第11話 わたくしの本気ですわ

「ユウキさん、ごきげんよう。ふふふっ」

「……あ、うん」



 ある日の朝、俺はいつもではありえない場所でシュエリアに出会った。

 そこは台所、いつもならコイツはつまみ食い以外で立ち入らない場所であり、早朝6時、これから米を炊いて飯の準備という時にいることはまずない。

 それになんだろう、今日のシュエリアは何故こんなにキラキラしてるんだろう。



「お紅茶を入れましたの、ご一緒に如何かしら?」

「お、こうちゃ?……横行血矢?」

「あらまあ、ユウキさんったら面白い冗談をいいますのね。ふふふ」

「…………そ、そう?」

「えぇ! うふふっ」

「…………ははは」



 ナニコレ、コワイ。



「……うっ……ヤバい吐き気が……トイレ行ってくるわ」

「あら、大変ですわ? わたくしが付き添いましょうか?」

「い、いえ、結構です」



 やばい、あまりの恐怖に吐き気が止まらない……。

 こう、胃を恐怖に鷲掴みにされてグワングワン振り回されているかのような気持ち悪さが……。



「何、なんでシュエリアのヤツ今日あんなに機嫌悪いの……あんなキラキラした綺麗なシュエリア見たことない……」

「いえいえ兄さま、キラキラしてるのに機嫌悪いってどういう理屈ですかっ」

「…………あー」



 なんでアイネがここにいるんだ……?

 ここ、トイレ『内』なんですけど。



「なぜここに? という質問には先に、猫だからいいじゃないですか。と答えておきますねっ」

「うん、よくないけど」



 確かにアイネは猫だけど、一応それでも人間の女の子の姿を取っている以上気にはなる。



「いやまあ、吐き気がして駆け込んだだけだから、とりあえずは置いておこう。うぇ…………で、なんだっけ」

「吐きながらお話しますか普通……いえ、まあいいですけどっ。それで、キラキラして綺麗なのに機嫌が悪いってどういうことなのかなぁとっ」

「あぁ……そうか」



 なるほど、確かにそんなことを言われた気もする。



「アイネ、今日はシュエリアに会ったか?」

「いえ、さっきまで兄さまの布団でハスハ……スースー寝息を立てて可愛らしく寝ていたので起きたばかりですっ」

「うん、なんか色々おかしいけど話逸れるからツッコまないからな? でも、そうか。シュエリアに会って無いのか」



 なるほど、ならまあ、あの不自然さがわからなくても無理はない。



「よし、吐き気も一旦収まったから一緒に行くか……混沌の渦に」

「なんでそんな最終決戦が待ち受ける闇に飛び込む様な決死の表情なんですか……」



 アイネの表現は気分的には間違ってない。

 さながらラスボス戦という感じだ。



「見たらわかる――」



 俺はそれだけ答えて、アイネを連れてシュエリアの部屋に向かった。



「――あら、ユウキさん、それにアイネさんもご一緒ですのね。お紅茶入れなおしましてよ? お飲みになって?」

「ほら、もうすでに色々おかしい」



 ソファに背筋をピンと伸ばして座りつつもこちらに最上級の笑顔を振りまくシュエリアを見て、もの凄い不安感と恐怖を感じるのはやはり彼女の機嫌が悪いからだろう。

 裏が無かったらこんな笑顔するはずがないからな……。



「あぁ、兄さまっ。コレはアレです。扉が平行世界の彼方に繋がってしまったんだと思います。もう一回入りなおしましょうっ」

「あらまあ、それは大変ですわ?」

「さあ! 兄さまっ早く!!」

「…………」



 どうしよう、この綺麗なアホエルフのせいでアイネが現実を見れない子になってしまった。



「アイネ、落ち着け、これは現実だ」

「で、ですが……シュエリアさんがまともですよ?」

「うん、俺もそれは変だと思ってたけど言葉にして聞くと俺達の方が変な気がしてくるな」



 確かに普通なら相手がまともであるなら問題は無い。

 むしろ相手が正常なのに、これほどまでに笑顔が輝いていて尚且つとてもお嬢様っぽいオーラを発しているのにこの不安感、この胸焼けしたようなジリジリとした不快感。これが『ギャップ燃え』というヤツか。



「とりあえずアレだな、本人に何があったのか確認しよう」

「で、ですねっ」



 俺は取り乱しぎみだったアイネを説得し、話を進めることにした。



「シュエリア、お前、どうしたんだ?」

「? どうしたというのは、どういうことですの?」

「いや、その、いつもと違うよな?」

「あら。嫌ですわユウキさん。そんな軽薄男の常套句のような口説き方、どこで覚えてきましたの?」

「いや違うから、悪い意味で違うって話だから」

「あら……どこかわたくしに落ち度があったかしら……」



 そういってシュエリアは半ば悲しそうな顔で考え込む。

 何これ、どういうこと。



「いや、落ち度っていうか……その、今日はなんでそんなに綺麗なんだ?」

「もう、ユウキさんったら、やっぱり口説きたかったんですの? ふふふっ」

「うんなんだろう、今のだけは凄くいつもの返しっぽかったけどなんか違う。凄くツッコミにくい」

「?」



 あぁ、どうしよう、本当に訳が分からないって顔してるよ。

 なんだこのシュエリア、凄くまともにお嬢様で可愛いし綺麗なのに、一緒に居て不安感しかない。



「兄さまっ。いくらいつもより可愛いからって口説くのはよくないですっ」

「アイネまで変な勘違いするなよ! そういうんじゃないからな?!」

「あらあら、大声を出すなんてはしたないですわ?」

「えぇ……いつもお前もこんな感じじゃん……」

「失礼ですわ。わたくしそんな品の無い行い、したことがありませんわ。わたくしはユウキさんのお嫁さんとして、完璧を目指して努力してますのよ?」

「えぇ…………?」



 やばい、ここが平行世界説、意外と本当かもしれない。

 これは、本格的に確かめてみる必要があるな。



 対シュエリア用最終兵器、大好物であるビーフシチューを餌にした作戦を決行しよう。



「シュエリア、実は今日お前が大好きなビーフシチュー作ろうと思ってたんだが」

「あら、そうでしたのね、それはとても楽しみで――」

「でもお前は俺の完璧な嫁だから、夕飯はお前が作ってくるよな?」

「――は? いえ、なぜ、かしら?」



 ……うん、さっそくボロが出掛かった気がするぞ?

 よし、このまま続けてみよう。



「いやー。楽しみだな、完璧な嫁の作ってくれる料理。こんなに可愛い嫁さんにおいしい料理まで出してもらえるなんて幸せ者だな俺は」

「え、ちょ」

「これから毎日可愛い嫁さんの手料理を振る舞ってもらえるとか本当にお前と出会えてよかったよ!」

「ちょっ、まっ――」

「ん? どうした?」



 俺がシュエリアの様子を伺うと、シュエリアは俯いてプルプル震えていた。



「……んじゃ……すわ」

「ん?」

「ふざけんじゃねぇですわっ!!!!」

「おおぅ」



 今の震えてたのは怒りの方だったのか。

 というかいきなりキレたなコイツ。むしろおふざけしてたのはコイツでは……。



「料理なんて絶対しませんわ!! ていうかビーフシチュー!! 絶対作ってもらいますわよ!!」

「なんだ、やっぱりいつものシュエリアじゃないか」

「ほ、ホントですね。いつもの食い意地だけは張ってるロクでもないぐーたらエルフのシュエリアさんですっ」

「なんかめちゃくちゃディスられてるけどどうでもいいですわ!! ユウキ、さっきの話本当よね?!」

「お、おう、夕飯はビーフシチューだぞ」

「わたくしはいつも通りだから、夕飯もユウキに作ってもらいますわよ?!」

「お、おぅ」



 好物の為なら素直になれるシュエリアさんマジちょろインだな。

 とりあえずいつもの調子に戻ったし、夕飯はコイツの希望通りにしてやるとして、確認することはしとかないとな。



「ところでシュエリア」

「……ん? なんですの?」



 聞き返してきたシュエリアはまだ機嫌が悪そうだが、一応話に応じてくれる気くらいはあるようだ。



「お前、なんでさっきまであんな変だったんだよ」

「変って随分な言われ様ですわね……ただちょっと本気でキャラ作ってみただけですわ」



 キャラを作っていた……本気で。



「うん、確かに本気でビックリしたし、どっきりは成功だな」

「どっきりじゃないですわよ! 真面目に! キャラ作りしていたんですの!!」

「エェッ?!」

「そのマ〇オさん並みにびっくりするの止めてくれないかしら?!」

「すまん、正直割とマジでエイプリルフールまでは疑ってた」

「急に素に戻るのね……四月はまだ先ですわよ」



 まあ冷静に考えればそうなのだが、頭でわかっていても一瞬「アレ?」って疑うことってあると思うんだ。



「で、なんで真面目にキャラ作りを?」

「なんでって……それは……その」

「ん?」



 俺の質問にシュエリアは目を逸らして言葉にも詰まっている。

 これで顔まで赤くなってたりしたらもしかして恋愛絡みかなとか思ったりもするが、どうも違うようで。



「わたくしってほら、あんまり人柄をよく思われてないじゃない? さっきも言われたけれど、ぐーたらとか、食い意地張ってるとか、遊んでばっかりとか」

「あ、あぁ……まあ、な」

「社交辞令的に否定してくれてもいいと思うのだけれど、まあ事実だからいいですわ。で、このままではわたくしのキャラ人気がダントツで落ちて行って素直に可愛いアイネとかがメインヒロインとか言われちゃうわけですわ」

「いやアイネはアイネで……」



 俺がアイネも大概まっとうなヒロインではないと言おうとすると、横からアイネが俺の膝の上に飛び乗ってきた。



「何ですか兄さまっ?」

「……なんでもないっす」



 なぜ言おうとしていた言葉が続かなかったのか。

 それは多分、この一見裏表なさそうなキラキラした笑顔に無言の圧力を感じたからだろう。

 なんていうか、そう。



『こんなに可愛い妹(猫)に黒い部分なんてないですよ』



 と露骨にアピールされたっぽいというか。



「まあ、アイネが腹黒いのは置いておいて、それでもわたくしはやはりもう少しまっとうなヒロインっぽくしたほうが良いと思いますの」

「でも、ぶっちゃけ今更無駄じゃないか? もうお前が駄エルフなのは散々見せてきているわけで、ここから挽回するならもういっそ今後の展開で感動的なシーンとか入れて行って有耶無耶にするしかないだろ」

「凄まじいことぶっちゃけるわね……まあ実際アニメとかで不遇なキャラとか人気無いキャラに急にいい話追加して人気取りすることって無くはないけれど」



 俺の発言にシュエリアもまた乗っかり、若干アレな発言が出ている気もするが、同時に「そう考えればわたくしって意外と普段とのギャップで好感度アップ狙える良キャラな気がしてきましたわ」とか頭の悪そうなことも呟いてる。



「それで、キャラ付けはどうするんだ、まだやるのか?」

「そうね……参考までに、ユウキってわたくしの事好きかしら?」

「好きだな」

「思った通りストレートに来ましたわね……ライクよね?」

「ラブよりの?」

「それもうラブじゃない。なによ寄りって」

「いや、堕ちる一歩前みたいな」

「何かしら、とても好意的な発言のはずなのに凄く不本意な事を言われた気がするのは」

「気のせいだろ」

「……そうかしら」



 実際コイツを好きになるのは恋に落ちるというよりは堕ちるという感じがする。

 堕落的な意味で。



「それはそうとユウキ」

「ん?」

「それ、いいんですの?」



 見ると、シュエリアは俺の膝のあたりを指さしており、そこには先ほど乗っかってきたアイネが……



「(ガジガジ)」

「……痛っ?!」

「めっちゃ噛まれてますわよ?」

「見たらわかるわ!!」

「(ガブガブ)」

「いたたたたっ」

「美味しいのかしら?」

「これは怒ってるんだと思う!」



 なぜかアイネは怒っていて、俺の膝周りを噛みまくっていた。

 まあ、本気で噛まれたら血まみれになってるので、痛い程度で済んでいるからまあ、手加減はしてくれているんだが。

 それでも甘えての行動というよりは実力行使による異議申し立てという感じな気がする。



「アイネ、なんで噛んでるんですの?」

「ガジ……私は腹黒くないですよっ!!」

「それ言ったの俺じゃ無くない?!」

「まあ、言ったのはわたくしですわねぇ」

「否定してくれなかった兄さまに怒ってますっ!」

「あ、そういう話か。すまん」

「許しますっ! なでなでしてください!」

「お、おう」



 素直に謝ったら素直に許す、とても良い子なアイネである。

 まあ、噛み付きは痛いからやめて欲しいが。



「めちゃくちゃチョロいわね」

「私は兄さまのモノですからねっ、モノは扱いやすい方が好まれるんですっ!」

「いや、俺はアイネを物扱いしたことないぞ?」

「兄さまは私を妹扱いしてくれますが、日本は猫を物扱いですからっ!」

「う、うん、まあ確かにそうなんだけど……」



 確かに犬や猫に対して器物破損とかが適用されるくらいだからな……。



「アイネという好感度MAXのちょろインが居ることを考えるとわたくしはキャラ被りしないように難攻不落キャラの方が良いのかしら?」

「好物一つで釣れるちょろインが何を言っているんだ」

「うぐっ……全く弱点が無いよりそっちのほうが可愛いですわ」

「とても言い訳がましいと思うのは俺の気のせいか?」



 まあシュエリアの言っていることもわからなくはない。

 要はギャップ萌えだろう。



「そうは言っても今のわたくしにはそれくらいしか取れそうな手段って無いと思いますわ? 日本で人気の妹ポジションにはアイネが居るし、姉枠にはシオンが居て……しかもどちらもユウキラヴ勢じゃない? これ以上の被りは避けるべきかと」

「ラヴ勢ってなんだよ……というかアレだ、大丈夫だ、お前は運命の出会いをした美少女枠かつ、ウザキャラだから。被る心配はない」

「それ大丈夫じゃないですわね? 前者は良いけど後者が完全にダメにしてますわよねぇ?!」

「でもシュエリアさんはウザいですっ」

「何かしら、誉め言葉が無い分飾らない言葉の凶器で斬りつけられた気がしますわ……?」



 そういいながら胸を押さえるシュエリア、うん……アイネってたまに容赦ないからなぁ……。



「ま、まあ、シュエリアはほら、ウザ……可愛い、から、多分……」

「もうちょっと自信もって言って欲しいですわ?!」

「嘘を吐くのって結構大変なんだぞ?」

「嘘っていいやがりましたわね! 可愛くないと?!」

「いや、容姿は可愛い、すげえ綺麗だし」

「容姿だけ……」



 容姿だけでも可愛かったら十分恵まれていると思うのだが……。



「性格は……まあよく言えば面白い」

「悪く言えば?」

「ウザい」

「……ぐはっ」



 言葉の刃に耐えきれなかったのか、シュエリアが胸を押さえたままソファに転がった。



「この兄妹……人の事をウザいウザいとなんて口の悪い兄妹かしら……」

「確かに俺の口はよくないがアイネは優しい方だぞ、遠慮がないだけで」

「フォローがわかりやすくシスコンですわねこの男」

「なぜだろう、よく言われるんだよな、それ」

「キモいですわね」

「おまっ……お前も大概口悪いよな……」

「……お互い様ですわね?」



 そう言うとシュエリアは体を起こし、向き直ってきた。どうやら少しは回復したようだ。何故かは知らんが。



「しかしまあ、そこまでキャラを気にするなら変わってみるのもいいかもしれないぞ」

「自己啓発ですの?」

「なんだろう、その言い方だと微妙に誤解を招きそうだな」

「自分を変える……簡単ではないですわね?」

「まあな、でもいきなり大きく変わる必要も無いだろ、お前の場合」

「なんでですの?」

「容姿が可愛いから」

「また容姿ですの?」

「大事だぞ? 容姿」



 彼女の場合、ウザいと言ってもまあ、程々と言えなくもないのでそこまでマイナスではない。

 というか圧倒的な容姿の良さがあるので「可愛いから許せる」という範疇に収まっている。

 なのでもし変えるなら「悪い所を直す」のではなく「いい所を増やす」方向性などが良いと思われる。



「人間悪い所もいい所もあって、それでもいい所が勝っていればよく映るもんだ」

「そういうものかしら? 人の粗ばっかり探すような人間もいるわよ?」

「まあ……否定はしないが、かといって悪い所のない完璧な人なんていないだろ。そういう意味でも人は悪い部分に目を瞑り良い部分に惹かれるように出来ているわけだ」

「恋は盲目ですからねっ」

「恋する乙女が言うと説得力が違いますわねぇ……恋愛の話ではないけれど」



 確かに恋愛の話ではないが、実際人の好感度なんてのは多かれ少なかれ盲目的な物だ。

 一度気に入った相手の事なら多少の事は目を瞑れるし、逆も然り、見直すなんて言葉があるくらい評価が悪くても一転することもある。

 結局個人の匙加減によるところが大きい以上、何を良しとして何を悪しきとするかも千差万別だろう。

 まあ万人受けする性格とかもあるにはあるだろうが。



 というか、恋する乙女ってなんだ……まさかアイネに好きな人が……?!



「なあ、アイネって好きな人――」

「兄さまですっ」

「っ……だよなぁ!」

「はいっ」



 そういってアイネは俺の膝の上でコロコロと転がり始めた。なんだこれ可愛い。



「……なーんか、言葉と心がすれ違っている感じがしますわね、面白いから訂正しないけど」

「ん?」



 シュエリアが何かを言っていた気がするがなんだろう?

 まあ大したことでもなければロクなことでもないだろうが……。



「で、結局わたくしはどうしたらいいんですの?」

「あ、あぁ。要はお前は今、運命のウザキャラなので……」

「その呼称なんとかならないかしら」

「なのでそこに可愛い要素を足してウザ可愛いキャラになれば好かれる訳だ」

「なにかしら、それって微妙にハードル高い気がしますわ?」

「そうか?」



 シュエリアなら結構簡単にクリアできそうなんだけどな……。



「だってそれ普通に好かれるより難しくないですの? ウザいのに可愛いって」

「でも今でもウザくて見た目は可愛いぞ?」

「なんでかしら、まったく褒められている気がしないですわ」

「シュエリアさんは可愛いですよっ」

「わたくしより可愛い系のアイネに言われるとちょっと嬉しいですわね」

「ちょっとですかっ……」

「ジー」

「うぐっ……う、嬉しいですわよ、その、普通に、いえ……凄く」



 顔を真っ赤にして照れて視線を逸らしながらも、素直に喜ぶシュエリアを見てアイネが嬉しそうに転がる。

 それを見て仲いいなぁとか、思いつつ同時に、ちょっと可愛いかもしれないと思った。



「素直になるとシュエリアは可愛い?」

「な、何ですの急に?! なんで急にそんな褒め殺す流れなんですの!」

「え、いやそんな褒め殺しって程でもないと……」

「褒められ慣れてない人間にはストレートな好評価は殺意ですわ!」

「そんな事も無いと思うが?!」



 っていうかコイツ褒められ慣れてないのか。いつもあれだけ自信家だから余程周りに褒められて伸びたタイプなのかと思っていたのだが。



「もうっ……何なんですの……」

「いや、お前がキャラを変えて好かれたいって話を始めたんだろ?」

「それは、そうだけれど……」



 そう口ごもると、シュエリアは難しい顔をした。



「べ、別にユウキに受けたい訳では……ないですわ!」

「誰も俺にしか受けないとも言ってないけどな? 普通に可愛いぞ、うん」

「兄さま適当になってませんかっ」

「いや、そんなことは――」



 シュエリアを褒めてみると面白いことに気づいて、そう言いながら俺は別の事にも気づいた、初めて起こる異常事態に。



「ふへ……わたくし……かわい……ユウキに…………うぅぅ~っ」

「…………見なかったことにしよう」

「何がですかっ?」

「いや、うん、なんにも」



 何か、自称褒められ慣れてない人が余り「可愛い」と言われたせいで顔真っ赤になって潰れてた……。

 これは見ている方も恥ずかしい……。



 こうして、シュエリアの受けるキャラ造りは失敗に終わった……のか?

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