第十五話「知らない世界」
『あの……もう、閉室時間、です』
……。
『物理の何が知りたいんだ?』
……。
『楽しいなぁって、議論って面白いなぁって』
……。
『気になる人なら、いないこともない』
……。
『恋と呼んでみることにした』
……違う。
『青春を
……違う。
『
『俺達は、そんな汚い関係なんかじゃない!』
違う。
『もっと潔白で、美しくて、ありがたいもので』
違う。
『これは恋じゃない』
『そんな青春じみた単語で呼んではいけない』
……そうか。
『これはただの
土曜日は晴れていた。七月に入って初めての晴天である。
朝食とも昼食ともつかない食事を済ませても、頭の中はまだ
きっと浮かれていたのだ。これほど俺と議論できる人はいないと知ってしまってから。伏見に恋をする自分は、青春を
科学はそれ自身までも疑ってこそ科学だと言える。科学の
これまで「善い人には精神的
もう一つの問題は、
俺はアセクシャルではなかった。いっそのことそうならば何の問題もないのだが、一般と比べて弱いにしろ俺にも性欲はそなわっている。実際、伏見を除いて女性を性的に見ることは可能である。それなら伏見に非があるのだろうか。いや恐らくそれは違う。伏見は
ならば逆に、俺が伏見を性的な対象としても意識できるようになれば、この崇拝心は消えゆくということなのだろうか。直感では、それは非常に
俺はノートパソコンを起動した。ポータルサイトを開き、アドレスバーに「
検索結果から適当にサイトを選んで、無数のいかがわしい動画一覧をスクロールした。何はともあれ、縦に並んだサムネイルから極力似ている人を探す。俺は事務感覚で選別を始めた。様々な
その
それにしても見れば見るほどに、何だこれは。この世にはそっくりさんが三人いると聞くが、この女性は間違いなく伏見の色違いである。
動画のタイトルから推測するに、彼女は
俺は二等辺三角形をクリックする。非等速な円運動が繰り返される読み込み中、俺の鼓動は
そして
本当に伏見が
俺は知らない世界を
そして、ただ気持ちが悪くなった。胸部の違和感が血肉を伝導して全身へ広がる。胃が逆回転を始めた。消化管を逆走する物がある。俺は合体まで耐えることもできずに急いで台所に向かい、口から
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