第六話「悪魔」
気付いてしまえば二月の
「
俺は少女の名を呼んで隣同士になった。窓を
「お疲れ。いや、というか、本当に疲れてるみたいだな伏見」
「え? うん、ほんの少しだけど……」
伏見はそう答えて目線を落とした。右
俺は丁寧に「
「元々、哲学と科学に区別なんてなかったんだよ」
話の入口が予想外である。ここからどこへ向かおうというのか。俺は警戒しつつも、
「確か科学は初め、
「うん、自然哲学だね。だけど、
俺は「何て言い草だ」と
伏見は大きな
「そりゃ
文系とはいえ
「でも、哲学に興味がないなら、仕方ないのかな」
「俺も面談で、理工学の方が物理より仕事に
「
伏見はも一つおまけに
しかし、入口の
「駄目だなぁ。何だか
伏見は寂しそうに
「俺が議題を出すのか? うーん、そうだな、それじゃあ
「多くの人が物理で最初に学ぶのはニュートン力学だと思う。これは古典力学の一分野で目に見える物体の物理学だ。例えば、重力場での
「水平と
「そうだな。まあ、どう解くかは今回関係ないんだが、とにかく軌道が求まるということは、条件さえ与えられれば運動方程式から未来の運動は一つに
「決定論、かな?」
俺が言うはずだった単語が伏見の口からひょっこりと現れた。伏見は気持ちしたりげである。
「お、知ってたのか? じゃあ、ラプラスの悪魔も聞き覚えがあるんじゃないか?」
「あっ知ってる。知ってるよ。ラプラスは科学者だよね。えーと、ちょっと待ってね。知ってる
右手をこめかみに当て夢中で記憶を探る伏見を見て、俺は胸を
「ある瞬間における全物質の状態と力を記憶し、それらを解析できる者が存在するなら、その者は過去、未来に起きる全て知ることになる」
「決定論は古典力学の
「つまり、野田君は自由意志
伏見が耳新しい言葉を用いて俺の立場を確認する。
「自由意志か、初めて聞いたな。どういう意味なんだ?」
「ええっと、人は運命的な影響を受けず、
「
「決定論や自由意志は昔から存在する議論でね、
伏見が
「それは興味深い話だが、逆に自由意志否定派はどういった考えなんだ?」
「一部の立場では、
「それだと決定論を理由に犯罪が増える気が――。でもその時には犯罪という
伏見は窓越しに遠くを見つめて「
「自由意志は一旦置いとこうか。ラプラスの悪魔の続きを話そう。少し前に話した波が
伏見は聞く体制をゆるりと立て直した。どうやら話題転換に異存はないようだ。
「波のエネルギーは
「えっと、確か赤外線の方が波長が大きいから、周波数は小さくなって、……だから、紫外線の方がエネルギーが大きいんだよね?」
「そう、紫外線はエネルギーが大きいから浴び過ぎると体に良くないんだ。とにかく、周波数が大きいとエネルギーも大きい、これを覚えておいてほしい」
伏見が
「俺達が
拳で
「
よくそんなことに気がつくものだ。
「
「そっかぁ」
伏見は残念がっているような、そうでもないような返事をした。どちらにせよ、まだ
「あー、話を戻すようだが、そもそも哲学が
伏見は静かに次の言葉を待っている。
「哲学のない世界が倫理的にどうなのかを検証するのは哲学だ。少なくともその問題を考える上で哲学は必要だと思うが」
伏見が「そうだよねぇ」と弱々しく同意した。
「
伏見、君はそんなことを考えていたのか。俺は時々、伏見に
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