第二十四話「最後の砦」
「
微笑を浮かべる
事実、伏見は理想の人ではなかった。彼女にとっての人助けは現実逃避の手段であり、思いやりの行動ではなかったのだ。カントなら迷わず伏見を偽善者と呼ぶだろう。俺と同じ偽善者。結局、伏見は必要条件の理論の反証ではなかった
でもそれが何だというんだ。
「俺にも姉ちゃんがいる」
俺は
「そう、だったね」
「俺の姉ちゃんはいつもふざけてて、俺にまでボケ倒してくるような面倒な人なんだけど、話してると明るい気持ちにしてくれる面白い人なんだ」
低い声を吐き続ける俺を伏見は
「それに、家族のグループチャットがあるんだけど、時々会話の通知が
まずい、これでは家族自慢みたいになってきた。
「つまり何が言いたいかというと、家族が消えたらどうなってしまうんだろうって考えてみたんだ。俺はきっと、
俺は伏見に向き直って「
伏見は
「気持ちは嬉しいよ。だけど、野田君に甘えたらいけない。
危うい。伏見は
「
「嘘じゃないよ、あの家を耐え抜いたんだもん、
「伏見は強いよ。でも強いからといって、耐えなければならない訳ではないだろ。君はもう充分過ぎるほど我慢したじゃないか。
強い人は
一度
「で、でも、
「
この言動が俺の成長に
「俺は、君の最後の
俺は
「君がまた人を信じられなくなっても、
感情が言葉を
伏見は「
「最近、夢を見るの。
伏見が
「
声は揺れていた。
湯を沸かし直して、
伏見がノートパソコンに
俺は少々バツが悪くなる。
「言い訳がましいけど、一応俺は最後まで見れてないからな」
伏見はくすっと笑った後「そうじゃなくてね。『あぁ、お姉ちゃんからは逃げられないんだなぁ』って思ったの。これは
「もし呪いのようなものがあるんだとしたら、それをかけたのは君自身なんだと思う」
「……そうだね、野田君の言う通りだよ。
「えっと、そんな手厳しいことが言いたい訳じゃなくて、俺にはさ、傍観や逃亡の罪悪感から自らを罰そうとしているように見えるんだ。だからその呪いは、自責のために君が作り上げたものなのかも知れない。きっと君は恨まれてなんてないって言いたかったんだ。悔やんでる人を、責めはしないよ。一番悲しかったのは、伏見なんだから」
しかし当人は「悲しい? でも、
「伏見、何言ってんだよ。大切な家族を失って、悲しくない訳がないじゃないか。だって君は、お姉さんの事が好きだったんだろ?」
「ふぇ? いや、嫌いではなかったけど、
軽くどぎまぎした伏見は
「……そっか。
伏見は目を落とした。声は再び揺れ始める。
「野田君。今、お願いしたい事が出来たの。
「ああ。
「
伏見は顔が隠れるほどに
落ち着かない俺達は机に向かって
「伏見、もうやめようか」
俺はこれ以上彼女の
俺達は手を
「ごめんね。……だめな妹でごめんね、おねぇちゃん」
語りかける伏見はいっそう手を固く握った。
「ばいばぃ。……ばいばい、わたしの、おねぇちゃん……」
無数の涙が彼女の
視聴後、伏見は涙を
役に立てた喜びと、伏見への同情と、未来に対する不安と期待、そこに足の
「俺も、伏見のお陰で最後まで見れた」
しかしどうあれ俺達は前へ進み始めたんだ。成長の限界だと感じた高校生の俺達から、次のステージへ進むための一歩。俺はそれを、十八歳が終わる前に伏見と共に踏み出した。
「そっか、どうだった?」
伏見は充血した
「ちょっと興奮した」
「えっ」
伏見は少し不機嫌そうに「野田君、それどういう意味?」と
咲き乱れる呪いの花に包まれて、少女はずっと立ち止まっている。少女はこのまま待っていればいつか光が射すのだと信じていた。そこに現れた少年が、共に暗闇を抜けようと少女に手を差し伸べた。黒の花々を
形而上下 宮瀧トモ菌 @Tomkin2525
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます