転生したのに死にました~アイテムボックスに追放された俺は最強アンデッドになって華麗に脱出したい~
備前島
1話 転生したのに死にました
水滴が顔に滴り落ち、俺は覚醒した。
苔むした石づくりの天井が見える。
背中がひんやりと冷たい。
たぶん床も石づくりだ。
静かだ。
時折、どこからかネズミの鳴き声が聞こえるくらい。
「なにがどうなってんだっけ」
寝起きのように頭も目もぼんやりしている。
目を擦ろうとして気がついた。
……?
俺の左腕は、消えていた。
というよりも、体半分がごっそり抉れているのだ。
頭は無事だが、左肩から左足までが丸ごと。
見慣れたモヤシボディは右側だけで、左側といえばスプラッタ映画さながらの断面図である。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!」
派手に叫んでおいてなんだが、痛みはない。
死ぬ直前だからだろうか。
一体全体なにが起きたら半分人間になるのだろう。
記憶をたどる。
俺の名前は富士見 竜明(ふじみ たつあき)。
どこにでもいる普通の会社員。
趣味はゲームとお昼寝。
俺は今日、車に轢かれた。
そして気がつくと光のなかで、この世のものとは思えない美人と対面していたのだ。
実際、彼女は転生を司る女神であり、この世のものではなかった。
そうだ、俺はーー。
***
「ここは一体……」
「えーと藤井さんこの度はご愁傷さまです突然ですがあなたを異世界に転生させることにしました、つきましてはーー」
「えっ異世界に転生するんですか!? 剣と魔法な感じですか?
俺好きですよ任せてください! エルフは? エルフはいますよね!?」
女神が俺の疑問に答える素振りは一切ない。
人の顔も見ずにぺらぺら口上を述べるだけ。
こいつは他人を平気で舐めくさるタイプの美人だ。
つまり性格ブスだ。
そして俺の名前は藤井ではない。
「で転生特典として聖剣エーテルエクスカリバーを授与します最後にステータスとユニークスキルを決めてください、はい5、4、3……」
「ちょちょちょちょちょ!!」
突如、目の前に現れたゲーム画面のようなウィンドウ。
そこにはお馴染みの各パラメータとユニークスキル欄があった。
きちんと読む暇も与えず、女神のカウントダウンは無慈悲に0を告げる。
「はい0。じゃ全部ランダムにしておきますそれでは気を付けていってらっしゃーい、はぁ疲れたダルっ」
「はっ!? ランダムっておい待て! 待てって! エルフは!?」
目の前が光に包まれる。
足元に感じる風、重力。
「えっ落ちる!?」
急降下する直前に見えたのは、かったるそうに首を捻るクソ女神だった。
ーー目まぐるしく変わる状況。
次に俺が立っていたのは城のなかだった。
石づくりの壁と、とにかく高い天井。
ぶらさがる華美なシャンデリア。
そしてこれまた見事な玉座。
きっと王の間だろう。
「ここまでだ勇者、お前に剣は残されてい……むっ、天から剣が降ってきただと!?」
俺に背中を向けるのはバカでかい錫杖をもった男。王さまかな?
対するは燦々と輝く鎧をまとったイケメンだ。
彼の足元には一振りの剣が刺さっている。
落下中にちらっと見えたが、俺と一緒に降ってきたものだ。
イケメンは剣を引き抜くと、これまたスタイリッシュに構えた。
「女神様、たしかに受けとりました! これで決着をつけるぞ魔王!」
「バカな、このタイミングで女神が剣を授けたというのか……!?」
訂正。
ここは魔王の間みたいです。
そしてイケメンは勇者とのこと。
「そう、あれは真の勇者だけが振るえる伝説の聖剣……」
「エーテルエクスカリバー!!」
勇者の仲間なのだろう。
魔法使い風の女の子と、戦士風のお姉さんが声を揃えている。
……ん? いまなんて言った?
「聖剣エーテルエクスカリバーって俺の転生特典じゃないの?」
女神が早口でそんなことを言っていたよね。
勇者は俺じゃないんかい。
俺の疑問は誰の耳にも入らない。
聖剣の輝きが増し、勇者の体も呼応し光を放ち始める。
まるで2つの太陽が互いを増幅させているかのようだ。
振りかぶった刃は極太の光の柱となる。
屋久杉ってあんな感じだったなぁ、とか思い出す。
振り下ろされた光の柱は天井を崩壊させながら魔王に迫る。
めちゃくちゃ眩しい、そして熱い。
「すべての希望のために今こそ解き放つ!
「いっっっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
いっけぇぇぇぇぇ!じゃないよ。
俺、魔王の後ろにいるんですけど。
思いっきり射線上なんですけど。
「待て待て待て待て!!!」
あわてふためく俺。
なんとか灼熱の光から逃れようとする。
「フッ、これが人間の……愛の力か」
全力で走る最中、魔王の独白が聞こえた気がした。
頑張れよ! 諦めんなよ! 防げよ!!
間に合わない。
体中が焼けるようにアツい。
とくに左側は焦げ臭さすら感じる。
何度目になるのだろう。
またも光に包まれた俺は意識を失った。
……
……
……
「ねぇ、誰か倒れてるよ」
「ほんとだ、人間じゃん。うわ、こいつ死んでない?」
目が開いていないのか、光で馬鹿になっているのか。
とにかくなにも見えず、動けず、喋れず、声を聞くことしかできない。
さっきの魔法使い風と戦士風の女性たちだろうか。
「おい、どうした……げっ、半分吹き飛んでるよ。俺が巻き込んだのか」
イケメン勇者の声が聞こえる。
げっ、とは何だ。
そうだよ、巻き込んだんだよ。
回復魔法とかあるだろ、助けてくれ。
「アタシもう魔法使えないよ」
「回復薬も使いきっちゃったし。ていうか確実に死んでるでしょコイツ」
ギリギリ生きてるよ!
助けるつもりないの?
本気で言ってる?
「無関係の人を殺っちゃったなんて知れたらコトだよ」
「なんでコイツ魔王城なんかに居たんだろうね、ほんと迷惑」
「たしかに。 鑑定してみるか……プッ、転生者だぜコイツ」
笑い声が重なる。
「他の世界で死んで生まれ変わってきたってこと?」
「それで速攻死んでるの、笑えるんだけど!」
「ユニークスキルも意味不明だし、何のために転生してきたんだろうな」
まだ生きてるから!
誰一人俺の心配しないの?
そろそろ意識遠くなってきたよ?
体もなんか冷たくて重いし。
「まあいい、隠す手段なんていくらでもある」
しかし最後に聞いた人間の言葉は、何よりも冷たかった。
「空間魔法に隠蔽しよう」
そこで俺の命は、途絶えた。
***
右腕だけで上半身を起こす。
ぐちゃり、と嫌な音がした。
左を見る。
剥き出しの胸から臓器がこぼれ落ちていた。
「そうだ、俺は」
転がる臓器を呆然と眺める。
思い出した、自分になにが起きたのかを。
「俺は、転生したのに死んだんだ」
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