第四楽章(3)

 デビューしてからというもの、摩耶子の生活は一変した。曲が大ヒットを飛ばしたという訳ではないが、以前から彼女を知っている業界の仲間たちが、あの手この手で摩耶子を応援してくれた。雑誌のインタビューやら、ラジオ番組にも出演したりと、忙しい日々が続いていた。


「摩耶子、そういえば、この間プロモーションをしてくれたFM局に、摩耶子宛の電報が届いているって連絡があったよ」

 成りゆきでマネージャー役をつとめてくれていた村尾が言う。


「私宛に電報? いったいだれかしら?」


「さあ、電報で送るくらいだから急ぎの件だろうからって、あとでこっちに届けてくれるってさ」


(携帯電話やメールがこれほどまでに発達した世の中で、今時、電報を送るなんて、いったいだれなんだろう? ラジオ局宛に送られてきたってことは、私の住所や電話番号を知らない人ってことだわ。つまり、私にもファンができたってことかしら? でも私の曲を聴いて気に入ってくれたのなら、電報なんか使うかしら? 何か特別に私に伝えたいことでもあるの?)


 その夜、打ち合わせを終えた摩耶子に「はい、お届けものです」と言って、スタッフのひとりがFM局の封筒を差し出した。

 摩耶子は受け取るなり、急いで封を開けた。


『マヤヘ イイツタエヲシンジテイル       トオル』


 メッセージを読むなり、摩耶子は全身が熱くなった。心臓が飛び出しそうになり、鼓動が周囲に聞こえるのではないかと思えるほど高鳴った。指の震えが止まらない。唇も歪む。顕在意識を越えたところで、もう勝手に身体が反応しはじめている。喜び、驚き、戸惑い……、それらすべてが混じり合った感情が込み上げてくる。こんな気持ちは生まれて初めてだ。


「トオル……、あなただったのね」

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