20話 焼き鳥パーリー
Lv45のコカトリスを下したLv20のワイト俺。
スキュラに精霊に新技にと、すべてを出し切って辛くも勝利を収めた。
勝利の後は……宴じゃ! 宴じゃ!
コカトリスの激闘を制したその部屋で。
石と松明、落ちていたフライパンで即席の焼肉パーティー真っただ中の俺たち。
部屋中に香ばしい煙が漂っている。
「そこでこう言ってやったわけよ、お前は熟女の何もわか――それ俺の肉だぞ!」
「っさいわね……ンマーイ!!」
触手に刺された鶏肉は宙を舞い、ドクンちゃんの口へ吸い込まれた。
俺のありがたい話を無視して焼肉のジューシーさにのたうち回っている。
「まぁいいや、肉は売るほどあるし」
ぶつ切りにした肉を熱したフライパンに追加投入。
代わりに焼けていた肉を口へ運ぶ。
弾力のありすぎるワイルドな食感が全力で顎を押し戻してくる。
正直、人間の体じゃ食えたもんじゃないが今の俺はモンスター。
この程度の硬さじゃアンデッドの邪悪な食欲は負けないのだよ。
全身骨だけの俺だが、飲み込んだ血肉は亜空間へ飲まれるように消えていく。
すると確かな充足感を覚えるのだ。
「うーん、とってもジューシー」
頬っぺた落ちちゃう。
こうなると調味料がないのが惜しまれる。
しかし肉というのは焼くだけでも格段にうまいのだと気づかされた。
生の死体もいいけど、調理済みの死体も美味である。
「で、ドクンちゃん何か思い出した?」
ドクンちゃんは今でこそ使い魔だが、もとはアイテムボックスを漂っていたレイスだ。
収納されているモンスターに憑依しては記憶を盗み見るのが趣味だったらしいが、
肝心のドクンちゃん本人の記憶は失われているのだ。
各部屋に収納されているモンスターを倒すと、ドクンちゃんの他の分身を憑依から解き放てる。
するとドクンちゃんに記憶が統合され、『かつての力』も戻るという話だったが……。
「大きな分身に近づいてる気がするわ。大きな分身ていうか、本体?」
本体が情報収集のため、レイスを手下にして漂わせたってこと?
「凶悪モンスターじゃないことを祈るばかりだ」
コカトリスの血を飲みながら思い出す。
ドクンちゃんは魔法の知識にやたらと長けている。
彼女のルーツをたどれば、アイテムボックスから脱出するような魔法も使えるのではなかろうか。
「俺からもお知らせがあります。このたび、めでたくLv25になりました」
勇者がアホみたいに高レベルの敵を送り込んでくるからな。
レベルアップが急なのよ。
「おぉー」
ぱちぱちと触手拍手するドクンちゃん。
それを手で制す俺。
本題はそこじゃないのだ。
「ついてはこちらをご覧ください」
「……?」
ぽかんとするドクンちゃんを尻目に、池へ入っていく俺。
ごぽごぽごぽ、と。
入水じゃないよ。
アンデッドだから溺れないけどね。
「おーい、マスター?」
頭まで水に浸かったら進化ウィンドウを確認。
すでに分岐は済ませたので、一段階上に進化するだけだ。
魔法と物理をそつなくこなる、中庸ルート。
その最初の形態がワイトだった。
さて、ワイトの次のモンスターは……?
<<xxx に進化します>>
オーディエンスのために一瞬伏せさせて頂きますご了承ください。
俺の体からやんわり光はじめ、やがて完全に包まれる。
外からだと水中が幻想的に光って見えるに違いない。
とはいえ光に包まれるという状況は、何度やっても心地悪い。
だいたい死ぬからな、包まれると。
発光が最高潮に達すると同時。
「とう!!!」
俺は水底を蹴って華麗に岸へ降り立った。
「おおおおおおお! マスターかっこいい!」
その姿、ワイトとは一線を画す。
手を叩いて小躍りする、我が手下たち。
「フ、フフフフフ」
たなびくのは白き衣。
包帯のようなそれらが全身を覆う。
包帯の隙間から黒く乾いた筋肉が、不気味にのぞいている。
今までが骨格標本だとしたら今度は人体模型に近い。
……内臓は無いけど。
指は細く爪は鋭く、なにやら怪しく濡れ光る。
筋肉がむき出しの恐ろし気な顎。
口からは舌が蛇のようにうねる。
そして空虚だった眼窩には眼球が戻り、恐怖の視線をまき散らす。
「これがNEW俺――」
<<マミー に進化しました>>
「俺がマミーになったんだよ!!」
「アハハ名前ださー! バブー!」
指さして笑うドクンちゃんとホブスケ。
お前ら俺の部下だよね……?
「うるせえわ! 全世界のお母さんに謝れ!」
そっちのマミーとは綴りが違うんだよ! ……たしかね。
マミーは特に映画で人気のアンデッドだ。
ピラミッドを冒険家が探検すると大体悪役はマミーである。
ミイラ男といえばそれまでで、外見はまんま動くミイラだ。
面白いことにマミーは作品によって強さの振れ幅が大きい。
弱い作品だとヴィンテージなだけのゾンビ。
強い作品だと魔法や超能力を操ったり――それこそリッチみたいにやりたい放題だ。
広く見られる設定は病気や呪いの力をもつこと。
ピラミッドの調査員が不審死を遂げたエピソードから来てるんだろう。
しかもレベルアップ分と、進化ボーナス分で結構SPが貯まったぞ。
焼き肉を突っつきながら、俺たちはスキル談議に花を咲かせた。
そして最終的にこうなった。
=====
フジミ=タツアキ(未使用)
Lv :25
種族:アンデッド
種別:マミー
称号:転生者
ユニークスキル:セカンドライフ 生命吸収 精神吸収 マヒ毒付与
スキル:不死 自然回復Lv3 闇魔法Lv3 死霊術Lv3 剣術Lv1
MP回復Lv1 MP拡張Lv1 統率Lv2 マヒ毒強化Lv1
恐慌強化Lv1 毒耐性LvM 呪耐性LvM 魔法耐性Lv1
物理耐性Lv1 火耐性Lv-4 聖耐性Lv-4 (鑑定Lv1)
=====
「先に言っておくけど『未使用』はとれないと思うわよ」
「存在が不具合だもんね、俺……」
特性というのだろうか。
ワイトに進化したときもそうだったが、自動的に増減されるスキルたちがある。
<<精神吸収:傷つけるたびに相手からMPを吸収する>>
「生命吸収のMP版だな。実に使いやすそう」
「ガン攻めが捗るわね!」
<<自然回復Lv3:時間経過でHPが回復する>>
「助かる」
「助かるわね」
<<マヒ毒強化Lv1:マヒ状態の持続時間が伸びる>>
「マヒ毒付与とコンボ! これSP使って取ろうすると、めっちゃ高かったんだよねラッキー」
「マスターの爪が濡れてるのって、ひょっとしてマヒ毒?」
<<毒耐性LvM 呪耐性LvM:該当の属性・効果を無効化する 自身のレベルが高い場合は反射する>>
「おお、ナイス! ところでMってマゾ――」
「MASTERのMよ。なにイヤらしいこと考えてるの! このブタ!」
「あっ///」
<<火耐性Lv-4 聖耐性Lv-4:該当の属性・効果に大幅に弱くなる>>
「どんどん下がってついに-4……こわいよぅ」
「喰らわなければいいのよ」
じゃあ今度はSPで上げたスキルについて話そう。
……このとき俺たちは気がついていなかった。
背後から忍び寄る、怪しげな影に。
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