第十九話「卒業式」
模試は良くてB判定だった。
受験が終わると、残るは卒業式と合格発表だけである。高校生の内に伏見を探れるのは
会って話がしたいから式が終わったら自身の教室で待っていてほしいという
卒業式の朝、
朝礼の後、卒業生は黄色いフラワーリボンを胸部に付けて
一度教室に戻って別れの
しかし俺には決戦が待っている。無理矢理にでも伏見に一泡吹かせねばならない。彼女に待ち明かしを食らわせるため、今から俺は身を隠さなければならぬのだ。
さてそろそろかと立ち上がった時、後方より近づく者がある。真っ直ぐな黒髪に
「放送席放送席ー、本日式で最も勝利に
「姉ちゃんはどうして狂った祝い方しかできないんだ」
水色のマイク型
「野田選手、第4セットのタイムリーヒットでオフサイドだったのが決まり手のように見えましたが、ご本人はどのように思われますか?」
「何だその色んなスポーツの合成キメラみたいなヤツ。俺達は卒業式に何やらされてたんだよ。……と言うか父さん達は?」
姉は小道具をポケットに仕舞いながら「ご
「
「そりゃあ母さんが式中にボッロボロ泣くから、それはもうボロ
「いや、雑巾は泣かない。強い子だから」
「あはは、いやホント泣きすぎて過呼吸みたいになっちゃってさぁ」
「え、それ大丈夫なのか?」
「知らなぁい。ていうかその泣き加減がツボだったから腹抱えて動画
「
どうせ
「その動画見たい? 見たいでしょ。いいよいいよ後で送ってあげるから」
「くふっ、要らないよ」
全く
「それでね、
姉は指先を両
「母の涙を笑った罰だよ、罰」
「でもさぁ、
「それを笑う娘がどこにいる」
「そう、そんな娘はいない。だからアタシは存在を許されない存在。夢。
「へー、そうだったんですか」
俺達の会話で観衆はニヤニヤしていた。姉は
姉は「てかもう学校に用はないんでしょ?
伏見を待たせている間に姉と食事に行くことは可能だった。しかし罪悪感から純粋に楽しめないと思う。それはどちらにも失礼な行為だ。まあ、
姉は振り返って不満を
「ご飯も一緒に行ってくれないなんて、おごるのに……小さい時は『
「俺言ってないだろそんな事。思い出を
「予定って何よぉ。女でしょ。どうせ女なんでしょ!」
「面倒臭いな。もう
俺は姉を教室から押し出す。背中を押されている姉は俺を
廊下まで追い出された姉は「そっか。じゃあ最後にコレだけ」と前置きしてから
「アンタの好きな子教えてよ」
「早く帰れ」
隠れる場所は決めていた。最上階の図書室へ続く階段。閉まっている図書室を訪ねる者などいないだろうと考えたのだ。
三階の渡り廊下を抜ける途中、近くに物理準備室があることに気付く。物理を愛する人間でありながら、あそこには全く良い思い出がない。そう言えば呼び出しを食らっていたな。
そこで、
「失礼します」
そこにいたのは目的の先生だけだった。スーツ姿の先生は「野田、来てくれたか」と低い声で言った。俺は黙ってオフィスチェアに腰掛ける先生に近寄る。
「野田も
先生は真剣な顔付きで俺を見上げている。何を言うつもりなのだろう。また説教でもするつもりなのか。俺は何を言われても動じないつもりでいた。しかし結果だけを言えば俺は
「野田、
大柄な男が
「ずっと謝ろうと思ってたんだ。だけどお前は俺を嫌ってるみたいだったから。謝罪を野田は望んでいるのか。俺の自己満足の為に、受験生の時間を奪うのかと尻込みしていたら、
俺は正直困った。謝罪を受けるなど思いもしなかったからだ。
先生は力のない表情を俺に向けて「俺達教員より、お前
「俺は学者になりたかった。でも、
先生は立ち上がって最敬礼をした。
「俺が小さかった。許してくれなくて
倫理的であるべき人が、倫理的であるとは限らない。俺はこの人をその例のように
「俺も。ただの訂正にしては言い過ぎだったと思ってたんです。謝るのが、大変遅くなりました。本当に、済みませんでした……」
俺達は頭を下げ合う。これにて先生と俺の小さな
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