第20話 百済②

あさ浜辺はまべ

おう駕籠かごいた。

従者じゅうしゃささえられながら、

おう

浜辺はまべかれた絨毯じゅうたんすす

中央ちゅうおうえられた椅子いす

こしけた。


ウラをせたうま水際みずぎわ

ゆっくりとあるいている。


うっすらとしろ三日月みかづきのこ

藍色あいいろそら

水平線すいへいせん近付ちかづくにつれ

あわ朱色しゅいろびる。


ウラが

うま従者じゅうしゃあず

おうとなりつと

水平線すいへいせんからのぼはじめた。


王「ワシは、よくここへた。

ここからはる東方とうほう海辺うみべで、

まえもこちらをているような

がしてな……」


ウラは、だまってひざまづ

肘掛ひじかけにかれた

おうおおうように

自分じぶんかさねた。

せてふしくれだった

つめたかった。


ウ「あさは、えますね…」


ウラは、

すわっているおうひざ

毛布もうふなおして

うみ視線しせんもどすと

まぶしい朝日あさひほそめた。


ウラは、

ひとりふねり、

なみだながしていたころのことを

おもしていた。


王「おまえは、どうおもっていたからんが」


おもむろに、おうがった。

すこしよろけそうになったからだを、

ウラはつつむようにかばった。


王「たたかわずして新天地しんてんちたおまえに」


せるなみつめるおう横顔よこがお

ウラはつめた。


王「……おまえならって、

ワシはたたかうのをやめた。そして

……たたかいがわったよ」


ハハハ……


おうは、弱々よわよわしくも、

気持きもちさそうにわらった。


ウ「おれは、かくれていただけです……」


王「よき仲間なかまめぐえたのだな」


ウ「はい」


王「ワシも、たたかうことをやめて

よき仲間なかまた」


おうは、自分じぶんえられたウラのうでをしっかりつかんだ。


王「かくれたおかげ

まえ新天地しんてんち、そして

このくに平和へいわになったのだ。

じることはない。

まえわたしほこりだ」


ウラも、さらにおう

もう一方いっぽうつつんだ。


王「王丹おにが、このくに王座おうざ継承けいしょうする」


ウ「……はい」


王「そうすれば、

あらそわないくに

このすくなくともふたつになる、と

わたししんじている」


ウ「……はい」


王「みなくに平安へいあんのぞむなら、

あらそわないことが一番いちばん

たりまえのようだが、これが

非常ひじょうむずかしく、勇気ゆうきがいる」


ウ「…………」


王「王丹おににも、

頑張がんばってもらいたいものだ。

まえ吉備きび

人々ひとびと平安へいあんらしていることが、

なによりのはげみだ」


おうふかやさしい眼差まなざしを

ウラはむねきざけた。


ウラがふたた吉備きび

旅立たびだったのは

それから

二ヶ月後にかげつごことだった。



………………



ウ「鉄器てっきが、随分ずいぶん進化しんかしててさ、

色々いろいろおそわったんだ。

としわるまえもどろうとは

おもってたんだけど、

ギリギリになった。

家族かぞく次々つぎつぎに、

記念日きねんびだの、誕生日たんじょうびだの、

どんどんやるし、

なかなかかえれなかったよ……」


モ「フフ……めたかったのねぇ」


モモソヒメがカヌレをかじりながらった。


ワ「もう気兼きがねなく

いつでもできるのにな」


モ「それでもわかがたいわよねえ」


モモソヒメは、

マカロンにばした。


ウ「…そうだな。

モモだって、

『またるね~』って

あっさりかえって、

結局けっきょくなかったもんな」


孝「……ウラくんまなかった……

モモソヒメが

あんなによくはたらいて、

あんなにいそがしいことになるなんて、

わたしおもいもしなかったもんだから……」


孝霊天皇こうれいてんのう栗羊羹くりようかんをつつきながら

しょんぼりしている。


ウ「ハッ……!すみません

父上ちちうえめるつもりは……!」


うつむ孝霊天皇こうれいてんのうに、

あわてるウラをて、

みんなわらった。


モ「そういうウラも、

結局けっきょく吉備きびもどらなかったんでしょ」


モモソヒメは、ティーカップに

ちゃそそぎながらった。


ウ「……たしかにそうなんだけど……

ていうかさ、もう、ほとん吉備きび

もどってたんだよ、おれ…」


ちょうど、モモソヒメの葬儀そうぎわり、

モモソヒメが天上てんじょうわたったころ

ウラは百済くだらち、

吉備きびへとふねはしらせていた。


ウ「さむくなって一層いっそうなみあら

海峡越かいきょうごえは大変たいへんだったけど、

航行こうこう順調じゅんちょうだった。

吉備きびへの土産みやげ沢山たくさんんでいたし、

ワカタケヒコとイサセリヒコが

さきもどっているかになっていたし、

ササモリヒコに報告ほうこくしたいことも

沢山たくさんあったし、

鉄器技術者集団てっきぎじゅつしゃしゅうだんのウラだんおしえたい

色々いろいろあたらしい鉄器てっきわざもある。

みんなにもはやいたかった」


ほとんやすむことなく

ウラは直走ひたはしりにふねはしらせた。

通常つうじょうの5割増わりましのペースでばし、

むずかしい海峡かいきょうえて一気いっき

瀬戸内せとうちうみはいった。


瀬戸内せとうちうみなみおだやかで、

小春日和こはるびよりやさしい日差ひざしが

水面みなもにきらきらとひかりおどらせている。


すっかりれた瀬戸内せとうち景色けしき

ウラは、

ホッと一息吐ひといきついた。

そして

吉備きびみなとがもう視界しかい

とらえられるかと、

からだばしてそちらをあおた。


その瞬間しゅんかんだった。


ふね衝撃しょうげきとも転覆てんぷくし、

そのまままたた

波間なみまえてしまった。


ウ「わけがわからなかったよ。

づいたら、おれ

くさぱらってた。

それでモモが…」


モ「わたし号泣ごうきゅうしながら

ウラにんでったわけね」


ウ「…うん」


モ「あとすこしで着かつくってところで…

ウラ、それで呆然ぼうぜんとしてたのね……」


ウ「……本当ほんとうはじめは

わけからなかったんだよ。

でも、不思議ふしぎくやしさとか、

そういうのはかんじてなかったな……」


ウラは、

コーヒーカップをテーブルにいた。


ウ「モモと一緒いっしょ

吉備きび見下みおろしていたときは、

どちらかというと、清々すがすがしい気分きぶんだった…なんだろな…」


ウラは、ソファにあずけた。


ワ「えぇ~、おれら、ってたんだぜ、

なあ、イサセリヒコ」


イ「そうですよ、ぼく

仲間なかまになれるのを、たのしみにしていました」


ウ「……そうだよな、ごめん…

そうだよな……?でもさ、

モモにははなしたけど

おれ地上ちじょうでの役目やくめみたいなものを

えたようながしたんだ」


ワ「役目やくめ


ウ「うん」


モ「天上てんじょうわたしうことに

なってたんだってさ」


モモソヒメが

またカヌレにばしてった。


ウ「……っ!そ、それは……///

てか、モモ、おまえ

さっきからよくうよな!」


ワ (ウラにいさん、

やっぱり、モモねえのこと…)


モ「だって、美味おいしいじゃない

世界せかいには美味おいしいものが沢山たくさんあるのね」


ウラは、モモソヒメのほほ

両手りょうてはさんだ。


ワ「お、ました必殺技ひっさつわざ


ウ「……やっぱり、

かなりにくえてふくらんでる」


モ「ムキーーーーーーーーッ!!!」


VIPルームのわらごえ

まどそとまでひびいて

あまがわほし

波波波さざめかせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る