第17話 料理は女の嗜みだそうですわよ?
「この前シオンの喫茶店の子に料理は女の嗜みって言われたのだけれど、嗜みっていうのはどうなんですの?」
昼食を摂った後の食休み中、いきなり遊びに関係なさそうな話を振ってくるシュエリアに俺はドキっとした。
理由は二つ。
まずコイツは遊びに関係ない事に殆ど興味がない。そしてそんな奴が今読んでいるのが料理の本だからである。
それもリアルの、グルメ漫画で無しに、食べ歩き特集でも無しに、ガチの、料理をする人向けの、レシピとか載っちゃってる系のヤツの、だ。
これが普通の女子が同じ条件下で言ったのなら「年頃だから料理くらいできる女子力でも欲しいのか」と前向きに捉えられるのだが、それがシュエリアだと大分話が変わってくる。
コイツは料理が下手というより、料理でも遊び心を加えかねないからヤバい物が出来る事が容易に想像できる。
そんなシュエリアさんが料理に興味を持っている、それだけでもう危険なのだ。
「……どうっていうのは、何だよ?」
とりあえず無難に、下手にコイツが「料理をする!」とか言い出さないであろう程度に聞き返す。
間違っても「確かに料理くらいはできた方が女性らしいかもな」とか言ってはいけない。
そんなことをすれば俺の胃袋に穴が開いてしまう。物理的に。
「そうですわねぇ……嗜みといってもほら、お酒は嗜む程度、とか言うでしょう。それって好んで楽しみとして飲む程度で評論する程ではないとか拘る程ではなく少々、程々に好きっていう意味でしょう? でもこの場合の女の嗜みって、少々できるとか好んでする程度というような意味合いよりは女としてできて当然、的な意味合いな気がするのよ」
「あぁ、そういう」
まあ確かに「女の嗜み」とか言われてしまうと「嗜む程度」と言う若干謙遜的な言葉よりは「女の」と付くことで女という個であればやっていて当然という傲りのイメージが強くなるかもしれない。
つまりあれか、これは言葉の感じ方の話で料理は単に今読んでる本に影響されて出てきた単語で言ってしまえば料理から出た連想ゲーム的発想なのだろう。
「まあ料理は女性の心得としてあって当然のように言い切られている気はするよな」
「やはりそう思いますの?」
「そうだなぁ~、まあ確かに男性としては女性の、特に好いた人の手料理なんかには憧れるしそういう時が来て女性が出来て当然って感じで作ってくれたらカッコいいとは思うかもな。俺は自分でできるからそうでもないけど」
「最後の一言が余計ですわね……でもまあ、わかりましたわ」
そういうとシュエリアは読んでいた料理本をパタンと閉じてソファーから立ち上がった。
「わたくし、料理しますわ!」
……………………はぁっ?!
「どうしてそうなった!」
「どうしてって、今しがたそういう話をしていたじゃない」
「いや、そうだけど、今のは嗜みって言葉に含まれる相手に与える印象の違いの話なのでは……」
「あれはただの例え話でしょう?」
マジでか……マジでただのたとえ話だったのか……。
「ということで料理するから、審査員としてシオンに来てもらうように実はもう連絡済みですわ」
「手回し早いな……お前もう完全に俺ん家を私物化し始めてるだろ」
「あら? そんな、今更何を。ユウキ事態が私物のようなものですのに」
「それはアレだよな、恋人とか夫婦的な意味の、甘い意味での『私の物』ではなく、単に私物ってことだよな」
「そう言ってますわ?」
はぁ……これが甘い意味での「貴方は私だけの物!」みたいな発言ならまだよかったのだが、まあこの駄エルフにそれを求めるのも酷か。
ぶっちゃけ俺は確かにコイツに一目惚れはした。
養うと決めたのも色々理由はあっても大半は美少女だからだ。
とはいえ、一目惚れとはそもそも容姿でするものだ。
つまり性格は二の次であり、その性格もコレなのだから、ホント見た目美少女ってだけで好きなんだよな、俺。
まあ、そんなことは今はどうでもいいわけだが。
「……んで、何作るんだよ」
「ん。そうですわね、シオンの喫茶店で作るメニューがいいですわ。私が料理をできないせいでその分働けていないことに最近不満を覚えていますの」
おぉ? この駄エルフが仕事をできていないことに不満を?
料理をするなんて言い出しやがったからかなり斜に構えていたがこれはもしやいい傾向なのでは――
「周りの駄天使や駄ークエルフが料理できるのにわたくしだけ料理ができないなんて、わたくしのプライドに関わりますわ!」
――ああ、前言撤回、やっぱコイツはダメだ、アホだし馬鹿だし駄エルフだ。
「お前なぁ……確かにあの天使ちゃんは天使のくせに白衣の天使に憧れて地上に来るアホの子だし、ダークエルフの子も基本的に色仕掛け以外無能だけど駄ークエルフは酷くないか」
「そんなことより、あいつ等にできてわたくしが出来ないのは大問題ですわ! あんな連中に負けるなんて許されませんわ!」
この駄エルフ、プライドだけは結構高いなぁ……。
うーん……あんな連中ねぇ。
いくら割った皿が計り知れない数とはいえダークエルフちゃんは魔法で皿を戻せるからそんなに問題ないし。
天使ちゃんも天然でアホな子ではあるが基本的には真面目で仕事も丁寧。
うーん、負けてるな、料理できない分がなくても総合的に負けてる。
とはいえ、いやだからこそ、料理くらいはできた方がいいのか。
「じゃあなんだ、とりあえずオムライスでも作るか?」
「ふむ、そうですわね……そうしますわ」
そういうとシュエリアは台所に向かって歩き始め、俺はそれに続く。そしてシュエリアは続けて口を開く。
「ですがここで1つ問題がありますわ」
「なんだ? 問題って」
シュエリアはそういうとウーンと唸り、神妙な顔をして答えた。
「オムライスってライスの部分にケチャップを使うでしょう?」
「あぁ、そうだな」
「でも結局ケチャップライスの上にオムレツを乗せて、あろうことかさらにケチャップを掛けますわよね?」
「ま、まあな……」
あろうことかって……別に不味くなるわけでもないし問題ないのでは……。
そもそもケチャップライスはケチャップ単体で掛けるのとはまた違った味わいになるわけだし。
「ケチャップにケチャップを掛けるってどうなんですの?」
「いや、それは別だろ? ケチャップライスは別にケチャップの味だけそこまでするわけじゃないし、あれはどちらかといえば風味とかの意味合いがあるだろ? ケチャップにケチャップ掛けてるわけではないだろ」
「そうは言われてもやはり納得しかねますわ。わたくしの世界ではそういうことってなかったですもの」
「そういうこと?」
なんだろう「そういうこと」って。
「それってアレでしょう? つまりリンゴにリンゴの絞り汁を掛けるとか、イカにイカ墨を掛けて食べるような物でしょう?」
「いや、それは……どうかな」
「米に日本酒を掛けるとかチョコにココアパウダーを掛けるとか、コーヒーゼリーにコーヒー豆ぶち込むとか」
「……………………」
なんかこいつに料理させるのはヤバい気がするんだけど。
発想が突飛というか、かなりヤヴァイ。
てか日本酒に使う酒米は厳密には家庭に出るような一般米とは違うのだが……。
「豆腐に大豆由来の醤油とか、卵に卵黄使ってるマヨネーズとか、正直ビックリしましたわ?」
「そ、そっすか」
「えぇ、もう本当に。あれを見た時わたくし咄嗟に叫びそうになりましたもの――」
そういうとシュエリアはふぅっと息をついて口を大きく開き、眼を見開いて叫んだ。
「貴方達トマトにケチャップ掛けて食べるんですの?!」
「いや、ねぇよ!」
ホント大丈夫かな、コイツに料理させて。
そもそも原材料が同じである調味料っていうのは同じ材料を主材料にした料理に合う。
これは大抵味の差、特にうま味の差、性質がかけ離れ過ぎていないからだろう。
そもそも一口に旨いといってもそれは甘味であったり辛味であったり苦味であったり酸味であったりと様々。
それらの方向性として甘酸っぱいとか甘辛いとかいう複合でバランスを取ることもあるが大抵はその程度で甘辛酸っぱ苦いとかいうエキセントリックな味になるともうそれは旨くないだろう。
さらに、気を付けるべきことは味だけではない。
以前この馬鹿はコーヒーに炭酸水を足して「コーラっぽいしゅわしゅわ」を造ったことがあるがあれは完全な失敗だった。
これは単にコーヒーという飲み物の味を炭酸水で割ったから不味くなったというだけではない。
人の食で重要な物、それは「風味」や「食感」だ。
甘くて柔らかい食べ物。
甘酸っぱくてさっぱりした喉越しの飲み物。
と聞くと割といいイメージがあるのではないか。
で、だ。
甘くてネバネバした食べ物。
苦くてどろっと後味のある飲み物。
こう聞くとなんかあまりいいイメージはないのではないか。
まあこれに関しては主観でしかなく好き嫌いもあるので何とも言えないが、要は味と食感のバランスは大事だということだ。
「つまり俺は少し固めな麺類が好きだがでろでろに伸びた麺は好きじゃない」
「なんですのいきなり……」
「いや、こっちの話だ。まあ、確かに奇妙に見えるかもしれないが、結果的に美味しければいいと思わないか?」
「ん、まあ……それもそうですわね」
ふむ、とりあえず「原材料同じ調味料を掛ける」謎については納得してもらえたか。
「てことで、ケチャップは使えよ?」
「わかりましたわ。じゃあとりあえず、お米を炊くところからやろうと思うのだけれど、ライスを油で炒めてから炊くとパラッと炊けるって本当かしら」
「…………うん」
はい、またもピンチ。
コイツどこから持ってきたのか知らんけど妙な知識だけ持ってやがる。
確かに、細かいことは省略するが米を油で炒めると米がコーティングされて日本の米の特徴でもある粘り気等が抑えられてパラっとした食感に炊き上がる。
しかし、しかしだ。今ここでそれは関係ないのではないか。
オムライスに入れるのはケチャップライスであり、どちらにしろ多少なりともべちゃっとする。
まあ確かに、パラパラの米に合わせれば食感的によくなる可能性はあるにはあるだろう。
それでも素人が手を出すには流石に多少ハードルがある気がしないでもない。
「……その話は本当だと思う……が。今回はやらんぞ? そもそも姉さんのとこでもやらないのにここでやっても仕方ないだろ?」
ということで、どうせやったら失敗するのも明らかなので、とりあえずそれらしい理由でやんわりとシュエリアの案を拒否した。
「そう? そうですわね。なんだか多少残念な気がしないでもないですけど、今度試せばいいだけですものね」
「お、おう。そうだな……」
今度……今度があるのか……。
それは多少残念どころじゃなくとても嫌だな……。
「それで、お米は普通に炊くとして、オムレツは……どうするんですの?」
「油の代わりにバターを使って、強火でささっと、できるだけふわトロを目指して焼き上げよう」
「じっくり火を通すのではないの?」
「オムレツなんだから素早く焼かなきゃダメだろう」
オムレツの語源は「素早い男」というような意味合いのあるオム・レストから来ているそうだ。
そんなオムレツをじっくり焼くとか、ぶっちゃけありえない。
そして素早く焼くなら中まで火を通して硬く焼くより中は半熟程度に、ふわふわに焼くべきだ。
……で、まあそういう御託はそれはいいとして、だ。
「そんなことを思っているうちに焼きあがったオムレツですが」
「な、なんですの……言いたいことがあるなら言うがいいですわ」
俺はシュエリアが作った「オムレツ」をみて思う。
うん、まあ、うん。
これはなんというか、固定概念に囚われないなら素早く焼いた分にはオムレツなのかもしれない。
しかし形状的にはどうみても手のひらサイズの長方形でよくみる『卵焼き』である。
よくもこんな短時間で焼き上げたもんだ。どんだけ強火で焼いたんだコイツ。
「お前はこれをケチャップライスの上に乗っけるんだな?」
「う、うるさいですわ!! 仕方ないですわ! 初見プレイならこんなもんですわ!」
初見プレイって、俺を相手にした研修のときもオムライス作ってたじゃん……。
いや、あの時は姉さんがやったんだったか?
だとしても、コイツは姉さんのコスプレ喫茶で働き始めて結構経つのに料理がここまで出来ないのか。
「うん、まあ……いいけど、リトライしてどうぞ」
「ぐぬぅ……わかってますわよ!」
そういってシュエリアは新しくまたオムレツを焼き始めたのだが……。
「先ほどは形を整える際に卵をひっくり返し損ねたのが原因……つまりここで私は卵を……っとう!」
この阿呆、何を考えたのか卵を空中に放るようにしてひっくり返そうとして――
「秘技、空中回転!! ――って……あ! ちょ、ぬなぁあああっ!!」
シュエリアが高らかに放ったオムレツが空中分解して二つに割れた。
そして中の半熟トロトロが空中で四散。
辺り一面が黄色い飛沫でベタベタに。
てか女子が、仮にもエルフの姫が「ぬなぁあああ」て。
「…………これがオムレヅ〇か」
「これはオムレ〇ダのせいではない、わたくしのミスですわ!……て言ってる場合じゃありませんわ!」
こういう時でもネタを拾っていくスタンスは相変わらずのシュエリアだが、自分のミスをわかっているならやめて欲しい、卵さんが可哀そうである。
まあ今時受精卵なんてねぇけど、勿体ないのは事実だ。まあ食うけど。世間の目もありますからね。
「もう普通に焼けよ」
「普通にって、どうするんですの」
「いや、うーん」
普通にって、普通になんだよなぁと思いつつ、シュエリアからフライパンの主導権を奪い、俺が焼く。
「まずこうして」
「ふむ」
「ここで少しづつ層を造るようにひっくり返して」
「おぉ?」
「で、こう」
「おぉおおおおおおおお!! 凄いですわ?!」
この発言の流れだけだとどうなったかわかりにくいかもしれないがまああれだ、ほとんどミルフィーユみたいなもんだ。うん。
薄く焼いて折るように返して形をそれっぽく焼く。
と、そんな感じだ。ざっくりと。
しかしまあ、このアホエルフにはこれくらいが丁度いいと思うわけで。
「ようは、技術が無いなら頭脳でカバーするということだな……誤魔化しだけど」
「なるほどですわ……確かにこれには技術も何もない自堕落な独身男性の楽をしたい執念の成せる技ですわ!」
「……うん」
なんだろう、さらっとディスられた気がするのは気のせいなんだろうか。
「てことでお前も焼いてみ、残機はまだある」
俺はそういうとシュエリアに卵を渡し、リトライするよう促した。
「やってみせますわ……三度目の正直という奴ですわ!」
「二度あることを三度しないでくれよ?」
シュエリアは無い袖を捲る素振りをして気合を入れると卵を素早く溶き、焼き始めた。
「卵をこう……ヘラで返しやすいように薄く焼いて……リバースカードをめくる如く返して……」
なんかイメージというか動作が違う気がしないでもないんだけど、それでもなんとかそれっぽい形にはなってきている。
「……で、できましたわ!」
「ん、どれどれ」
シュエリアが焼いたオムレツを見ると、確かに形のよさげなオムレツになっていた。まあ若干変だが。
少なくとも長方形じゃないし、分裂もしていない。
「ふんっ、これが私の真の実力ですわ!」
自分でも納得いったのか、俺が評価を下す前から自信満々だ。
これは下手に褒めると調子に乗りそうだな。
「おぉ~、これで限界とかお前オワコンだなぁ」
「んぐ……限界とは言っていませんわ? 今の真の実力という意味ですわ!」
「さいですか?」
「さいですわ!」
まあ、焼き加減も問題はなさそうだし、後はもうそろ炊けるだろうごはんを待って――
『ピピーっ、ピピーっ』
「ん、飯炊けたか」
「いよっし! ここからが本番ですわよ!」
「おぉ、無駄に気合入ってるな」
オムレツが上手いこと焼けたのが余程に嬉しかったのか、さっきから表情がキラキラしている気がする。
コイツも料理とかできると嬉しいもんなんだな。
このまま料理が上手くなって家の料理長にでもなってくれれば俺も楽なんだけど。
「さて、次はどうすればいいのかしら」
「知らん」
「ふぇ?」
ケチャップライスの作り方も俺をあてにしていたのか、俺の知らないという言葉に動揺して変な声を出すシュエリア。
「いや、俺ケチャップライスとか作ったことねぇわ」
「え? いえ、でも。家でも食べますわよね?」
「あぁ、あれは実は姉さんが作った奴だ」
「…………」
ん、なんだ。
さっきまでキラキラしていた表情が一変、俺に対して「コイツ使えねぇ」と言わんばかりの呆れ顔になっているではないか。
全く失礼な奴だ。
この俺がこんな時のために何も策を打っていないとでも思っているのか。
「俺は知らんが、姉さんは知っている。なのでお前が料理の準備をしている間に実は姉さんにその辺の調理方を聴いてあるので問題はない」
「それなら安心ですわ? まったく、そういうことは先に言うものですわ」
「さいですか」
「さいですわ」
……まあ、いい。
俺がアウェーなのはいつものことだからな。
「てことでまず具材を切れ、そこのニンジンと玉ねぎとウィンナーをな」
「はいはい…………切りましたわ?」
見るとシュエリアは野菜を包丁を使わずに、魔法を使って一瞬でみじん切りにしていた。
以前から思っていたのだが、こういう妙なところでファンタジーを出してくるの止めて欲しい。
「……んでそれを油を敷いたフライパンで弱火から中火で炒める」
「ふむ……こうかしら」
「で、ケチャップと少量の醤油、コンソメ、砂糖を混ぜたものをぶち込んで軽く水分を飛ばすよう炒めて」
「……めんどくさくなってきましたわ、重いし、腕が怠いですわ」
「お前なぁ……いいから、バターを入れて香り付けをしつつ、ごはんを適量ぶち込め」
「適量ってどのくらいですの……?」
んなこと言われてもな……姉さんにも適量としか言われてない。
これに関しては恐らく「食べる分」ということでいいのかもしれない。
「なんかこう、見た感じ一人前分くらいだよ」
「……本当に大丈夫なんですの?」
「味薄くなったら後でケチャップ足しときゃいいだろ」
「なんだか不安になってきましたわ…………」
そう言いながらもシュエリアはご飯をフライパンに入れ、炒め、ついにケチャップライスが完成した。
「ふぅ……ここまで長い道のりでしたわ……」
「主にオムレツがな。どっかの誰かが卵焼き作ったり〇ダにするから」
「分裂はしたけどヅ〇にはしてないですわ……」
「とはいえまあ、後はこれに先ほどのオムレツを乗っけて完成というわけだな」
「えぇ……そうですわね」
長い闘いもようやく終わり、やっとのことでオムライスが完成した。
しかし俺とシュエリアの表情に浮かんだのは得られた達成感による笑顔でも、ここまでの苦労による疲労に満ちた顔でもなく、単純な無、視線は否応なしに遠くなる。
なぜって、そう、オムライスは完成した。
完成したのだ……一人分。
「これを姉さんとアイネ、トモリさん、俺とシュエリアの昼飯分も作るのか……」
「…………かったるいですわ」
「お前が言うなよ」
俺はそう言いながらもシュエリアに次の残機――卵――を渡し、オムレツを焼くように促しながらも、結局残りのケチャップライスは俺が作り、どうにか姉さんが来る頃に料理は人数分完成した。
その後、予定していた審査でシュエリアの料理はアイネと姉さんから大絶賛。
魔王様はケチャップをやたら恍惚な表情でかけまくっていたが……気にしないことにした。
自信を付けたシュエリアは暫く料理にハマり、バイト先でも一、二を争う料理上手になり王族としてのプライドを守ることに成功したが家事の一環として料理することは全く無かった。
ちなみにアイネもシュエリアと同じく「なぜ原材料に同じ材料の調味料を……」と思う派だったらしく。
その事を知ったのはオムライスの審査でケチャップを掛けようとした時だった。
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