7話 新たなる仲間、現る
<<進化条件を満たしました 進化を実行しますか>>
このメッセージウィンドウを前に、俺はめちゃくちゃ悩んでいた。
番外編として0.5話作れるくらいには悩んでいた。
ゴブリン一味との戦闘、そして食事により俺のレベルは一気に上がっていた。
なんとレベル4から15である。
最後のネームドゴブリンがやたらと強かったのが原因だろう。
ドクンちゃんによると奴はホブゴブリンらしかった。
ゴブリンの上位種だ、どうりで強いはずである。
そして、よくあるゲームよろしく俺は上位のモンスターへ進化できるらしい。
実行、と念じる。
すると系統樹のような図がポップした。
進化ツリーとか呼ばれるモノかな?
進化のルートを示しているのだ。
「うほっ壮観」
この図を最初にみたとき、俺はめちゃくちゃテンションが上がった。
だってゲームや物語のモンスターになれちゃうんだぜ?
閉じ込められちゃいるけど、異世界に来てよかったと思ったね!
では気をとりなおして。
系統樹の末端、一番下の光るところにダストゾンビが位置している。
ダストゾンビの上がゾンビ。
ゾンビの次はルートが3つに分かれている。
さらに上っていくと見覚えのある強力アンデッドモンスターの名前が並んでいた。
残念ながらアンデッドモンスター以外の名前はない。
エルフとは言わなくとも、せめて生身になりたかった……。
俺はどうあがいてもアンデッドらしい。
「って、ダストゾンビの次はゾンビじゃん。まだ分岐選べないじゃん」
「マスターはゾンビの次の進化条件も満たしているから大丈夫よ。
3択から選べるわ……ほら飛び級みたいに」
そうなの?
ゾンビをヘルプ参照する。
<<進化条件:①Lv15達成 ②生物を10匹以上捕食する >>
そっか、ゴブリンたち11匹食べたからね。
系統樹の説明をすると長くなるので割愛。
ゾンビから3つの選択肢が用意されているが、俺は決めかねていた。
物理寄りのスケルトン、魔法寄りのレイス、そして中庸のワイトが選択肢だ。
スケルトンは再生能力が高い。
レイスは物理攻撃を無効化するが、アイテムを使えない。
ワイトは魔法が得意で、再生能力もちょっとあるとか。
「アタシはここだったのよ」
レイスを指すドクンちゃん。
「……待てよ、ドクンちゃん壁すり抜けてたよな? てことはレイス超強いのでは?」
「思い出したけど、壁抜けはドクンちゃん特典だから通常のモンスターじゃ無理よ。
アイテムボックスの壁は単純な構築物とは違うの。
魔法的な、結界に近い感じ?」
「ダンジョンぽいけどアイテムボックスの中だもんな、ここ。
とはいえ物理無効はブッ壊れて強いだろ」
「そうねー、でもアイテム使えないのマスター耐えられる?」
「……無理だな」
レイスは霊体ゆえにアイテムに触れない。
アイテムボックスという名のダンジョンでは、アイテムは重要な資源だ。
これが縛られるデメリットは看過できない。
ていうか面白くない。
迷った末、俺は一つの方針を立てる。
「次の部屋のモンスター見て決めよう!」
臨機応変に行こうではないか。
ここ、ゴブリン部屋にはレバーが2つある。
前の部屋に戻る用と、進む用だ。
「いくぞー」
進むためのレバーを持ち上げる。
壁の一部がスライドし、次の部屋への通路が現れた。
ドクンちゃんがペタペタ走り、向こうをのぞき込む。
少し待つとこちらに手で合図をよこした。
偵察を終えたのだ。
レバーを下げ、通路をふさぐと作戦会議がはじまる。
「なにも見えなかったよー、宝箱はあったけど」
「そんな馬鹿な」
もしやお宝だけあるボーナス部屋なのか?
俺たちはしばし考える。
「むむむ……」
姿が見えないモンスター。
小さい、いや透明か……?
わかった!
「レイス」
「スライム!」
同時に閃いたものの回答はちがった。
けれど、どちらもありうる話だ。
俺が知るスライムは天井にはりつき、獲物が真下にきたら襲い掛かるモンスターだ。
そうなるとドクンちゃんの低い視点では視認できなかった可能性がある。
一方でレイスは幽霊のようなモンスターだ。
進化のときにも触れたが、霊なのでこちらも基本的に見えない。
そしてスライムもレイスも、その特性ゆえに物理攻撃に強いことが多い。
ならば魔法を使えば有利がとれるだろう、ゲーム的に言えば。
「じゃあ中庸のワイトに決定!」
「けっきょく普通じゃーん、つまんないのー」
魔法が使えて再生能力も少しあるワイト。
なにごともバランスが大事なのだよ。
俺はさっそくウィンドウを操作し、ワイトを進化先に指定する。
ところで進化するときってBGMほしくならない? 俺だけ?
<<ワイト に進化します>>
淡泊なメッセージとともに俺は光に包まれる。
本来ならワクワクする演出だ。
しかし光に包まれて死んだ俺にとっては、なかなか落ち着かない。
<<ワイト に進化しました>>
「体が軽いな」
徐々に光が収まると、俺は黒いローブをまとっていた。
高級感はない、ぼろ布だ。
腕を見る……限りなく骨だ。
筋肉がないのに動いている不思議。
胸、腰、下半身。
ぜんぶ骨だった。
顔をなぞる……うん、硬い。
目玉もないぞ! どこまでも指が入っていく!
「なんか、喪失感でちょっと泣きそう」
「最初はみんなそうだよー」
ドンマイドンマイとドクンちゃんが励ましてくれる。
一人だったら体育座りをしていたかもしれない、ありがとう。
そうだよな。
こいつなんて霊だったうえに、今は俺の心臓だもんな。
ていうか残存する唯一の肉ってドクンちゃんだけかよ。
なんか複雑。
とはいえ胸を満たしているのは紛れもない高揚感だった。
人間からゾンビ、ゾンビからワイトへ進化した俺。
自分は夢にまで見た世界の住人になれたのだ。
そして今、もっと強力な存在へと階段を上っている。
いずれは最強のモンスターへなってやる!
そして異世界を見て回るんだ!
ククク……ハハハハハハ!
ガリガリガリガリガリ
「マスター、興奮しすぎて歯ぎしりヤバイよ」
「おっといけない、俺としたことが。ステータス確認しとかないと」
=====
フジミ=タツアキ(未使用)
Lv :15
種族:アンデッド
種別:ワイト
称号:転生者
ユニークスキル:セカンドライフ 生命吸収
スキル:不死 自然回復Lv2 闇魔法Lv1 死霊術Lv1 恐慌強化Lv1
毒耐性Lv5 呪耐性Lv5 魔法耐性Lv1 物理耐性Lv1
火耐性Lv-3 聖耐性Lv-3 (鑑定Lv1)
=====
やっぱり掃除屋は消えちゃったか……便利だったのに。
先に食事しておいて正解だったわ。
闇魔法と死霊術が使えるようになったのか、これは楽しみ。
『生命吸収』ってのはなんだ?
<<生命吸収:パッシブスキル>>
<<相手を傷つける度に生命力を吸収する>>
「いいねぇ、アンデッドって感じで」
『自然回復Lv1』と合わさってますます固くなりそうだ。
ところで(鑑定Lv1)ってなんだろ。
もってるのこれ? もってないの? どっち?
「共有スキルだよ。使い魔のアタシがもってるからマスターも使えるの」
だから最後のゴブリンがネームドだって分かったのか。
「って超大事じゃん、早く言って!?」
「だってそれどころじゃなかったじゃん」
でしたね、ゴブリンすぐきたもんね。
でも骨にする前に鑑定してみたかったよゴブリン。
念願の鑑定が手に入ったんだ、よしとしよう。
とりあずドクンちゃんを鑑定してみる。
<<Lv10 種族:フレッシュミミック 種別:魔法生物>>
アンデッドじゃないんだ。
ミミックの一種だったのね、アナタ。
ミミックとは擬態して補食をするモンスターだ。
宝箱に歯が生えて、舌が出てるビジュアルが有名だね。
そのあと、貯まっていたSPで『MP回復Lv1』 と 『MP拡張Lv1』 を獲得した。
『MP拡張Lv1』も『MP回復Lv1』も文字通りのスキルだろう。
これから魔法をガンガン使うからな、立ち回りやすくなるはずだ。
次は『死霊術』を試してみよう。
Lv1で使えるのは『クリエイトスケルトン』だけか。
<<クリエイトスケルトン:闇魔法>>
<<生物の死骸からスケルトンを作成する>>
いかにもアンデッドぽくてワクワクすっぞ!
積み上げたゴブリンの骨山に向かっていざ詠唱!
「クリエイトスケルトン!」
俺の視界に青いゲージが現れ、半分くらい短くなった。
初めて使ったけどMPゲージだ。
使える魔法の総量を示しているのだ。
一旦減ったあとは、じわじわと回復している。
――がしゃり。
骨の山が音をたて、一体のスケルトンが這い出てきた。
素材通り、ゴブリンサイズのスケルトンだ。
鑑定してみよう。
<<Lv3 種族:スモールスケルトン 種別:アンデッド>>
「スモールだってーカワイイー」
ドクンちゃんは後輩ができて嬉しそうだ。
所在なさげに立つスケルトン。
指示待ちスケルトンである。
「命名、お前はゴブスケだ」
「さすがマスター、ナイスネーミング!」
丸腰じゃなんなのでゴブスケには長めの骨を持たせておいた。
彼にはこれから『アンデッド魔術師、俺』の忠実なる護衛として働いてもらおう。
その後もう一回クリエイトスケルトンを試したけど失敗した。
<<召喚数がスキルレベルを超過します>>
……とのこと。
逆に言えば、スキルレベルを上げれば軍団を作れるのかも。
死霊術、楽しくなりそうだ。
さて闇魔法の試し撃ちも済ませて、いよいよ次の部屋に乗り込むことに。
俺たち三人パーティーに死角はないぜ!
待ってろよ! 見えない敵め!
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