第2話 贄の少女

 村人たちが集まり神妙な顔つきでうつむいている。その者たちは粗末な着物を身に着けいたるところが泥で汚れていた。日々大地と共に生き精魂尽きるまで働いている証かのように指先の爪までもが黒く染みていた。

 山の神の怒りのなごりなのか灰の降り積もったこの土地での米作りは難しく、人々は畑を耕し芋などを育て何とか暮らしをたてていた。


 静寂を破り長老らしき人物が意を決して少女を見つめしわがれた声で話し出す。

 「しずく、わしの頼みを聞いてくれぬか。この日照り続きで大地はひび割れ作物の葉はみなしなびている。川や池は涸れ果ててしまい残ったのは三宝寺池だけになってしまった。、、、、、、」苦悶の表情で絞り出す声が詰まる。


 「私は水を絶やさないように三宝寺池の水守様のもとに参ります。幼き頃に親を亡くした私に村の皆様は食べ物を分け与え育ててくださいました。やっとご恩返しができるのです。喜んで参ります」しずくと呼ばれた少女はまっすぐに顔を上げしっかりとした口調で言うと周りの大人たちを安心させるように澄んだ瞳で微笑んだ。


 村人たちからすすり泣きや嗚咽の声が洩れる。隣にいた左の目元あたりに黒子のある女性が少女を抱きしめながら叫ぶ。

 「だめです。こんなことは間違っています。しずくには確かに実の親はいません。でも、私はしずくを自分の娘だと思っています。お願いです。どうしてもというのなら私を贄にしてください」

 女性は幾度も泣きながら懇願したが聞き入れられることはなかった。贄にふさわしい少女ではなかったから。


 しずくが村人たちが誂えた《あつら》新しい着物に袖を通し池のほとりに立ったのは翌日のまだ日が昇る前のことだった。

 

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