4話 『新米冒険者、こき使われるの巻』
リアムはイライラしていた。
血がててきている指を舐めて、トランクの中を漁る。
リアムが探しているのは、先日頂いた剣である。
ところが持った方は持つ方では無く刃の方だったのだ。
リアムはやっとの思い(?)で剣を引っ張り出し、時計をみる。
ひと目見た瞬間、リアムはうなだれた。
約束の時間を20分も過ぎている。
リアムはションボリしつつも装備を整えて宿を出た。
「は…ごっ…ごめん!」
「……」
「いやそれが!剣が見つからなくて!」
「プラマイゼロね」
(嘘でしょーーーーーー!)
「時間に遅れただけなのに…」
リアムは自分の失言に遅れて気づいた。
気づいたと言っても、メアリーが鬼の形相でリアムを睨んだため何となく察しただけなのだが。
今日はメアリーと任務をこなす予定だったのだが、リアムは約束の時間に遅れてしまったのである。
「はぁ…それと、リアム」
「はい…」
「今日やるのはパン屋と農家のお手伝いだから、剣はいらないのよ」
「えええええっ!」
リアムはガックリと膝をついた。メアリーの自分に対する評価を下げてまで剣を探したのに……これでは損ばかりだ……
というわけだ。
「私の2倍は働いてね」
メアリーは笑顔でそう言った。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
リアムは今、こき使われている。
リアムは箒でパン屋の前の道を掃除しながら、奥で店主と楽しそうに談笑しているメアリーを恨めしそうに見つめた。
もちろん、遅れたリアムが悪いのはリアム自身よくわかっているが、文字通りこき使われ、もうメアリーの5倍は働いている自信があった。
リアムはため息をついて時間を確認した。
「もう5時間……」
自分が箒で掃いていた時間を改めて確認し、もう一度ため息をついた。
すると店主がこちらに歩いてきて言った。
「今度はパンを配達してくれるかね」
リアムは小声で悪態を吐きながらパンが入った箱を持って街へ出た。
王都パルデラの街、特にこのパン屋があるミルフォール区は特に騒がしい。主に商店街しかなく、住宅などはないので騒音などをあまり気にしていない店が多すぎるのだ。それについてはパン屋の店主も文句を言っていたし、メアリーも任務を受ける際「ミルフォール区……」とがっかりしたように呟いていた。
リアムは少し早歩きになりながら周囲を見渡す。
胸騒ぎがしてしきりに後ろを見る。端から見たら完全に挙動不審の不審者だが、リアムはそれが気にならないほど不安に駆られていた。
これほどうるさい街なのだから、ヤバい輩は少なくないだろうが、それどころではない殺気をリアムは感じ取ってキョロキョロしていた。
しばらくしてから落ち着いたリアムは安堵の息をついてから、
「気のせい気のせい」
と言って自分の不安をごまかした。
肩を回してふと斜め前を見る。
「ッ!!ーーーーーー」
エミリアーノ。
その男の名前が頭に浮かんだ。
もう話し方でわかるほどしょぼい男達とわかったロイドやソルダードと違い、彼だけは別格のオーラを醸し出していた。
エミリアーノがこちらへ歩いてきたが、怖くてその場で立ち尽くしてしまった。
「あまり、こっちに来ない方がいいな。ここに住んでるのか?宿があるのか?違うんだな。ならここには来るな。お前がこの間見たような光景は、こちらでは日常風景だ。それに、ロイドやソルダードみたいな雑魚ばかりじゃない。それがわかったら、さっさと消えろ」
(全部バレてるーーーーー!!)
薄々気付いてはいたが、この間エミリアーノのチラッと見られたように思ったのは気のせいではなかったのだ。
リアムは何も言わずに回れ右して商店街に戻った。
(我ながら情けない…)
エミリアーノにあったらパンチを1発喰らわせてやろうと思っていたのに、恐怖のあまり立ち尽くして、何も言わずに回れ右してしまったのだから。
リアムは今日何度目か分からないため息を吐き、とぼとぼ住宅地に歩き出した。
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「いやぁ!本当に助かったよ!」
パン屋の店主が主にメアリーに言った。
メアリーは店で接客をしていたのだが、この美貌だ。いつもの20倍は客がきたのだろう。
「いえ、私は何も」
メアリーが謙遜する。
「ほれ、これ報酬の3万ゴールド」
「「こんなにいただけません!」」
メアリーとリアムは声を揃えて言った。
本当は1万ゴールドのはずだった。
「いいのいいの、リアムくんは店を綺麗にしてくれたし、メアリーちゃんはその可愛さでお客を引き寄せてくれたし、これでもまだ少ないくらいだよ!」
「そういうわけには…」
(そういうことならいいか!)
「えっ」
「何?リアム」
リアムはメアリーの心の綺麗さに黙り込んだ。
「メアリー、ここはもらっておこうよ、僕もカツカツだし」
リアムがそっとメアリーに耳打ちした。
「そうね、最後本音が出てたけど」
そうして、リアムとメアリーは15000ゴールドずついただいた。
リアムはポケットに紙幣とコインを突っ込んでニヤニヤした。
「リアム、私商店街に用事があるから、先帰ってていいわよ」
「わかった。今日はありがとう」
「ええ、私も。また一緒にやりましょうね」
メアリーの背中を見送り、リアムはまたニヤニヤしながら頷いた。
リアムの冒険者生活は、まだまだ始まったばかりである。
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