のんびり冒険者暮らし
時雨
〜王都最強に、俺はなる!〜
1話 『試験』
王都パルデラを不安そうに歩く1人の少年がいた。汚れひとつない綺麗な白い髪に青い目。
少年の名はリアム・シュケルク。夢であった冒険者になるために冒険者ギルドに向かっている。
「冒険者ギルドってどこにありますか?」
「ここを先に行って突き当たりを右さ」
「ありがとうございます」
地図を見ながら歩いていく。
「すっごぉ! 大きい建物だ」
小さい村で育ったリアムは、背が高い建物を見るのははじめてだった。
(お酒の匂いがする…冒険者にもだらしない人がいるってお母さんが言ってたからなぁ)
恐る恐るギルドの建物に入る。
掲示板がたくさんあって、【飲酒禁止】の看板がある。そしてその目の前で酒を飲んでいる集団がいる。
リアムはその人達に目をつけられる前に受付に向かう。
受付の人はメガネをかけている綺麗な女の人だった。お酒を飲んでいる人たちを見て顔をしかめている。
「あの……冒険者になりたいんですけど……」
「? ……あ、はい。冒険者になりたいのですね。明日の8時から試験が始まります」
「それが、事前に申し込みをしていないのですが……」
「分かりました。少しお待ちください。…………はい、応募生の人数がちょうど1人足りなかったようです。明日此処に来てくだされば説明いたします」
リアムは安心した。
申し込みをしていないことが気がかりだったのだ。
(次は宿探しだな)
リアムはギルドを出て商店街に向かった。
商店街には武器や防具が売っている。防具というのは加護が付いているため、価格が非常に高い。Dランク勇者でも買うことは難しい。
防具屋を覗きたい気持ちを必死に抑えてリアムは路地に入った。
「バーディホテル……母さんが言っていたのはここか」
冒険者だったリアムの母が下積み時代に泊まっていた宿らしい。
破格の安さで泊まれるんだそうだ。
【バーディホテル料金】
一泊2000ゴールド
*長期宿泊の場合、ホテルの混雑状況で一泊の値段が変わってきます。
1ヶ月宿泊
68000ゴールド(30日間)
*30日が経過する前にチェックアウトした場合でも68000ゴールドをいただきます。
*食事はつきません。風呂、トイレは共同です。
(とりあえず2週間分くらいお金を払おう)
リアムの所持金は120000ゴールド。格安とはいえ、やはり宿は高い。
受付には近寄りがたいオーラを放つ筋肉モリモリの男が立っていた。
「客か?」
「はい。2週間泊まらせてください」
「ん……28000ゴールドになるが、あるのか」
男はリアムを値踏みするように上から下まで見てから言った。
「そのくらいありますよ。部屋は?」
「12号室を使え」
リアムは荷物を持って部屋に行った。
部屋はとても狭く、ベットで埋まってしまっていた。
リアムはベットに横たわり、明日の試験のことを考えた。
(落ちたらどうしよう……母さんに合わせる顔がないや……いや、受かるぞ。絶対に冒険者にならなくちゃ)
リアムは決意を新たに、来たる明日の試練のために早めに寝た。
*******************
試験当日、リアムは冒険者志望の者達が騒ぐ冒険者ギルドにいた。
「うわぁ……凄そうな人ばかりだ……」
そんなことを思っていると、掲示板の前に長身のひょろりとした青年が立っていた。
「みんな、静粛に!ーーーーーよし、僕はこのギルドの所長エドワードだ。エドワード・シャックリン。エドって呼んでくれ。えーと、唐突だけど、もう試験を始めようと思う。その前にちょっと説明しようかな」
エドはそう言うと、顎をしゃくった。
すると少し不機嫌そうな女の人が前に立った。昨日の受付の人だ。
「全く、エドはいつも人を顎で使う……えーと、みんな!40人全員いるかな?私はマリアンヌよ、ここで受付嬢をやっているわ」
リアムはそこではじめて志願者が40人いることを知った。
「合格者は10人!4倍だよ!すごいね!狭き門!試験にだけど難しい課題はないから安心していいよ」
マリアンヌは昨日のかしこまった態度を忘れさせるような明るい口調で言った。
「試験内容は簡単だよ。lv1ゴブリンを倒すだけ。倒せば倒すほどポイントが上がって行って、速く倒せばそれだけたくさんポイントが稼げるけど苦戦するとポイントが伸びないよ!みんな、それじゃあがんばってね!」
マリアンヌはそこまで言うとニコッと笑って下がった。
「マリア、ありがとう。みんなはこれから試験場にいくよ。王都郊外にあるゴブリン神殿なんだけど、みんな知ってるよな?」
みんなは頷いたがリアムは知らなかった。
「あれ?そこの白髪の君、大丈夫かい?」
エドがそう言うと周りで笑いが起きた。
「ゴブリン神殿が何かわからないです」
遠くで「マジか!?」と言う声が聞こえた。
「ああ、ゴブリン神殿の名前そのままさ。ゴブリン研究会の連中がゴブリン調査のために神殿の遺跡にゴブリンを離しちゃったんだ。そしたらどんどん増えて行って…」
リアムは頷いた。
ゴブリン研究会の存在もはじめて知った。
「わかったかい?よし、じゃあ行こう!時間は有限だ!」
エドの手招きで冒険者志望者達はギルドを出発した。
20分ほどで王都を出て、そこからさらに10分南に進むと、着いた。
「ゴブリン神殿に到着ぅ!中でゴブリン研究会の人たちに待ってもらっているから早くいきましょう」
マリアンヌが言った。
少しざわざわしながら神殿の中に入る。
中の広場に3人ほど男の人が立っていた。
「君たちが冒険者候補?ふーん。じゃあまずは1人づつやっていくよ」
1番左の小さい男が言った。
エドが志願者の名前を呼び、呼ばれた人が前に出た。
「制限時間は1分。どんどん倒しちゃって」
そう言うとエドは手を挙げて笛をピィぃ!っと鳴らした。
すると奥から10体ほど武器を持ったゴブリンが出てきて、志願者に襲いかかる。
1番最初の人は12体と言う結果だった。
「次ーーーーロビンソン・バッカス」
呼ばれた男は「ふん!」と言い、志願者たち手を振った。
女性陣から黄色い声援が聞こえる。
バッカスは顔と人気だけではなかった。しっかりと実力も兼ね備えていて、記録は今日最高の33体だった。
「次はリアム・シュケルク!」
リアムの鼓動が一気に速くなる。
母の顔を思い出し、緊張を誤魔化す。
一体ゴブリンが出てきた。二体三体…
「おりゃあ!」
剣を一振りし、ゴブリン達が倒れる。
(この調子だ…!)
リアムは結果29体ものゴブリンを倒すことができた。
バッカスの記録に届かずリアムは少し悔しかったが、合格ラインに到達できたと言う安心感の方が優っていた。
「今回は優秀な人が多いね〜!よし、もう合格発表しちゃうよ!」
志願者達がおしゃべりを始める。
「静粛に!!……よし、今回の合格した10人は……チアゴ・エンリケス!バスタード・モンティ!ケイティ・オルガーノ!メアリー・スミス!リアム・シュケルク!ロビンソン・バッカス!ジェイミー・オルストイ!ハドソン・ボッティ!ライアン・ボージャン!エミリア・オズボーン!」
いろいろなところで落胆の声と歓声が上がった。
しかしリアムにはその声は届かない。
緊張が一気に溶けて頭が真っ白になっていたのだ。
(は…合格した…)
意識が朦朧とするまま、冒険者登録のために合格者だけギルドに戻った。
ギルドではマリアンヌが先回りして受付に立っていた。
「…名前はリアムくん?であってるかな」
「はい」
「よし。ならこの冒険者のルールっていうか、ギルドの規約を読んでいてね。今冒険者バッジと冒険者ウォッチを作るから」
リアムは頷いてギルドの規約に目を通した。
******************
《冒険者ギルドとは》
冒険者ギルドに所属することで、任務を達成した時に報酬を受け取れる。また、申告すれば移動費などの費用を受け取れる。(*任務に失敗した場合は受け取れない)
《ランク》
F〜Sまでがある。Sランクになれるのは下記のギルドで冒険者登録した場合のみ。一定数任務を連続で失敗すれば降格となり、一定数任務を成功させれば昇格となる。昇格は個人の意思で行うことができるが、降格は拒否できない。
【Sランク昇格が可能なギルド】
《エルドニア王国東部》
冒険者ギルドバンクシャー本部
冒険者ギルドベンジャミ支部
冒険者ギルドポーリス・ポート支部
《エルドニア王国西部》
冒険者ギルド王都支部
冒険者ギルドマインケスター支部
《ボスニア王国》
冒険者ギルドケゲント支部
《冒険者ウォッチとバッジ》
冒険者バッジは冒険者であることを示すバッジ。ウォッチがあれば再発行可能。
冒険者ウォッチは様々なサービスを受けることができるもの。破壊は不可能で、再発行はできない。
《冒険者レベル》
冒険者レベルは1〜600まであり、レベルによって冒険者ウォッチから付与される肉体強化が変わってくる。アイテム手に入れたり、魔物を倒すことによって得られるexpで上がる。
《禁止事項》
(1)ギルドの評判を著しく貶める行為。またはそれに協力する行為。評判を著しく貶める行為のラインは地域ごとのギルドに委ねることとする。
(2)各国の法律に違反する行為。
(3)依頼者を魔術などで惑わせ、不正に報酬を受け取る行為。
(4)ギルドの命令に背く行為。
これらに違反した場合、100万ゴールド以下の罰金、悪質と判断された場合には除籍とする。
《義務》
(1)国から依頼される国選任務は拒否できない。国が直接冒険者に依頼した場合はギルドは干渉しない。
(2)任務を原則破棄することはできない。どうしてもできない理由があり、またその理由がギルドに認められた場合のみ破棄できる。
(3)規約違反の冒険者を見かけた場合は直ちに本部に通報すること。
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「できました。冒険者バッジと冒険者ウォッチです。何かはわかりますね?」
「はい」
リアムは両方をしっかり受け取りギルドを後にし、リアム・シュケルクの冒険者人生が、今、始まった。
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