第5話 エルフ流ファッションですわ

 先日俺はシュエリアにエルフの参考にすると言われて様々なエルフ出演の作品を手渡したのだが、ここ最近、あの暇人エルフにしては珍しく俺と一緒にゲームやアニメを楽しむということをしなかった、それどころか部屋から出てすらいない。



 で、一週間ほどたった今日、急に呼び出された、それもよくわからん「念話」とかいう思考で直接話せるという魔法で。

 いつもは普通に俺の部屋に来るのになぜ今日に限って魔法なんて使ってきたのか……アレか? ついに部屋から出るのも面倒になったのか、あの駄エルフは。

 というか今更だがこのご時世にスマホを持たない人との連絡って不便だが相手がエルフだと魔法アリだから意外と便利だな……などと考えながら歩きつつ、ついにシュエリアの部屋の前まで来てしまった。



「シュエリア、来たけど、入ってもいいのか?」



 俺はとりあえず呼び出しを受けたので、暇だったのでシュエリアの部屋まで来てノックをしてみた。

 いつもなら無言で入るのだが、今回に限ってノックしたのは最近引きこもってた奴の部屋に勝手に入るのもな、とか思ってしまったからだ。



「いいわよ、入りなさい」



 俺が呼びかけたのにすぐ返事が来た辺りシュエリアも万全の準備をして俺に呼びかけたのだろう。

 ということで、俺は遠慮なく入ることにした。



「んじゃあ失礼するぞ…………って……………………」



 部屋に入った瞬間、息が詰まった。

 いや、それもそうだろう。

 何しろそこには、いつものシュエリアの姿は無く、もうなんというか、エルフというイメージを粉砕するシュエリアの姿があったのだから。



「どうかしら? 一週間悩んでようやく決めたファッションなのだけれど」

「いや……どうって……」



 それはもう、色々酷かった。

 こう、平たく言うと「コスプレ」だった。

 悪く言うと非現実的な派手なファッションというのか、なんか棘ついてたり、羽が付いてたりフリル増しましでかと思えば服自体はよくよく見ると普通のワイシャツだし下なんてただのジーパンだ。

 なんかこう、色々まとまりが無くて、酷い。

 っていうか一週間悩んでこれなのか?



「お前のファッションセンスはどうなってんだよ……」

「正直言うとこれはある意味でアリだと思っているわ」

「どういう意味ならアリになるんだよ」

「奇抜過ぎてキャラが立っているでしょう? ファッションセンス皆無! みたいな」

「お前はあのアニメから何を学んだ……」



 どう考えても何も学んでない。貸した意味皆無だ。

 でもまあ、よかった事もある。

『エルフはファッションセンスがない』みたいな事実があるわけではなく、コイツが敢えてダメなファッションにしていただけだと知って。

 エルフはもっと神秘的なイメージだから、ファッションセンスが壊滅的に無いとか、ちょっとこう、イメージがな?



「で、もしかしなくても、それを見せる為に呼んだのか?」

「そうよ? 他に何があるんですの?」

「…………」



 俺はこんな酷い物を見せられるためだけに、わざわざ呼ばれたのか。



「とりあえずこれを今後のわたくしのキャラデザインとして採用しようと思うのだけれど、どうですの?」

「却下で」

「なんでダメなんですの?」

「キャラはもう十分立っていると思うので、ファッションは普通に」



 っていうかこれじゃあキャラが立っているとか以前に単純に変な奴だ。



「じゃあやたらと露出の多い民族衣装風なのとかはどうかしら?」

「個人的には好きだけど、リアルだと一緒に外に出るのに困るから却下で」

「そもそも外に出ないじゃない……」

「……あと作画が面倒なので」

「誰視点なのよ」



 いや、だって、そういう派手な人が近くに居ると俺の脳内作画さんがめんどくさくなってその内シュエリアの作画が面倒になって裸に見えちゃうかもしれないだろ?



 裸……んん、待てよ……?



「なあ、シュエリア」

「ん? なんですの?」

「お前さ、今、穿いてんの?」

「……ぶっ転がしますわよ?」



 そう言ったシュエリアは露骨に不機嫌そうというか、ハッキリ怒ってるのがわかる表情をしている。

 ……なんでコイツこんなに怒ってるんだ?



「お前、最初に会った時は穿いて無かっただろ?」

「え?……あぁ、そういえばそうだったわね」

「だからさ、あれってエルフ流のファッションとかで、今でも穿いて無いのかなぁと」

「あぁ……そういう」



 シュエリアは俺の言葉に納得したのか、ため息一つ吐くともう怒っている様子は無かった。



「アレはファッションというよりは、習慣ですわ? そもそもエルフは下着とか付けないというか、そういう下着という概念が無かったわね?」

「上も下も下着無し?」

「そうですわね。服もこんなにしっかりした物じゃなくて、森の樹木から採った葉や繊維で作った物で、薄くて軽くて狭い物ですわ」

「薄くて軽いまでは分かるけど、狭いって……」



 それって、服の、布の範囲ってことだよな……?



「上は胸が隠れる程度の範囲しかないし、下も葉と繊維を組み合わせた膝上10cmくらいしかないスカートですわ」

「そんなんで大丈夫なのかよ……お前王族だったんだろ? そんな薄着じゃ威厳も何もないだろ」

「そうね。一応王族の執務の時には特別な蟲の繊維等も使った特殊ローブを着ていたわよ?」

「そういや最初会った時は薄着だったな……でもそれってさ、露出範囲の問題もそうだけど、寒くねぇの?」



 コイツ最初に会った時も寒いって言ってたし。森では寒くなかったのだろうか?



「エルフの森に居る間は魔法で周りの気温を管理していたから寒くはなかったわね? でもこちらに来てからは魔法の気温管理が効かなくなったから寒いけれど」

「こっちだと魔法が使えないのか?」/////

「いえ、魔法全般が使えないわけではないのだけれど、気温を管理する魔法は自身の魔力ではなく外気のマナを使う魔法だからマナの無いこの世界では使えないんですわ」

「ふーん……」



 なんだ、一応魔法は使えるのか……マナとやらを使わない魔法なら。

 俺には違いがさっぱりわからん。



「で、話が逸れたわけだが」

「逸らしたのはユウキでしょう……?」

「お前、今、穿いてんの?」

「何回聴く気よ。ぶっ転がすわよ?」



 おっと、質問の理由は話したのに相変わらず怒ってらっしゃるぞ?



「でもまだ答えてもらってないし」

「ファッションについては答えたわよね?」

「いや、今穿いてるかは答えてないじゃん?」

「…………」

「…………」



 ふむ……黙り込んでしまったか。これは答えないつもりだな?



「…………穿いてるわよ」

「あ、答えるんだ」

「聞いてきたのはそっちでしょう?!」

「ま、まあな」



 しかし本当に答えられると困るよな。

 だって別に、穿いてようが穿いてまいが、俺には関係ないし。



「で、話しを戻すけど。わたくしのファッションはどうしたらいいんですの?」

「ん? あぁ……そうだな」



 とりあえず今のこの格好は無しとして、どうしたものかな。

 今聞いたようなエルフの服装は確実に外に出たら警察のご厄介になってしまうし、何より体温調整できないらしいから寒くなると鬱陶しいくらい絡んでくるようになるに決まっている。

 となればとりあえず、無難なのがいいよな?



「とりあえずシンプルなのにしよう」

「シンプル?……シンプルに、メイド服?」

「うん、ある意味でシンプルに萌えを狙ってるけど、ダメだからな?」

「シンプルな……スク水?」

「確かに作画的にもシンプルになったけど露骨に萌えを狙うのは止めようか」

「じゃあどうしろというのよ。裸エプロン? もっとエロイ方がいいんですの?」



 そう言うシュエリアは凄く蔑む様な眼を向けてくる。

 なんで俺が悪いみたいな感じになってんだ? 俺一言もエロいのが良いなんて言ってないのに。



「いや、萌えとエロを狙うの止めろよ。普通でいいんだって」

「じゃあ……セーラー服とか、ブレザーが良いのかしら」

「んー……まあ、シンプルだし露骨に萌えを狙っている感は薄れたけど、学園ものじゃないから普通にコスプレじゃん、それ」



 コイツなんでそんな凄く露骨にアニメとかに出てきそうな路線を攻めていくんだろう。もっと普通に、一般的な洋服でいいと思うんだけど。



「……そもそもエルフが人間の服を着たらもう『人間のコスプレをしているエルフ』になるんじゃないかしら」

「いやそれを言ったら……まあいいや。とりあえず普通に洋服着ろよ」



 そもそもこの世界じゃエルフというのは空想の存在なのでどんな格好でも結局は『エルフのコスプレをした人』にしか見えないとか言ったらお終いだよな。



「普通の服じゃキャラが……」

「いや、十分濃いから、いいよ」



 ただでさえ異世界から来たエルフ、しかも娯楽好きでアニメ漫画ゲームにのめり込んでる駄エルフってだけでも結構に濃い目なのに、さらに姫属性だったり色々付いているのだ。これ以上妙な属性を付けられても困る。



 というか本当に、エルフのお手本を貸した意味は何処に行ってしまったんだ?

 さっきからもう全くと言っていい程にエルフらしさを感じさせない提案ばっかりじゃないか。



「でも今のままではシルエットでは見分けがつかないわよ?」

「誰目線だよ……っていうか俺とお前だけならエルフ耳かどうかで見分け付くわ」

「それだと今後登場予定のわたくしの妹が出たら被りますわ!!」

「お前急に姉属性ぶち込んでくるなよ……」



 ていうかなんだ、今後登場予定って。

 お前異世界人じゃん、登場するからには妹まで異世界から来る予定なのか? 計画的犯行なのか?

 どこまで俺の生活を壊す気なんだコイツ。



「だから、シルエットで分かるように……」

「というか、お前は髪型が奇抜だから割とわかると思うぞ? それにだ。そもそもジャ〇プキャラでも無かったらシルエットで分かる必要ねぇよ。そしてファッションでシルエット変えようとしたらあからさまに奇抜な格好になるからやめろ」

「うっ……確かにですわ……でも、それじゃあどうしたら目立つかしら?」

「どうしたらって……」



 そりゃまあ、色々あるだろうが、あからさまに萌えを狙わず、かつ印象に残るファッションか……。

 っていうか本当は目立つ必要はないと思うんだが。

 かといって、言って聞くような奴でもない、やると言ったからにはやる。

 なのでとりあえず無難な提案をしたいが……うーん、思い浮かばない。



「……そうだな…………あー、ギャップがあるといいかもな」

「ギャップ、ですの?」

「あぁ、例えば男なのにやたら可愛いファンシーな服とか」

「あー、ユウキの部屋みたいに猫塗れにするのね?」

「猫塗れとかいうな」



 確かに部屋には猫のポスター、写真、置物など、猫グッズばかりが並んでいるが、塗れって……。

 その言い回しだとなんか汚れてたり散らかったりしてるイメージじゃないか?



「とはいえ、わたくしならどうすればいいのかしら…………ハッ! 思いつきましたわ!」



 シュエリアは俺の発想から何かを得たのか、閃いたという顔をしたが、不安感しかない。



「リアルな筋肉Tシャツとかどうかしら!」

「――却下」

「なんでですの?!」

「いや、普通にありえないだろ。美少女が筋肉Tシャツ着てる姿とか誰得だよ」

「ギャップ萌えじゃないんですの?」

「じゃないな」

「そ、そんな……」



 いや、そんなにショック受ける事か? シュエリアの奴、四つん這いになって絶望してやがる。orzって奴だ。

 大体なんでいきなり筋肉に飛ぶんだ……どういう発想してんだコイツ。



「でもまあ、方向性は悪くないかもな」

「……というと?」

「面白Tシャツとかはいいかもしれないなと」



 テ〇カも普通のTシャツにジーパンだったし、コイツもシャツでいいだろ。

 本人の希望に沿って個性重視で『面白Tシャツ』だけど。



「なるほど。ならこれはどうかしら!」



 そういうと、シュエリアは衣装棚から何枚かのシャツを持ってきた。

 コイツなんでそんなに色々服持ってんだよ、いつ買いやがった。



「えーっと?……『働いたら負けん』『燃え尽きる程ミート』『こっち皆』なにこれ、意味わからん」

「格言Tシャツですわ」

「いや、うん、格言の意味が分からない」



 まあ見た目的には白か黒の生地に反対の色で文字が刻まれているだけなので至ってシンプルではあるのだが、もうちょっと普通の格言は無かったのだろうか。



「もうちょい分かりやすいネタの奴は無いのか?」

「そうねぇ……他には『何度目だナ〇シカ』『しいなきっ〇い岩』『ドンとこい異世界現象』とか」

「すげぇ分かりにくいよねそれ。どんだけTR〇CK推しなんだよ」

「何ですの、それ?」



 え、何コイツ、元ネタ知らないでこんなに買ってんの?



「そうか……アニメは見てもドラマは見ないか……」

「ドラマ?……」

「あぁ、その内見せてやるよ」



 このままだとうっかりドラマの話に流れかねない、それ以前にコイツのファッションを何とかしなければ。



「とりあえず、シュエリア」

「何よ?」

「もうお前、これ着ろ」



 そういって俺が手渡したのは「魔法少女キャラTシャツ」と「チェックのシャツ」そして「ジーパン」



「これを着るんですの?」

「そうだ、これはな、ある程度分かりやすいオタク衣装だ」

「オタク衣装……これが……」



 シュエリアは俺の言葉を受けて何か感銘を受けたように服をまじまじと見ている。



「これを着ればオタクの……娯楽文化の一員というわけね?」

「そう……だな」



 いやまあ、実際問題こんなもの着ていなくてもコイツはもはやオタクエルフなのだが、まあ、こう言ってやればコイツも乗り気になるだろう。

 正直に言うとオタクファッションのエルフとか嫌なんだけど、それでも先ほどまで提案されてきたような衣装で傍に居られるよりはよっぽどマシという物だ。



「ということで早速着てみましたわ?」

「早っ?!」

「魔法で早着替えできるんですの」



 なんでそんなすっごく微妙なところで魔法を使うんだろう。

 もっと別の事に使ってファンタジー感を主張して欲しい物だ。



「で、どうかしら」

「どうって……」



 どうと言われても、そこに居るのはエルフのコスプレを半端にしたオタク……という感じのシュエリアだ。

 顔だけエルフで後は普通にアキバとかアニメイベントに居そうなオタクだ。

 キャラTが見えるように前を開けたチェックのシャツに着古したようなジーパン。うん、古きイメージのオタク像という感じだ。

 まあジャージでもいいんだが、ジャージは俺のエルフ像がごっそり逝かれるからダメ。絶対。



「そうだな、普通にオタクだな」

「そう? ふふっ……これでわたくしもオタク文化の正式な仲間入りですわ!」



 そう叫んでは何か満足そうに、本当に満面の笑顔を咲かせるシュエリアさん。

 何がそんなに嬉しいのかね……。

 逆に俺は俺の中の神秘的なエルフ像をぶち壊されて乾いた笑みしか出てこない。



「今日からは毎日キャラTを着まわして生活しますわ!」

「はぁ……さいですか」

「さいですわ!!」



 こうして、シュエリアのエルフファッションは「キャラT」になり、後日、アマ〇ンから大量のキャラTが届くことになったのだった。

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