2話 脱出を誓う俺と、気づいてしまった勇者


 そっか、異世界でも死んだのか俺。

 現実世界に悔いはあんまりなかった。

 諦めの境地に達していたからな。


 でもなぁ、せっかく転生した異世界はエンジョイしたかった。

 だって夢にまでみたファンタジー世界だぜ?

 剣と魔法の大冒険だぜ?

 エルフとかダークエルフとか獣人とかお友だちになりたかったよ。

 むしろ結婚したかったよ。

 種族を越えた愛を育みたかったよ。 


「ん? じゃあここはどこなんだ?」


<<ユニークスキルが発動>>


 びっくりした。

 視界にいきなりウィンドウがポップする。

 神妙に考えこんでいたもんだから不意をつかれたぜ。


<<パッシブスキル:セカンドライフ が失効しました>>


「パッシブスキル? というとココは異世界では!?」


 パッシブスキルとは、スキルを獲得した瞬間から効力を発揮し続けるスキルのことだ。

 知ってますよ、ゲーム少年……おっさんでしたから。

 セカンドライフがどんなスキルかはわからないけど。 


 ともかくメッセージウィンドウだのスキルだのが出てくる以上、ここは異世界で間違いない。

 やったぜ!

 神は俺を捨てていなかった!

 女神には捨てられたけど。


 興奮のあまりガッツポーズをとったところ、視線が勝手に下を向いた。

 おっと、目玉がとれかけたようだ。

 雑に押し込んでおく。


「セカンドライフってなあに?」


<<パッシブスキル:セカンドライフ>>

<<生身の術者が死亡した場合、1度に限りアンデッドとして復活する>>

 

 ぐちゃぐちゃ状態で平気なのはセカンドライフのおかげだったわけだ。

 ていうか人間辞めてんのか俺。

 どうせならドラゴンとかエルフとかになりたかったなぁ。

 エルフに、なりたかったなぁ。 


「失効てなあに?」


<<失効とは:スキルには使用/発動回数に上限があるものが存在します>>

<<回数上限まで発動されたスキルは以降、使用/発動できません>>

<<この状態を失効といいます>> 


 俺もうアンデッドになったから失効したわけね。


<<なおヘルプ機能は強く念じるだけで実行可能>>


 そりゃどうも。

 そうだ、お約束しないと。


「ステータスオープン!」


 唱えると期待通りのウィンドウがポップした。


=====


フジミ=タツアキ(未使用)

Lv  :1

種族 :アンデッド

種別 :ダストゾンビ

称号 :転生者

ユニークスキル:セカンドライフ 掃除屋

スキル:不死、自然回復Lv1、毒耐性Lv5、呪耐性Lv5、

    火耐性Lv-3、聖耐性Lv-3


=====


「おおっ、ダストゾンビ……?」


 「俺自身のステータス」っていいよね。

 ゲーマーなら誰もが憧れるんじゃない?


 結構スキルをもってるじゃないの。

 ユニークスキルのうち、セカンドライフがグレーアウトしてるのは失効しているからか。

 掃除屋というのは、種別:ダストゾンビと関連してそうなネーミングだ。

 

 残りのスキル群について考察する。

 スキルLvの下限上限は不明だが比較すれば傾向はつかめる。

 俺は毒と呪いに強いけど、火と聖なるものに弱いわけだ。

 ゾンビだしね。


 一番謎なのがこれだ。


 フジミ=タツアキ(未使用)


 ……未使用。

 ど、どどど童貞ちゃうわ!


 そういえば、と股ぐらをまさぐる。

 オッケー、1個は無事だ。

 使いどころがあるかは知らんけど。


「で、だ」

 

 これからどう生きよう……いや、「死んでいこう」か?


 勘のいい俺は転生にまつわる事情がだいたい予想できていた。

 俺は女神に利用されたのだ、勇者に聖剣を届けるためだけに。

 女神にとって転生させる人間は誰でもよかったに違いない。

 肝心なのは転生特典の聖剣なのだから。


 聖剣を勇者に届けるためには運び屋が必要だったのだろう。

 運び屋に聖剣をもたせ、勇者のもとへダイレクトに降下させる。

 勇者は聖剣でもって魔王を倒し、めでたしめでたし。

 役目を果たした俺が死のうが構わないというわけだ。

 清々しいまでの使い捨てっぷりだ。


「とはいえ勇者に復讐したいほどじゃないんだよなぁー」


 仮にチートなすんごい力が手に入ったとして。

 勇者を殺すために生きるほどバイタリティないわけで。

 恨み募らせるほど異世界に愛着もってなかったし。

 それにしても転生した瞬間殺されるて。

 リスポーン狩りかよ、我がことながら笑うわ。


 待てよ、逆に考えよう。

 俺にしがらみは一切ない。

 転生の義務は果たした。

 何をしても自由なわけだ。


 ならば今度こそ、謳歌してやろうではないか。

 剣と魔法の異世界生活を!

 そしてエルフやらダークエルフやらと過剰に仲良くなってやろうではないか! 


「そうと決まれば脱出だ!」


 ぼと。


 張り切って立ち上がると、また目が落ちた。


 ……


 そもそもこの体で、異世界に馴染めるのだろうか?


***


 月夜。

 貸しきられた闘技場の中央で一人、佇む者がいる。

 闘技場を貸しきりにできるだけの地位を持つ者は、そうはいない。

 手には神々しい剣。

 精緻な紋章を施された刃が月光を反射し煌めいている。

 聖剣エーテルエクスカリバー、勇者の剣である。


「さーて、今宵はどんなモンスターで試し切りしようかなっと」


 眼前のウィンドウには何かの名前がびっしりと並んでいる。

 ウィンドウのタイトルは「アイテムボックス収納物一覧:種別 モンスター」とある。

 勇者は指を下から上へなぞりあげ、リストを下へ送っていく。

 やがて白い指が一点で止まった。


「ダストゾンビのネームドモンスター? フジミ=タツアキ? なんだこいつ」


 ダストゾンビはアンデッド属最下級の雑魚モンスターだ。

 死肉を求めて徘徊するのろまである。

 ネームドモンスターとは、討伐困難な苛烈さをもつことから通り名を与えられた個体を示す。

 しかしダストゾンビは雑魚のなかの雑魚。

 多少強い個体がいたとしてもネームドになるとは思えない。

 ネームドなのに雑魚……矛盾する。


「まあいい、呼べば分かる」


 まとめて「収納」したときに見落としていたのだろう。

 そう思い当たり、勇者は「フジミ=タツアキ」を選択する。

 速やかに空間魔法が発動し、哀れな練習台が召喚される。

 ――はずだった。いつもならば。


<<召喚エラー:不正な対象>>


「はあ? なんでだよ」


<<例外処理:転生者を対象とする収納/召喚は禁じられています>>


「転生者、だと……まさか」


 勇者はようやく思い出した。

 自分が闇に葬った、矮小な存在を。

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