第十三話「必要条件」
偽善者と言うと「善い人に見せかけたい人」を想像するかも知れない。事実、カントの理論を聞くまで俺もそう考えていた。
どうやら俺は見当違いの方に向かっていたらしい。俺はこれからどう生きれば
結局、俺は身近な善い人に助けを求めた。どうしようもない俺は
購買は一階渡り
俺が
考え事の
「購買部には初めて来たけど、結構人が多いんだね」
白い机に
「大体いつもこんな感じだ」
「野田君はよく来るの?」
俺は「よくって言うか、毎日だな。弁当を作るのは俺には無理そうだから」と答えて、プラスチックの
伏見は手提げから取り出した
伏見の手元には白米を
「それ、自分で作ってるのか」
伏見は「そう、だね」と
「俺は充分
「え、いや、確か、二年生になるちょっと前からだったような」
「そうなのか? じゃあ、その前はどうしてたんだ」
「それまでお母さんに作ってもらってたんだけど、
これまでもつくづく遠慮深いとは思っていたが、俺の想い人は両親にまで気を使うのか。記憶が正しければ、伏見は実家暮らしの
俺達は
「昼休みを
「それは大丈夫だけど、どうしたの?」
同じベンチに座った伏見が心配を声に変えた。
「
これは
「俺は、善い人になりたかったんだ。別にボランティア団体に入ったり、派手に
伏見は驚くことも失望することもなく、ただ穏やかに「じゃあ、野田君が仕事を手伝ってくれたり、勉強を教えてくれたりするのは……」と事の因果を追っている。
「そう、善い人への前進のつもりだったんだ。だけど俺がやってたのは、経験値
俺は
「そうかなぁ、
「難しいのは分かってる。でも難しいから
「相談事は、今
俺は
言葉を交わさないまま時間だけが流れていった。購買から
「変われないってことはね、中々変わらないってことなんだよ。
俺は顔を上げて彼女を見た。伏見はここから見える中庭の池を優しい目で
「だから、そんなに悲観することは、ないんじゃないかな。予想してたよりも目的地が遠いと分かって、
そう言いながら徐々に俺に顔を向けた伏見は、最後には俺の目を真っ
伏見の
伏見は別れ際「解決できなくて、
恐らく一番の間違いは、今の俺のままで善い人になれると思っていたことだ。もし善い人になる必要条件が存在するなら、まずはそれをクリアしなければならない。その条件とはどのようなものなのだろうか。
どれだけ
俺は
自分を含めた
そしてここに一つの仮説が生まれた。それは、善い人になれるのは
しかしこの理論にはまだ問題点がある。善い人である伏見に、それほど大きな欠点があるとは思えないのだ。伏見という反例が実在する時点で、この命題には改善の余地がある。ならば、伏見には何か秘密があるはずだ。伏見の存在はこの不完全な必要条件の理論、または俺が善い人になるための方法に新たな視点をもたらすはず。そのために、まずは伏見を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます