5話 『承諾』
王都に来てから2週間が経ち、討伐任務を受けてみようかな、と思っている時だった。
「おめえがリアムか?」
これまた屈強な男が話しかけてきた。
何人も殺・っ・て・きたのではないかというほどの恐ろしい目つきと、10年くらいは冒険者を続けてきたのではないかというほどの体つき。だがよく見ると、顔はかなり美形だった。赤毛でガラの悪そうな人だ。
「はい、そうですけど……」
リアムは自分の名前を知っているこの男を警戒しつつ答えた。
「俺はアイザックだ」
なんとアイザックと名乗ったその男は握手を求めてきた。
リアムが握手をするのを躊躇っているのを察して、アイザックはばつが悪そうに手を引っ込めた。
「あー、すまんすまん。ちょっと話したいことがあるんだ。えーと……奥の酒場で話さないか?ここだと騒がしいんでな」
酒場も十分騒がしいだろうと心の中でツッコミながらリアムはアイザックについて行った。
酒場は入っている人数自体は少なかったが、相当うるさかった。
アイザックは背伸びをして密談に適していそうな席を探す。しばらくしてから、
「酒場は酒場だな」
と、諦めたように言って肩を竦めた。
アイザックはカウンター席を指差した。リアムもそれに倣いカウンターに座った。
「ザックか、いつものでいいか?」
白い口髭を生やし、意味がなさそうな小さい丸メガネを掛けた紳士的なマスターがアイザックに尋ねた。
「あいや、今日はボルトン・ウィスキーがいいわ」
「本当に?」
マスターがメガネ越しにアイザックを見て言った。
「ああ、あいにく金欠でな。2500ゴールドもするファイア・ウィスキーなんて飲めねえや。今週中にでかい任務受ける予定だからよ、そん時には、この店でイッチバン高い酒飲んでやる。今日はボルトンでいい」
マスターがにっこりして頷いた。
「こちらも金欠でね」
そう言ってマスターは店の奥に歩いて行った。
「アイザック、さん?」
「呼び捨てでいいよ」
「アイザックはウィスキーなんて…強いお酒を飲んでも大丈夫なんですか?まだ昼間ですし、もう少し弱いお酒でも…」
「そのことか。俺は酒に強くてな、なんというか、加護ってやつだ。酒好きにはありがたい加護さ」
そんな加護があるのかーーー
そうリアムが感心していると、アイザックが改まって座り直したので、リアムも身構えた。
「単刀直入にいうとだな、勧誘だ」
「何の?」
「パーティの」
「え?」
「ああ、パーティだ」
「え?」
「パーティ名はニュートンズ」
「ふぇ?」
「声が裏返ってるぞ」
リアムは目をぱちくりさせた。
頭が混乱しているところに、マスターがやってきた。
マスターはボルトン・ウィスキーをボトルに注ぎ、アイザックに渡した。
「ボルトン・ウィスキーだ、ザック」
「どうも」
アイザックはウィスキーをズズ、っと啜った。
「はぁぁぁ、強烈だな」
アイザックは噛み締めるように言ってからこっちに向き直した。
「なぁ、どうだ?」
「そんなこと言われましても…」
「お前が、領主の娘と任務をこなしたっていう期待の新人だろ?…あーの…メアリーっちゅうアマが褒めてたぜ」
「その小娘が領主の娘ですよ」
「ゲェッ!?そうなのか!?お前、顔見知りだろ?…今の、黙っといてくんねえかな」
リアムは苦笑いしながら頷いた。
(しかしメアリー、褒めてくれてたのか)
リアムは満足したように何度も頷いた。
「話を戻すことにしよう。なぜ、お前のようなホヤホヤの新人を起用しようと思ってるかというとな、今、ニュートンズは世代交代の狭間にある。アーディ・パロキアブラザーズ時代からのベテランが次々に引退して、その頃新人だった俺ももう28だ。10年が経ち、俺がリーダーになった。それで、引退したり犠牲になったベテランの後釜を探してるってわけだ。まあ詳しい事は後で説明する。時間がないから今決めて欲しい」
ぶっちゃけた話、アーディ・パロキアブラザーズが何かはわからないし、ニュートンズなんてパーティ聞いたこともない。
ーーーだが、答えはひとつだ。
「ぜひ、やらせてください!」
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