2話 『彼女との出会い』

リアムは腕時計…冒険者ウォッチを確認した。

時計の機能がある冒険者ウォッチが指しているのは8時。


「わっ!寝坊しちゃった!」


リアムは急いで着替えて、自分の剣を持って宿を出た。


(なんの任務があるかな……)


リアムはギルドの掲示板を見た。


(これ良さそう)


【助けてくレ!】{F}

剣の材料の魔石が足りないんだ!でも鉱山にはモンスターがたくさんいる!なんとか魔石を取ってきてくれないだろうか!

《依頼者》ハドソン・ボイド〈鍛冶屋〉

《推奨レベル》1〜15

《報酬》鍛冶屋の好きなものを一つ


報酬が高すぎるのが少し気になったが、リアムは気にせず受注することにした。

リアムは依頼書を掲示板からはぎ取り、小さい魔法陣のようなスタンプをウォッチにかざす。

ピコン!

という音が鳴り、任務開始となった。

その時、


「見ねえ顔だなァ?新入りか?」


屈強な体の男がリアムに絡んできた。


「…!」

「おい、聞いてんだろ」


「そう……です」


「そんなにヒョロイのにか?」


男はそう言って「ガハハ!」と笑った。

リアムは「じゃあ」と言って去ろうとしたが、男はリアムを離さない。


「おいお前逃げようと…」

「はぁ……ギルドはこれだから嫌なのよ」


どこからか声が聞こえてきた。

リアムは辺りを見回す。

そこには綺麗な金髪の女の人が立っていた。


「うぇっ?メアリーさん、どうしてここに?」


「任務をお願いしにきたのよ。ちょうどいいわ。そこの君!これお願いできる?」


リアムは急に話を振られて一瞬固まった。


「あ、いや、もう受けてしまった任務がーーー」

「そう!決まりね」

「あるんでーーーーーー……え?」


$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$


受注してしまったものは仕方がない。

リアムはそう割り切ってまず鉱山に向かっていた。


(意外と近いんだな…歩いて行ける距離とは。王都周辺でも魔席が取れるなんて知らなかった)


そんなことを考えている時、どこからか悲鳴が聞こえた。


(男の人だ!)


甲高い悲鳴だったがリアムはなんとなくそう思う。

リアムは悲鳴が聞こえた方向に走った。


「ッ!!ーーーーーーー」


そこにいたのは、腹が抉れて息が絶え絶えの男だった。


そのすぐ横にサイクロプスがいる。

こちらを少し見たが、気にせず男の方に目線を戻した。

サイクロプスが木棒を振り上げる。


「ああああああああああ!!!」


リアムは何も考えていなかった。ただ何も考えず、目の前でひとが死ぬのだけは避けたいと、ただ漠然と、そう思っていただけだった。


カキン!


棒と剣が交わる。


その瞬間腕の筋肉が全て切れてしまう様な力がリアムの腕にかかり、一瞬剣を離しそうになるが、リアムは必死に持ち堪える。もちろん人間業ではない。レベル1でも冒険者ウォッチは肉体強化のボーナスがつくのだ。


「ぐ……がぁっ……」


反撃の余地なし。

後ろから男の「うう……」という声が聞こえて来る。


バリン!


一瞬なんの音かわからなかった。

しかし、知能をほとんど持たないサイクロプスが勝ち誇った様な顔をしているのを見て、何かを察する。


(ああ……死ぬんだな……)


リアムは目を閉じ、死を覚悟する。


剣が砕けてしまったのだ。

絶望さえできなかった。余りにも一瞬だったからだ。


ジュバッ


「ヴォヴォヴォヴォ!ヴォァァァ!」


サイクロプスが悲鳴をあげている。

リアムはそっと目を開けた。両腕がなかった。


「ーーーーーー大丈夫?」


リアムは、安心感とか、男を心配する気持ちとか、立っている少女の美しさとかで

ーーーーーーーー気を失った。


******************


リアムの視界はぼやけている。

耳障りな耳鳴りがして、頭も動かない。少し動いたと思ったら、体全体に激痛が走った。


「びゃ!」


「ふぁ?」


リアムの声に、誰かが反応した。


「わ!起きたのね!大丈夫?外傷が私が治したのだけど、痛いところはない?」


リアムが口を開けたまま固まっているのを見て、少女はクスっと笑った。


「そういえば名乗ってなかったわね。私の名前はメアリーよ。あー………さっきはごめんね?任務を押し付けたりして」


リアムはブンブン首を振った。頭が激痛で一瞬顔をしかめたが。


「だ、大丈夫。僕が不注意だったんだ。何も考えないで突っ込んじゃったし。任務も護衛だったし」


そう、メアリーから提示された任務は護衛だったのだ。


「そう、でも私の護衛なんか誰もやりたがらないのよね」


(こんなに可愛いのに?)


「私、領主の娘だもの。少しでも怪我をしたら、責任を負わされるのは護衛の方だから、しかたないといえば仕方ないんだけどね」


メアリーはそう言って微笑んだ。


(かわ…え?領主の娘だって?え?)


「受けなきゃよかったーーーーーーーーッッ!!」


リアムは絶対に言ってはいけないことを言ってしまった。

リアムは直後に自分の侵した罪を理解して、メアリーに頭を下げた。

今から起こる最悪の事態を想定する。

「は?あんた今なんつったぶっ殺すわよつーか死ね」

って言われて領主の権限で首吊りに……


するとメアリーは首を振った。


「いいの。それが普通よ。貴方も怪我をしちゃったし、護衛の任務はいいわ。これ、払うはずだった報酬よ」


メアリーがそう言って10万ゴールドをリアムの上に置いた。


「えっ! こんなに! っていうか僕何もやっていないんですけど!」


メアリーがまた首を振った。


「私のせいって訳じゃないけど、なんだか気が治らないのよ。…慰謝料だと思って」


メアリーはお金を押し付けたまま、扉に歩いていってしまった。


(気が治らないのなら…返せと言われれば返せばいいか)


リアムはそう納得して、もう一度眠りにつこうとした。


「あ!」


リアムが急に声を上げたのでメアリーはビクッとした。


「男の人は?」


メアリーの顔が暗くなった。


「男の人はどうなったの?」


リアムはもう一度聞いた。


「死んだわ」


メアリーの一言でリアムは黙り込んだ。

結局、あの男はしんでしまったのだ。

無念でならなかった。

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