第16話 呪文に挑戦しますわ!
シュエリアと出会い、日常が変わり始めた冬も終わりかけ、春に入ろうかという時期。
この出会いと別れ、始まりと終わりの季節に我が家のエルフは新しいことに挑戦しようと意気込んでいた。
「やはり女子としてスタバは押さえておきたいですわね?」
「……女子……」
「その単語だけ呟く姿勢からわたくしに対する反抗心を感じますわね?」
俺のつぶやきにシュエリアはそこはかとなく機嫌の悪さを醸し出す。
別に反抗心という程のモノでもないんだけどな……。
「前から思っただけど結局お前って何歳なの」
「はぁ? 163だって言ってるでしょう? 忘れてんですの? それともこんな美少女に人外の年齢を口にさせて悦ってるんですの?」
「い、いや、そんなことはないが……。外見年齢的には少女だけど生きてきた年月には……どのくらいの年として扱うべきかと悩んでな」
「……人間で言う17くらいの扱いでいいですわよ?」
「そうなのか?」
「まあ、そうですわね。と言ってもこれから数千年単位でこの姿だからあんまり指標にならないけれど」
そう言ったシュエリアは退屈そうだ。
なんだ、そんなに行きたいのか、スタバ。
「まあ、じゃあ女子ってことで話を――」
「その前に。いいかしら?」
「ん?」
シュエリアが暇そうだったからスタバの話に戻そうと思ったが、それを引き留められてしまった。
なんだというのだろうか。
「ユウキって……何歳ですの?」
「ん……言ってなかった?」
「言ってないですわね。わたくしだけ年齢を明かしているのは不公平ですわ?」
「何を今更……しかし、ふむ」
そうか……言ってなかったか。
俺の年齢なんて聞いても得しないと思うけど。まあ、女性の年齢だけ聞いておいて言わないのはアンフェアか。
「これでも23だよ」
「年齢的には大学生ですわね」
「まあな……五年前に卒業済みだが」
「18でですの?」
「そうだが」
「……ユウキの癖に?」
「言いたいことは分かるけど失礼だなお前」
「だってユウキですわよ? わたくしと同じレベルでじゃれてるアホですわよ?」
「それで行くとお前はアホと同列なんだけどいいのか?」
「関西ではアホは誉め言葉ですわ」
そういって髪をかき上げてドヤ顔するシュエリア。
いや、ここ関東だし。というかお前に至っては異世界人だろ……とか思わないでもないんだが。
「本当に意外ですわ?」
「まあ……今となっては勉強全くできない猫に好かれるしか能力のないしがない探偵だからな」
「あぁ……迷子の猫探しに役立ってますわよね、あれ」
「まあな。集られた中に迷子がいることもあるし、そうでなくても周辺地域の猫の情報網のおかげで仕事が捗るしな……」
いっそ探偵というよりは猫探し屋に特化している感じすらするが……って今これ関係なくないか?
「……俺の話はいいとして、スタバはいいのか?」
「あっ、そうですわね。スタバ行きたいですわ」
「にしてもなぜ急にスタバなんだ」
「それは、あれですわ」
言うとシュエリアは部屋にあったある本を指さした……。
「ハリ〇タ」
「えぇ、ハ〇ポタですわ」
「……いやまて、話が読めない、何故これでスタバになるんだ? まだSA〇読んでスターバースト〇トリームからスタバを連想する方がわかるぞ?」
「それはそれでどうなのかしら……」
「むしろハリ〇タならU〇Jに行きたくなるのでは?」
「いえ、実際行きたいですわよ? US〇」
「じゃあなんで……」
俺が疑問を口にすると、シュエリアはドヤ顔で答えた。
「魔法、使いたいからですわ!」
「…………」
なにこれ、ツッコんだ方が良いの?
「ツッコミ待ちですか」
「は? どうしてそうなるんですの?」
「いや、お前エルフじゃん、魔法、使えるじゃん」
「…………あっ。――なんのことかしら」
「今『あっ』って言ったよなぁ?!」
誤魔化すのには無理あるだろ……。いくらなんでも。
「で、でも、わたくしの魔法って詠唱とかないですわ? どれもこれも即時発動するモノばっかりで魔法使ってる感ないですわよ?!」
「い、いや……そんなこと言われてもな」
まあ、それでU〇J行きたいのは、百歩譲って良いとして、スタバは何なのか。
「スタバに行けば魔法を使えるって、漫画で読みましたわ!」
「魔法……? あぁっ、呪文はあるな、確かに」
確かにあの店には通い慣れてる人のみが使うカスタマイズされた呪文があると聞いたことがある。
「ユウキでも知っているなんて。こんな近場に一般人にも魔法が使えるお店があるなんて流石日本ですわね?」
「いや……うん」
アレは日本の企業ではなかった気がするので日本を評価するのは違う気がするんだが。
まあ、今は話が逸れるからいいとしよう。
「というか使えるのは呪文であって魔法ではない」
「……? 何の違いがあるんですの?」
「呪文で注文は通るが魔法は発動しない」
「…………マ?」
「急にイマドキ女子っぽくなったな……マジだよ」
俺が肯定すると、シュエリアはちょっと残念そうな顔をしたが、それでもすぐに気を取り直したようだ。
「まあ、日常で呪文を唱えるという違和感が楽しそうだから……行きますわ、スタバ」
「おう、行くか」
「あら、素直」
そう言うとシュエリアは訝し気に俺を見つめてきた。
「……何?」
「いえ、ユウキってスタバ好きですの?」
「いや、特には?」
「その割にはいつもより話がスムーズな気がしますわ?」
「あぁ、それはまあ、なんていうか、俺みたいなのでもたまに飲みたくなるウマさだからな、あそこのラテとか」
「へぇ……そう」
シュエリアは俺の対応の良さに納得がいったのか、次の行動に移るようだ。
「アイネとトモリも呼びますわね」
「お姉ちゃんはもういるからいいよ?」
「誰もシオン呼ぶなんて言っていないのに……」
「ん~?」
「いえ、何でもないですわっ……」
シュエリアは義姉さんから物理的に身を引くと俺の裏に隠れてアイネとトモリさんにスマホで連絡を取ったようだ。
「あら……二人とも外出しているようですわね……30分後に近場のスタバで待ち合わせになりましたわ?」
「ん、そうか」
それだけ言うと俺は準備の為にシュエリアの部屋を出て自室に向かった。
「で。なんでついて来る、義姉さん」
「お着替え手伝おうかと思って」
「着替えないから平気」
「……添い寝?」
「勝手に寝てろ」
「やだ~! ゆう君冷たいよ~」
「常温です」
「そういうことじゃない~!!」
先ほどからやたらと纏わり付いては耳元で話してくる……う、ウザい……。
「……ゆう君」
「ん……何?」
突如、俺から離れると珍しく真剣な面持ちで話しかけてくる義姉さんに、少し驚く。
久しぶりに見たな、この人の一番美人に見える表情。
「あのね、この前、シュエちゃんのお願いでエルフ達をこっちで保護する計画、進めたでしょう?」
「……あぁ」
確かに、以前にその話はした。
そしてその話を俺にするということは要件は『アレ』の事だろう。
「デートか」
「うん」
以前シュエリアの暮らしていた国のエルフを救う為にこちらの世界で保護する計画。
あの話以降、シュエリアはエルフ達をこちらに送る為の大規模な魔術を行使するために忙しそうにしていた。
しかし、計画の一部である移住が成った今、シュエリアに出番はなく、当然計画の進行段階も次に進んでいる。
それがエルフ達の自活問題、そして重要な支援者である義姉さんに対する報酬の支払いだ。
「最初はね、冗談っていうか、その場限りの口約束でよかったつもりだったんだけど」
「それは……流石に悪い」
「うん……そういうかなとは思ったんだけどね。でも、あの時は状況を利用してゆう君とのデート権を無理に支払わせて悪かったなとも思ってるんだよ? でも、せっかくだから一回だけでいいの。デート、してもらおうと思って……」
「そっか……」
義姉さんはこう見えてズルとかを好かない性格だ。
だから勝手に侵入しても必ず姿は現すし、こそこそ盗聴したりは……しても自白する。
するなって話だが……。
兎に角、この人なりに線引きはしているので、その線引きに前回のデート権の約束は引っかかったようだ。
まったく、変に真面目な人だ。だからこんな義姉でも嫌いになれないのかもしれない。
「日付は?」
「ん、今週末がいいなぁ」
「了解」
この話はシュエリアにすべきだろうか……一応、仮にも嫁なわけだし。彼女に関係ある話でもある。
「とりあえず、お姉ちゃんの言いたかったことはそれだけ」
「その為に部屋までついてきたのか?」
「うーん。まあ、ね」
「……そっか」
妙に歯切れが悪いが、この義姉が口にしないことだ、余程言いにくいことなんだろう。
だから敢えてそこには触れようとは思わない。
「それじゃ、準備したら行こうか、義姉さんは部屋の外で待機な」
「えー。お部屋入れてよゆうくぅん」
義姉さんは甘えた声を出しながらも無理に部屋には入ろうとしなかった。
こういう微妙な線引きの巧さが俺が義姉さんを嫌いになれない理由であり、同時に苦手なところでもある。
そして、準備も終わり、シュエリア達と家を出て、予定時間。スタバ前。
「アイネ、トモリ、お待たせですわ?」
「義姉さまもご一緒なんですねっ」
「おぉ~、アイちゃん久しぶりぃ~むぎゅう~」
「うにゃあっ」
「そうか……義姉さんとアイネは再会は久しぶりか」
こうして会うのは俺がアイネと一緒に家を出た時以来だから、随分と久しぶりのはずだが、義姉さんは相変わらずアイネの事も大事に思ってくれているようで安心した。
「ゆう君のところに化けて出……転生してきたって聞いてビックリしたけど、うん、美少女だね! 流石アイちゃん。我が愛しの義弟の愛しの妹だね!」
「はいっ。義姉さまも相変わらず口が悪くて安心しましたっ」
うん……相変わらずだな。
アイネが猫のは喋れないので意思疎通が困難だったがあの頃からこの二人は仲がいいのか悪いのか微妙だった。
お互いに俺の姉弟(妹)だから露骨に嫌煙しないものの、かといって仲良くもなれなかった感じだ。
にしたって義姉さんは「化けて出た」とかいいそうになってたし、アイネは「口悪い」ってストレートに言うし……ホントわからないな、この二人の仲は。
「そういえばトモリとシオンも初めてではなくて?」
「そういえば~そう~ですね~」
「ん、そっか、君がトモちゃんか~よろしく~!」
「はい~よろし~く~お願いしま~す~」
お互い挨拶を交わした後もどちらからとなく握手するなど、中々にいい関係を築けそうだ。
というか、今更だがこの待ち合わせ大丈夫だったんだろうか……よく考えてみれば俺達の到着を二人で待ってたことにならないか?
アイネとトモリさん、書き換えると『勇者と魔王』だよな。
まあそうは言っても、一緒の家で暮らしてるし……案外大丈夫なのか……?
「さて、お店の前で駄弁ってても邪魔になるから、さっそく入ろ?」
「義姉さんの言う通りだな、行くか」
俺が義姉さんの言葉に同意すると、他三人も同じく同意の意志を示すように頷いた。
全員で店内に入ると、平日昼間だからか、店内はいくらか空いていて、お洒落なカフェながら静かな雰囲気とコーヒーの香ばしい香りが漂ってくる。
「店内に入ったら早速注文ですわね? ……って、何ですの、あれ」
「ん?」
シュエリアが見入っているのはレジの上部にあるメニューのようだった。
「何かあったか?」
「S……T……G……?」
「あぁ……サイズか」
確かに初めて入ると驚くよな。日本人的にはSMLのサイズ感のイメージが強いし。
俺がそう思い、共感していると、行動力が無駄にあるシュエリアが動いた。
「T……T? ってあぁ、なるほど、店員さん、トール〇スお願いしますわ」
「お前アホだろう」
「え? ……違うんですの? じゃあガン〇ムで」
「お前わざとだろう」
「……じゃあⅤガ〇ダムで」
「なんでモビ〇スーツ縛りなんだよ!!」
「じゃあシオンに聞いてみなさいよ」
「……義姉さん?」
俺は店員さんに謝りシュエリアの代わりに頭を下げつつアホエルフを後退させつつ、もしかしたらわかってないかもしれない義姉さんにも確認を入れる。
「SがストリングショーツTがティーバック、GはGストリングショーツだよね?」
「Vは? ……」
「……ビキニ?」
「……うん、違う。ってか下着売ってねぇから、ここ」
もうコイツ等ダメだわ。なんかあれだ、日常からボケてる。ボケが素になってる。
まあアイネはリアルにわかってないのか、さっきから一生懸命悩んでいるようなのでボケる様子は無いが……
この様子では天然のトモリさんはもっと不味いのでは……
そう思い、俺がトモリさんの方を見やると――
「グランデノンティーマンゴーパッションティーフラペチーノアドホワイトモカシロップアドホイップクリーム……お願いし~ます~」
「まさかの呪文!!」
「あら~?」
この人、喋りが間延びしてるから一番呪文から縁遠そうだったのに一人で訳分からん注文通したぞ?!
てか完全にキャラ付け忘れてたよな今の注文! ガチじゃん!!
「トモリさん、もしかして通いなれてますか?」
「いえ~週に最低~四度しか~来ませんから~」
「結構来てる!!」
この魔王様いつの間にスタバ通いなんてしていたのだろうか……。
「グランデエクストラホットチャイティーラテオールミルクお願いしますっ」
「――っ?!」
俺がトモリさんの呪文にビビっていると、その横にまさかのもう一人、呪文を使いこなす勇者が居た。
というか、アイネだった。
「あ、アイネ……さん?」
「う? 何ですか兄さまっ」
「さっきまで色々と悩んでいたようだけど?」
「あ、はいっ。トモリさんと同じフラペチーノにするか悩んでました! 美味しいんですよアレっ」
「あ……そう……なんだ」
もしかしてだが、知らないだけでアイネもスタバ通ってたりするのだろうか。
「トモリさんはいつも同じのを飲むのですが、私はその日の気分で変えちゃいますねっ」
「待てアイネ。それだとトモリさんと来慣れている感じなんだが……」
「? はい、いつもお散歩するときにトモリさんと寄ってますよっ?」
「へ、へぇ~」
うちの妹がいつの間にか魔王とお茶する関係になっていた……?
「よく二人して居ないことがあるのはそういうことなのか?」
「はいっ、トモリさんが来た翌日に一緒にお散歩して、帰りにスタバを奢ってもらって以来、一緒にお散歩してはスタバに通っていますっ」
「いつの間にかうちの妹が魔王に餌付けされてる……」
「う?」
アイネにはよくわからないようだが、このスタバというお店、商品の品質はとても高いと思うのだが、値段がそこそこするのだ。
なのでアイネにあげているお小遣いだと結構がりがり削れるような値段なので、それを配慮したトモリさんが出してくれているのかもしれないが……勇者を美味しいもので釣るとは、流石魔王。油断ならないな。
などと、俺が考えている間にも、義姉さんはトモリさんに呪文を教わってなにやらホイップ増しのカフェラテを購入していた。
そして……。
「あ…………えっと、グランデ……アイス、コーヒー……」
「呪文どこ行ったんだよ……」
呪文を唱えたいとか言い出した張本人は、その難易度の高さに心折れていた。
素直にトモリさんかアイネに聞けばいいのに……。
その後、皆の注文が終ったのを確認して、店内の窓際テーブルに着いた。
ちなみに俺はアイネと同じ物を注文した。
「それで、当初の目的だった呪文は言えず、普通にコーヒーを買ってしまったシュエリアさんや。満足したかい?」
「んなわけないですわ……はぁ。ここまでハードルが高いとは思いませんでしたわね?」
「わからないではないかも……私もトモちゃんに聞かなかったらアイスコーヒーになってたと思う」
「ユウキはどうなんですの?」
「俺はアイネに同じの頼んでもらったよ」
「兄さまのお役に立てて何よりですっ」
「ぐぅ……わたくしだけアイスコーヒー……」
そんな会話をしながらも席に着く俺達。
五人席が無かったので店員さんにイスを一つ用意して貰った。
「わたくしだけアイスコーヒー……」
「どんだけ引きづってんだよ」
「だってわたくしコーヒー飲めないわよ?」
「なんでここ来たんだよ……スタバはコーヒーストアだぞ」
「チャイティーなら紅茶じゃない」
「むしろそれがわかっててアイスコーヒー頼むとかアホなのかお前」
「緊張しただけですわ」
「さいですか」
「さいですわ……」
そういってズズっとコーヒーを口にしたシュエリア。顔が渋くなってる。そしてその隣には美味しそうにグランデノンティーマンゴーパッションティーフラペチーノアドホワイトモカシロップアドホイップクリーム……つまりマンゴーのジュースを幸せそうに啜るトモリさん。
というかよく見たらこの人いつもの着物じゃなくて袴だな……散歩着か何かなのだろうか。
「トモリさんはマンゴーお好きなんですか?」
「はい~、まん~ご~名前の響き~とか~好きです~」
「ですよね~ははははは」
「あら~?」
さらっとわかりにくい下ネタかまされた気がするが、そこは俺も慣れがある。
この人達がアホみたいなボケをかますのはいつものことなのでスルースキルも多少は上がってくるというものだ。
「そしてアイネがミルク系好きなのは予想通りだな」
「予想外が良かったです?」
「いや、可愛いから良いと思う」
「えっへんっ」
「うんうん、ナデナデ」
アイネの頭を撫でながら、俺も自分の飲み物に口を付ける、気づくと俺はシュエリアにガン見されていた。
「……コーヒー……」
「――あ~……シュエリア、これ、一口飲んでみるか? チャイティー」
「いいんですの?」
「まあせっかく来たんだから、呪文はダメでもせめてこのくらいはな」
「……ユウキもたまにはいいことしますわね」
「たまには余計だ」
言いながらも、シュエリアに紅茶を渡すと、彼女はそれをコクコクと飲み始めた。
「これは……美味しいですわ! ミルク感たっぷりでとても幸せになれる味ですわね」
「それはよかったな」
「えぇ……やはりせっかくだから呪文使っておくべきでしたわね」
そう言いながらも元気を取り戻したのか、尚も俺の渡した紅茶を飲み続けるシュエリア。
「おい待て、いつまで飲んでるつもりだ」
「え? 今返しますわよ?」
「ったく……油断も隙も――無いっ?!」
「何がですの?」
「中身だよ! もっというなら俺のグランデエクストラホットチャイティーラテオールミルクだよ! なんで飲み干すかなぁ!!」
「俺のグランデエクストラホットチャイティーラテオールミルク、略して俺のミルクですわね?」
「今下らない冗談言われてもストレスしかないわ!」
あぁ……俺のグランデエクストラホットチャイティーラテオールミルクが……。
「お姉ちゃんのラテ飲む?」
「いや……姉さんと間接キスはちょっと……」
「えー嫌がらなくてもいいのに。姉弟なんだし!」
「いや、既成事実とか言われて強引に迫られるのが嫌なだけだよ」
「お姉ちゃんの評価死んでるね……」
「日頃の行いですわねぇ……」
などと、お喋りしながらも各自ドリンクを飲み(俺のはシュエリアに乾されたが)時間がゆっくりと過ぎていく。
しかし、このメンツだ、やはりというかわかりきっていたことだが、穏やかな時間というのはとても短かった。
その先端を切り開いたのは、義姉さんだった。
「そうだ、私週末ゆう君とデートするんだ~」
「は?」
「えっ?」
「あらぁ~」
義姉さんの突然のカミングアウトに驚く三人、そしてそのうち二名は何やら反発的な声を上げていた。
「だから、デート。ゆう君と!」
「な、なんでそうなるんですの?!」
「そうですよっ、兄さまは皆の兄さまですよ!」
「え~でも、シュエちゃんはいいって言ってたよね?」
「え……そ、それは……まあ……」
「何でいいって言っちゃうんですかシュエリアさんっ」
「だ、だって冗談だと思って……」
「まあ実際冗談ではあったんだけどね?」
「じゃあなんでデートになるんですの?!」
「んーん? それはねぇ」
そこまで言って義姉さんは言葉を区切り、俺に顔を向けた。
「まだゆう君の事、私のモノにできそうだなぁって、思ったからだよ?」
「な、何言ってんの義姉さん、慣れないコーヒーで頭おかしくなりましたか」
「うっわ……これだけ聞くと全く脈無しだよね」
「ここだけ切り取らなくても脈無しだけどね」
「ははは、照れちゃって~」
「照れてねぇよ」
まったく、なんでこの人はこんなに能天気なのだろう。
散々アタックしてきて、あまりのウザさに数年距離を置かれて、尚も俺の事を好きで、未だにこうしてアプローチしてくる。
ホント、なんで俺なんだろう。
「まあそんな訳でさ、週末ゆう君借りるからね? いいよね、シュエちゃん」
「ぐっ……べ、べつに良いですわよ? 別にそれが不倫や浮気ってわけでも、あるまいし」
「だよねー。嫁(仮)だもんね? はー、話したらすっきりしたからお姉ちゃんもう一杯注文してきちゃおーっと」
義姉さんが席を立つと、同時に飲み終わったであろうトモリさんがまたレジで同じ呪文を唱えていた。
本当に好きなんだな……マンゴー。
まあ、今重要なのはトモリさんのマンゴー好きに深い意味があるのかとかではなく、この目の前のシュエリアとアイネだ。
「なんか……機嫌悪い?」
「別に、悪くないですわ」
「私もですっ」
「そ、そうか」
そうかとは返したものの、どう見ても機嫌が悪い。
恐らくはさっきのデート発言の所為なのだろうが、アイネはまあ俺の事大好きだと日頃公言するような子なのでわかるのだが、なぜ公認を出したシュエリアまで不機嫌なのかがわからない。
わからん……これも乙女心というやつなのだろうか……。
だとするとシュエリアが俺を好きで、妬いているということになるのだろうか。
……無いな。
「まあデートって言っても一回だし、義姉さんの働きに対する正当な評価であり対価だから、誓って他意はないぞ?」
「へぇ……そう」
「それならっ……まあ」
その後、しばらく沈黙が続いた後、義姉さんとトモリさんが戻ってきて、シュエリアとアイネも流石にこのままでは空気が良くないと思ったのか、いつも通りに戻っていた。
「次に来るときはちゃんと呪文を予習してから来ますわ」
「そうだな。俺もまた来た時には自分で注文してみたいな」
「その時は私は兄さまと同じにしますねっ」
「おぅ、いいぞ」
「お姉ちゃんも同じが良いなぁ~?」
「遠慮しときます」
「遠慮された?!」
「あらあらぁ~、仲が~いいです~ね~」
こうして駄弁りながら美味しい飲み物でのどを潤す。
またこんな日があってもいいかもしれないなと思える、シュエリアのスタバ初体験だった。
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