第二十一話「告白」
受験を乗り越え、家族から合格を祝い尽くされた後は、
大学の講義では席を自由に決めることができるのだが、俺は比較的
物理学者へを道を順調に
五月の連休に伏見は京都にやってくる。
今は最も暑い時間帯。
ほぼ予定通りの時刻に現れた伏見は、
「
「
まだ五月に入ったばかりだと言うのに、地域によっては真夏日を記録したのだそうだ。京都盆地に位置するこの辺りも負けじと暑い。
一歩後ろを歩く伏見が「最近、異常気象が増えた気がするよ」と言った。
「温暖化の影響もあるんだろうな」
「怖いね」
「そうだな」
俺達は
「新生活には、もう慣れたか?」
「
そうか。俺は高校から実家を出たが、伏見は
信号が青になり、横断歩道を渡る。その
「大学はどうだ?」
「勉強は楽しいし、それなりに頑張ってるよ。だけど文学部にはコースが
「まあ俺だって大学に友達はいないし、サークルにも入ってないから似たような状況だ」
「
人見知りの伏見と人嫌いの俺、
歩き続けて、俺のアパートに到着した。三階建ての最上階である。ポケットから
「取りあえず準備するか」
ノートパソコンを机に置き電源を入れた。俺は慣れた手つきでパスワードを打ち込む。ウェブブラウザを起動するも、回線の調子が悪いのかインターネットに
「あー悪いな。たまにあるんだよこういうこと。少し待ってみよう。伏見、飲み物は紅茶で
「あ、うん。
俺は
「サイトを開いといてくれないか。ブックマークにあると思う」
俺は
冷静に考えたら、自室に異性を
「いや、やっぱり俺がやろうか」
台所から戻った俺が目にしたのは、実に異様な光景だった。パソコンを
しまった。そうだ忘れていた。俺は何度かあの動画に挑戦するうちに検索をかけるのが
俺は
伏見にとって恐らく最も近しい男子が、彼女の色違いのような女性を
加熱の終了と共に、
「
伏見はゆっくりと顔を向け「どうして知ってるの?」と声を震わせた。絶望を体現したような
「ち、違うんだ伏見」
伏見は次々と語尾を上げた。
「何が? 何が違うの? 知ってるってことでしょ? 知ってるんだよね?」
普段の口調がおっとりしているから、いっそう
「伏見。何をだ」
「じゃあどこまで? どこまで知ってるの!?」
伏見の口から意図の
そう期待したのも
これだけ? 伏見は怒ってもこれだけなのか。
「偶然、なの?」
眉を八の字にして伏見は俺を見上げた。
「
伏見は
「分かった、話す。伏見に、もう嘘はつかないよ。約束する」
伏見は小さく「うん」と
「伏見以上に、論理的な語らいができる人を俺は知らない。君と話している時はいつも楽しかった」
伏見が
「伏見はいつも善い人だった。いつでも
ほとんど愛の告白である。しかし照れている場合ではない。俺はせめてもの誠意を見せねばならぬのだ。
「君を性的対象としないのが純愛なんだと思ってた。だけど違ったんだ。俺が伏見の肉体を求めないのは、崇拝していたからなんだよ」
「どういうこと?」不可解な
「俺には伏見が神聖な対象にしか思えないんだ。だから逆に、君を女性として見られればこの異常性は消えると考えた。それで探し出したのが、その
伏見は「
「だけど俺、最後まで見れてないんだ。君と性を繋げようとすると、どうしても苦しくなる。俺は伏見をただの
俺は
「だから俺は君の
「えっと、つまり、卒業式の日は……」
「あれは、伏見が理想の人じゃないなら見限っても良いと考えた上での裏切りだった。でも結局、本当の伏見は分からなかった。いや、やっぱり君は
俺の目が
「こんなことなら君を信じ抜けば良かった。ずっと後悔で胸がいっぱいなんだ。この自分勝手なところも、裏切ってしまったことも、異常な恋愛感情も、いまだ君を疑っていたことも、全てが嫌だ。君に
情けなくて顔が見れなかった。伏見は黙っている。時間と冷房の風だけが俺達を横切っていた。
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