第19話 百済①

天上てんじょう酒場さかば

VIPルームでは

食事しょくじえた面々めんめん

ソファへ移動いどうし、

ちゃんでくつろいでいる。


モモソヒメは

薄紅色うすべにいろはなかたちかたどったちいさな砂糖さとう

ひとつまんでティーカップに入れた。


モ「百済くだらかえふねしずんでしまったの?」


ウ「いや、百済くだらへは、ちゃんとかえったよ」



………………



百済くだら風景ふうけいは、わりてていた。


なによりもまず、人々ひとびと活気かっきあふ

そして

市場いちば田畑たはたも、

まぶしいほどいろあふれていた。


ウ「吉備きびと……おなじだ」


ウラの記憶きおくにあったのは、

どこもかしこも土煙つちけむりいろ

かおをあげているひとなど往来おうらい

ることができなかったまち

てき襲来しゅうらいうまひづめらされて

めちゃくちゃになった田畑たはた景色けしきばかりだった。


いつのにか、吉備きびのように

活気かっきあふれたくにになっていた。


にぎやかな街並まちなみけ、

市街しがい見渡みわたおかうえ

あたらしい宮殿きゅうでんはあった。


おうきさき、そしておとうと王丹皇子おにおうじは、

ウラに三十年さんじゅうねんという月日つきひながさを

おもらせた。


自分じぶん姿すがたわっているのだから

当然とうぜんみなとしかさねていることは

かりきっているはずだったが、


その姿すがたたりにして、

ウラは、

自分じぶん不孝ふこういてなみだあふれた。


あの、おおきくてつよかったおうは、

すっかり弱々よわよわしくせて、

従者じゅうしゃささえられなければ

あるくこともままならない。


きさきであるははも、くろゆたかだったかみ

いまではしろになり、

上品じょうひんうつくしい笑顔えがおわらなかったが

その目尻めじりには、しわきざまれていた。


后「よく、かえってきてくれましたね」


ははやさしいこえは、わらなかった。

宮殿きゅうでんにいつもかれていたこうかおりも、

ウラのこころなぐさめた。

なつかしさに、

なみだまらない。


王「なにをそんなにくことがある、

まえ相変あいかわらず、涙脆なみだもろいなあ」


そうわらおうにも、なみだあふれた。


ウラはおうあゆみ寄り、抱擁ほうようした。

二人ふたりとも、言葉ことばないまま、うごけない。


しばら見守みまもっていた

おとうと王丹おに皇后こうごうかお見合みあわせてわらった。


王丹「やっぱり、親子おやこですね。さあ、

父上ちちうえ、そろそろおやすみください。

兄上あにうえも、船旅ふなたびでおつかれになったでしょう、

兄上あにうえ部屋へやは、むかしのままですよ。

案内あんないしましょう」


と、きさきとも宮殿きゅうでん案内あんないしてくれた。


なが廊下ろうかあるきながら、ウラは

すこまえ仲睦なかむつまじくってある

王丹おにきさきに言った。


ウ「婚礼こんれいときにもかえらず、まなかった」


ウラがくにはなれたときはまだ

十四歳じゅうよんさいだった王丹おにも、

ウラ以上いじょうび、どっしりしたからだ

顎髭あごひげたくわえたかお貫禄かんろくがある。


王丹「そうだよ、全然ぜんぜんかえってないから、

さびしかったよ」


いてにっこりわらかお

おさなころ面影おもかげのこしていた。

子供こどもころわらずしたってくれる王丹おにに、

ウラは破顔はがんした。


ウ「さびしいものか、こんなにうつくしいきさき

いつもとなりにいてくれるのだろう」


きさきすこかおあからめながら、

王丹おにそでえてしたがっている。


王丹「にいさんがかえらなかったのは

王座おうざにつきたくなかったからか?」


いきなり図星ずぼしされて

なにえないウラに、王丹おにつづけた。


王丹「にいさん、それは、おれおうになっても

かまわんということだな?」


ウ「も、……勿論もちろんだ。なぜ、

おまえ王座おうざについていないのか

不思議ふしぎおもっていたくらいだよ」


おうおとうと王丹おに王座おうざにつかせようと

かんがえているが、それをめるまえに、

ウラとはなしをしたいとかんがえていたという。


ウ「なんだってそんな……?」


王丹「明日あす父上ちちうえとゆっくりはなしてくれ。

そのあとは、おも存分ぞんぶん隅々すみずみまで、

国中くにじゅうてくれよ。案内あんないするから!」


むかしのままのウラの寝室しんしつ

宮殿きゅうでんあらたな場所はしょてられたときに、

ウラの部屋へやだけはそのまま再現さいげんして作られたのだ。


そこにひとりのこされて、ウラは

自分じぶんなかったあいだ

家族かぞくおもいを、犇々ひしひしかんじていた。


ウ「おれは、いつもげてばかりだ……」


まどそとには、よるとばりりて

たかんだそらほしえはじめていた。



………………



ワ「たしかにウラにい奥手おくてすぎるよ」


ウ「?、奥手おくて……?」


ワカタケヒコは、コーヒーに

砂糖さとうをポイポイほうみながらった。


ワ「もっとこう、強引ごういんさがあっても

いいんじゃないの、ガタイいいのに」


イサ「ガタイがいから、

強引ごういんになれないんですよね?」


イサセリヒコがみょう説得力せっとくりょく発揮はっきした。


ウ「……やっぱり、こわい?」


イサ「でも、そうしておさえているぶん

強引ごういんになったときひかるんですよ。

女子じょしはグッとるとおもいますよ」


イサセリヒコが紅茶こうちゃに、

ニッコリくびかしげた。


ワ「ほほーぅ」


孝「なるほど、たとえばさっきも

もうちょっと強引ごういんになっても

かったということかな」


ウ「さっきも…?」


ワ「そうそう!ほら、

モモねえがんだときさ」


イサ「あぁ」


ウ「え?」


モ「あ!」


皆『え?』


モ「わかった!ほっぺたはさんだやつでしょ!

あんたたちみんなしてなに期待きたいしてたのよ、

まったく!!いやらしいわねっっ///!!」


ウラは一瞬いっしゅんキョトンとしてから


ウ「あーっはっはっはっ……」


はらかかえてわらいだした。


今度こんど

みんながキョトンとしている。


ウ「あれやると、モモがわらうんですよ」


『ん?』


男達おとこたちは、眉間みけんしわせた。



讃岐さぬき浜辺はまべうといつも

モモソヒメはウラに可笑おかしなはなしをして

ウラをわらわせたり、

ウラがふざけてモモソヒメをわらわせたり、

そうしてたのしくごそうと、

二人は暗黙あんもくのうちに同意どういしてつとめていた。


しかし、ふと、会話かいわ途切とぎれたり、

しばしのあいだうみながめてだまってしまったり、

どうしてもさびしくなってうつむいてしまったり、

そんなことは、よくあった。


ウ「おれ開発かいはつしたんだよ、このわざを!」


ウラは、自慢じまんげにうとまた

モモソヒメのほほおおきなてのひらはさんで、

ギュっとつぶした。


モ「ムッ、ぷぷぷ…」


モモソヒメがわらった。


ウ「ね?こうして、最初さいしょは、ゆるく。

それから、ギュ、といくんですよ」


ワ「…いいよ、解説かいせつは」


まらなそうにワカタケヒコは

コーヒーにミルクをそそいだ。


孝「……なるほど……」


孝霊天皇こうれいてんのうあつほうちゃすすった。































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る