第九話「春」
朝型か夜型かと問われれば、俺は恐らく夜型の人間だ。ただし夜が得意というよりも、朝が
生まれてこの方、定時に起床できた試しがない。中学を卒業するまではずっと家族に起こしてもらっていた。目覚ましが鳴っていようが構わず夢の中にいるものだから、アラームが
高校に受かって一人暮らしを決めた時も、そのことで親から
とは言え二度寝はいまだに
高校生活最後の春休みは例によって二週間弱という中途半端な長さで、もう少し長ければ実家に帰ることも視野に入れたのだが、どうも面倒になり帰省しないことに決めてしまった。俺が帰ると母の張り切りで夕飯が
さて、腹が減るまでベッドに転がって携帯を
それにしても家での作業は
俺は他人に興味を示さず、人からどう思われようが気に留めない一方で、物理的な視線に苦痛を感じる人間だった。信用できない他人はいつ攻撃してくるか分からないから、護身として相手の情報収集に全ての処理能力を使い果たしてしまう。深層心理を探れば、そんな俺の人間不信から起こる症状なのかも知れない。人間不信という響きは
課題や脳内討論会、本を片手にお茶
『突然連絡して
気になっている人からの相談。俺は少しばかり緊張しながら「問題ないぞ、どうかしたか?」と返信した。
『
『数学で分からない
それならとりあえず、
『直接会ってお話もしたいなって思ったんだけど』
『
俺は伏見の言葉を理解するのに三度もこの文を読んでしまった。表面上は勉強会の提案に聞こえるが、これはもしや
「いや、別に構わないぞ」
『
「しかし、どこに集まるんだ? 図書室は閉まってるだろうし」
『それは決めてあるの。ちょっと待ってね』
そのまま待っていると、伏見から集合場所の所在地が地図アプリの形で送られてきた。俺達の高校からほど近い喫茶店のようだ。
『
俺の「了解した」という返答によって本日の相談は終了した。
しかし、最後に友人と休みに遊んだのはいつのことだったか。小学生の時は同級生と遊んでいたことを確かに覚えている。中学校から勉強が忙しくなってきてその機会は
その頃の恋心というのは、意中の子がふとした時に気がかりだったり、意味もなく一緒にいたいと願ったり、手を
今の感情にはその時ほどの激しさがない。順に比べてみよう。まず、伏見は気がかりどころか安心感を与えてくれる存在である。それは、似た
次に、時間の共有を望む理由ははっきりしている。それは面白いからだ。人と議論することの楽しさを教えてくれたのは伏見だった。目的があるとはいえ、一緒にいることを望むのは恋との類似点だと言えよう。
続いて、伏見の肉体に触れたいと思ったことは一度もない。昔の自分も含めて世の人間は、恋愛対象に肉体的な欲求を持ちすぎているように感じる。外見さえ優れていれば良いと言う者もいる始末ではないか。俺はこれに
最後に、告白は今のところ考えていない。そもそも何を打ち明けられるのだろうか。告白すべきか
総合して判断するに、恋のようではあるのだが、これまでの恋とは似て異なるものとしか形容できない。まあ、結論が出るまで
脳内議論に
『もう絶対に許さない!』
『300kg
俺との個人チャットスペースに、例の
「誰に送るつもりだったんだ、それ。全く状況が
ご存知の通り、姉はふざけていないと
『
やはり覚えてやがらっしゃったか。
『内容次第で母さんに報告するヨ!』
「変に喜びそうだから母さんにだけは
『あー、確かに。赤飯とか
じゃあ、赤飯
『それはそうと、なんか進展ないの? バッチコイ恋愛相談!』
『お姉ちゃんがアドバイスしてしんぜよう』
伏見の対極にいるのが姉である。だから姉の助言はてんで役立ちそうにないのだが、ここで
『アタシも参加していい?』
「
『な〜んでダメなの? はぁ、弟が遠くに行っちゃうみたいで、お姉ちゃんホント悲しい(笑)』
文章から
『フハハハハ! 何を言っても後の祭りだぁ!』
『
悔しいが笑ってしまった。まあ、姉のおもちゃになるのも、たまには悪くないか。
とにかく今は、
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