強さは折り紙つきだ。
「石化ブレスに巻き込まて死にそうになったけどね、アタシ」
「ハハハ、ごめんて」
ひとつ欠点をあげるとすれば石化ブレスの危険性くらいだ。
ブレスを抜きにしてもクチバシと四肢の爪、そして尻尾の大蛇という豊富な攻撃手段をもち、あげく飛べてしまう……。
もう全部こいつでいいんじゃないかというくらいに頼りになるルーキーである。
スケルトンの作成上限も増えたから、荷物持ちのゴブスケを部屋の入口に控えさせている。
なので今の俺たちは五人……五匹パーティーだ。
ちなみに焼き鳥パーティーでなつかれたフュージョンミミックだが、戦闘に巻き込まれると困るので別の部屋に隔離した。
「コツ掴めてきたな、よっと」
足の包帯をバネのように使い、ゴブリンの群れへ跳躍。
まるでアスリートみたいな軽やかさ……キモチイイ。
背中の包帯で氷の剣――アイスブランドを振り回し空中から強襲。
両手の爪に意識を集中すると、カッターナイフのように伸ばせる。
そして着地と同時、円を描くように回転し爪と剣を薙いだ。
「グェエエエエ!」
爪にはマヒ毒が付与されているため、ゴブリン程度なら一発で動きを封じる。
で、マヒしたところにアイスブランドの斬撃。
俺を中心とした円状に倒れるゴブリンたち。
「フッ、我ながら美しい」
ていうかマミー強すぎない?
まるで忍者なんだけど!
俺かっこいいな!
実力差を悟ったゴブリンたちは及び腰だが、逃げ場などない。
容赦なく刈り取っていく俺たち。
これでゴブスケのスペアが増えたな。
「あら、もう終わりなの?」
色っぽいお姉さんみたいなセリフだが、ドクンちゃんは心臓丸出しキャラだ。
とはいえ言葉通り、ゴブリンたちは死体の山と化していた。
「ゴブリンたちが弱かったんじゃない、俺たちが強すぎたんだ……で、宝箱どこだ?」
一つの部屋にはモンスターと宝箱がセット。
それがアイテムボックスという名のダンジョンのルールだ。
複数のモンスターがいたのは初だったけどね。
ところが、この部屋には宝箱がない。
今までに無いパターンだ。
「こういうときはだなー……はい発見」
部屋の中央あたり、泥を足でよけると木の板が露わになった。
よく見ると取っ手がついている。
「すごーい、よくわかったわね」
この部屋は湿地を模した仮想空間になっている。
四方があたかも屋外のように風景が映し出されているが、見えない壁があるのだ。
「ざっと見た限り壁や天井に異物はなかった。ならば床の泥に隠されていると睨んだけわけさ」
取っ手を掴んで引っ張る。
固い、いや重い?
ホブスケと協力して開くと、中には――
「階段ね」
「まさか裏ダンジョンとか」
真っ暗な地下へ続く階段があった。
サイズは大人ひとりが入れるくらい。
残念ながらトリスケは留守番だ。
ゲームだとシナリオから外れた道に、隠しダンジョンがあったりするもの。
そして奥には強めのボスとアイテムが待ち受けがちである。
「よし行くぞー」
「一切迷わないのねマスター」
松明をもって俺たちは階段を下る。
二十段ほど降りると床についた。
音も明かりも一切ない、静寂にして暗黒。
火で照らせる範囲は通常の部屋と同じ石造りに見える。
慎重に調べた結果、この部屋にあるのは一つの宝箱だけ。
モンスターも、次の部屋へのレバーも存在しない。
「さてさて、意味ありげな箱の中身はなんだろなー」
胸おどらせて御開帳。
宝箱のなかには手のひらほどの石がたくさん入っていた。
松明にかざすと、鉱石のように美しく輝いた。
「魔石の一種かしら」
肩に乗ったドクンちゃんが呟く。
「魔石っていうとMP回復する石?」
「そういう使い方もあるわね。魔力のこもった石で、魔法を使う道具や儀式の材料になるのよ」
さすがドクンちゃんは魔法に詳しい。
たしかに魔石、それもこの量なら宝箱に入っていてもおかしくない。
「でも隠すほどかあ? ……んん?」
魔石の一つを何とはなしにひっくりかえす。
そこには紙が貼りつけられていた。
メモのようだが……。
『素人ハーピー 混浴砂浴び 超接近ギリギリ盗撮』
……俺、異世界に来たんだよな。
いやに懐かしいテンポ感だ。
他の石もチェックしてみる。
『熟ラミアシリーズ54 美人蛇妻、熱帯夜の密会~濡れそぼる鱗~』
『いもすきゅ! スキュラ妹に全身絞め放題されるザコ戦士ぼく』
おいおい。
おいおい。
「ねぇ暗くてよく見えない、アタシにも見せてよー」
「え!? こここれはよく調査する必要があるな! きき君たちは一旦出ていなさい」
素早く石を戻し箱を閉じる。
危ない危ない。
怪しむドクンちゃんを外に追いやると、箱の中を改めて整理した。
内容物はいかがわしいラベルの貼られた魔石(?)が二十個。
一つとして同じラベルはなかったが、すべてに共通するのが……
「全部モン娘や」
ハーピィーだのラミアだのケンタウロスだの。
すべてが人間部位をもつモンスターの名前だ。
そして文言から察するに、これは――
「異世界アダルトビデオ……ッッ!!」
僥倖。
再生方法はすぐにわかった。
手に乗せて石に意識を集中すると19インチくらいの画面が宙に投影されるのだ。
この技術、元の世界でも欲しかった。
「なんとまあ、めくるめく……!」
てんやわんや、入れかわり立ちかわり、くんずほぐれつ。
詳細は伏せるがとても……とてもいいものだった。
異世界に来てよかった。
下半身の聖剣が失われていなかったら、俺は性義の勇者になっていたかもしれない。
「とはいえ持ち歩くのは危険すぎる」
戦闘の衝撃で壊れてしまうかも。
それとドクンちゃんにバレたらかなり面倒そう。
……勇者が秘匿するわけだ。
モンスターを狩りながら、実はモン娘愛好家とはな。
これは俺の胸の内に秘めておこう。
丁重に宝箱へしまうと俺は地下室を後にしたのだった。
必ず戻る、そう誓って。
「ねぇマスター、結局なんだったのさ」
「壊れた魔石だったヨー」
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