21話 怪奇! 肉を食らう箱を追え!

 コカトリスを倒した経験値でワイトからマミーに進化した俺。

 ついでにSPを使って新スキルを獲得している真っ最中。

 肴はコカトリスの焼き肉だ。


 ――で、今度はSPで上げたスキルについて。


<<闇魔法Lv3:闇魔法の強化 新しい呪文の解禁>>

「闇魔法だけ要求SPが低いのなんで? 属性魔法は倍くらいSPかかるのに」

「適性があるのよ。だってマスター、アンデッドじゃん」

「水属性使いたいなぁ」


<<死霊術Lv3:死霊術で作られた配下を強化 配下の上限数を拡張 配下の対象を拡張 新しい呪文の解禁>>

「メインウェポンだからな」

「Lv2だとコカトリスのスケルトン化無理だったものね、今度はいけるかしら」


<<統率Lv2:配下を強化>>

「死霊術とナイスコンボ」

「アタシも強くなっちゃうからね!」


 ……むっ?

 統率をLv2に上げた直後、新たなウィンドウがポップした。


<<統率Lv2:配下にスキルを共有できるようになりました スキルを選択してください 共有上限レベル:2>>


 続いて俺が獲得しているスキルの一覧が表示された。

 どうやらマスターである俺のスキルを選択して、ドクンちゃんやスケルトンズにシェアできるみたいだ。

 

 ……いろいろ操作してわかった。

 『共有上限レベル2』っていうのは『合計スキルレベルが2に収まるスキルをシェアできる』ということ。

 つまり『魔法耐性Lv1』+『物理耐性Lv1』=2 みたいなパターンか、

 『統率Lv2』=2 ってパターンになる。


 『統率』は配下であるドクンちゃんたちにシェアしても意味ないっぽいけど。

 シェアするスキルはいつでも選びなおせるから、

 今はのところは『魔法耐性Lv1』+『物理耐性Lv1』にしておこう。


 あとワイトのときから被っていた兜はホブスケに渡した。

 これでホブスケは鎧一式を着込んだ、正真正銘の骸骨戦士だ。

 武器も新調してあげたいなあ。


「早いとこマミーの体に慣れないとな」


「なんか変わったの?」


「例えばこんな風に――」


 フライパンで焼かれてる肉に意識を集中する。

 そのまま指を向けると、包帯の端がゆっくり伸びて肉を包んだ。

 感覚的には指が増えた感じだ。

 

「アタシとおんなじ、触手友達だね!」


「嫌なコミュニティだなぁ……あっ」


 しまった、そう思った時には包帯が肉を取りこぼしていた。

 宙に舞う焼き鳥……をキャッチする、ハサミ。


 ……ハサミ?


「あら」


「え?」


 枝切ばさみのようなそれは、肉を口へと運んだ。

 正確には口があるであろう箱の中へと。


 咀嚼するかのように動く宝箱が、いつの間にか俺の背後にあった。

 もちろん、これは普通の宝箱じゃない。


「フュージョンミミックじゃん、なんでこんなところに」


「匂いに誘われてきたのかしら」


 その正体は宝箱に擬態したモンスター、フュージョンミミックだ。

 以前、剣を見つけた部屋にいたモンスターで有用な習性をもつ。

 利用価値がありそうだから生かしておいたモンスターだが……。

 

 どうやら焼き鳥の匂いにつられて、自分で扉を開けてきたようだ。

 意外と賢いぞこいつ。


「心なしか美味しそうね」


「だな」


 肉を味わっているのか、上下に揺れる箱。

 このモンスターはダンジョンに落ちているアイテムを主食としている。

 で、食べたアイテムを融合させたような排泄物を吐き出すのだ。

 前は折れた剣とゴーレムの欠片で、ストーンソードを作ってくれた。


「コカトリスの焼き肉だと何が出るんだ?」


「もっと欲しがってるみたいよ」


 ダンスのようにハサミを揺らしている。

 アイテムを吐き出させるには複数のアイテムを食わせる必要がある。

 もう一つ何かを食べさせなくてはいけないということか。


「おかわりどーぞ」


 肉をもう一つ。

 食べるミミック。

 揺れるハサミ。


 肉をもう一つ。

 食べるミミック。

 揺れるハサミ。


 肉をもう一つ。

 食べるミミック。

 揺れるハサミ。


 ……一向にアイテムを出さない。


「そろそろなんか出せオラァ!」


「ドクンちゃんさん!?」


 ミミックに蹴りを入れるドクンちゃん。

 忘れていたが彼女はミミックを敵視している節がある。

 どうやらマスコット枠の競合相手らしい。


 喧嘩勃発か、と思いきや沈黙するミミック。

 そして激しく震えだす。

 一度見たぞ……これは、合成の前兆だ。


 ……ごくり。


 ゆっくりと蓋、というか口が開かれる。

 いったい何が吐き出されるんだ?


「あっ!!」


「コラ!」


 次の瞬間、飛び出たハサミが剣と妖精瓶を奪って喰らった。

 あまりの早業に対応が遅れた俺たちだが、我に返るとミミックをこじ開けにかかる。


「テメ! ナニシテンダコラテメ! ザケンナコラ!」


「本性現したわね! あんたは箱じゃなくてブタ箱よ!」


 全く動じないミミック。

 せっかく手に入れた剣も、キレイな精霊もまんまと食われてしまった。

 ここにきて素手に逆戻りかと思ったそのとき……。


 ――ゲッ、プ。


「うおっ!?」


 盛大なゲップとともに何かが吐き出された。

 一振りのショートソードだ。

 

<<アイスブランド アイテム レアリティ:レア>>


<<決意の刻まれた剣 帯びた魔力により敵を凍結する>>


<<勇者の覚悟と同じく決して錆びることも折れることもない>>


 刻まれた文言はそのままに、石製から材質が変わっている。

 鉄製ぽいが、刀身が白い靄をまとっている。

 ドライアイスにつけていたかのようだ。

 握ってみるとひんやり気持ちがいい。

 どうやら氷の魔力を帯びているみたいだ。


「氷の精霊が剣に入っちゃったのね」


「これはこれであり、か?」


 顔を見合わせる俺とドクンちゃん。

 その横でミミックは未だに肉をおねだりダンスしていた。

 

 俺たちの焼き鳥パーリーはこれからだぜ!

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