第2章 オレを死神と呼ぶな_その1
それでも、ある程度太い「流れ」がある。海路や空路の物資搬入から始まり、品物の大部分を扱う
ホテル・ブギーはヤードセール
地獄の街で、天国のようにラグジュアリーなひとときを──というキャッチコピーだが、そんな街に堂々と根を張っている時点でまともな連中ではないのだ。事実このホテルは裏であらゆる悪徳ビジネスに
爆炎と
「死神? どんなヒトなん?」
「なんのつもりか知らんが、
テーブルを隔てた向かいには、ラウンジのシックなイメージに似合わない派手めなファッションの少女がいる。食べているのは幽体離脱ピザの臨死体験激辛マックス、Mサイズ2800円。浮遊霊が配達する道路状況関係ナシの最速配達がウリだ。
「
お世辞にも行儀がいいとは言えないが、
「……はぁ~。さぁ~~て。どう言い訳したもんですかいねぇ」
「ねーねー」
「あー、先方が着くのは確か明日だから、それまでにはどうにかこうにか……」
「ねーってばねー
なんでございましょ、と顔を上げると、女子高生の
口元についたチーズの
このホテルは高いだけあって上から下まで高度な防備が施されており、扉や窓はそこらの携行火器ではびくともしないようになっている。特にこのラウンジのドアは金庫扉にも匹敵する耐爆仕様で、ちょっとやそっとのダメージなどものともしない。
「誰か来てるんですケド」
「……はい?」
ぢかッ──と、ドアの輪郭を謎の火花が
あっと言う間もなく、斬首された人間のようにドアが倒れる。
外れた枠を踏み越え、異様な風貌の男が入ってきた。
「三秒待つ。それを捨てろ」
「あ、バレちってた。やる~☆」
「お前がヤードセールの長だな」
男に声をかけられ、
「いかにも。あたしは
分厚い白のロングコートと、
この男に名前は無い。あったとしても誰も知らない。
素性、経歴、その他一切が不明。幽界化後から活動を始めたことから人間ではなさそうだが、仲間を持たず己の実力だけで裏社会に名を
自ら名乗らないだけに、他人が勝手に付けた異名は数多い──マスク男、天才、顔無し、灰の亡霊、
「
彼こそ本件の最重要人物。幽体麻薬、
「積み荷が奪われたそうだな。誰の仕業だ?」
語るとなれば一切の前置きを排除するタイプらしい。
「あー……『死神』って野郎です。それと、素性がわからん外人。戦争狂の
「お前たちの損害に興味は無い。聞きたいのは、どう決着を付けるかだ」
待ってました。
「もちろん考えてございますよ。こちらの御仁は
「やっほーよろしくねハイドちゃーん。アタシのことはスイでいーよ~! ほらほらハイタッチしよーぜハイタッチ!」
いきなり地雷原でタップダンスが始まった。
「手駒はこいつだけか」
「はうあ。なんだよもー。もうちょっとデレてもいいじゃんかさー」
意外と穏便な返しにほっと一息ついた。
「『ブギーマン』。このホテルが誇る
ハイドの様子からはどんな感情も
「あ~お待ちをお待ちを! よければしばらくこのホテルを使ってくださいな。最上階のロイヤル・スイートをご用意してございます。ああもちろん宿賃はいりませんのでご心配なく」
「監視のつもりか?」
「監……いやぁそんな大それたこと、冗談きついんですから、ははは……」
完全に図星だった。ハイドはさしたる反応も見せず、
「──俺は先にこの街を歩き回る。調べておくこともある」
途端に好奇心が湧いた。
「そいつは
「だったらどうする?」
「夢のある話ですなぁ。あれほどのクスリを作った天才のやることだ、こちとら気になって仕方ありませんや。ねぇ、実際ありゃどうやって作ってるんですかい?」
「いずれわかる。……それと、虫は好かん」
ぶち壊したドアの向こうに消える直前、ハイドは己の左肩に手をやった。
ぴん、と米粒大の機械が指で
「んひひ……そっちもバレちってたか~」
楽しそうに
「……あ~~~~死ぬかと思った。あのオーラは人間にゃキツいっすわ……」
元は古くから続く貿易商の三男坊。幽界化のゴタゴタで一族郎党地獄に落ちて、生き残りの三男は
とはいえそもそも根が小心なのであって、得が無ければ恐ろしい
「あっはは、ぶっちーウケる! めっちゃ頑張ってたじゃ~ん☆」
「そらどーも……そちらさんも、よろしいですね? やっこさんら一筋縄じゃいきませんぜ」
「おちんぎん次第かにゃ~。ところでさぁ」
と、
「あのヒトどうやってここ来たんだろうね。見張りとか、ホテルの人とかいたっしょ? うちらに何の連絡も無いのっておかしくない?」
言われてようやく、来客の報告すら無かったことに気付いた。
ホテル内はどこだろうと従業員の油断ない
あの男は一体、どうやって一人で最上階まで来たのだろう。
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