第17話 モモタロウ団①

イサセリヒコの陣営じんえいは、

吉備きびさとからすこはなれた

中山なかやま中腹ちゅうふくにあった。

はたてず、いしたてにして

かくれるようにしてられていた。


十人余じゅうにんあまりのへいをそこにたせて

イサセリヒコはひとり、

武装ぶそうもせず、かたなたず、

漬物つけものつつみだけたずさえて

ササモリヒコの屋敷やしきかった。


兵士達へいしたちは、

イサセリヒコほどではないが

たたかいにいているとはがたい、

未熟みじゅく補欠兵士ほけつへいしばかりだ。


イサセリヒコが出掛でかけると、

兵士達へいしたち

よろい武器ぶきほうっておいて

のんびりあそんでごした。


みんな山中さんちゅう散策さんさくしに出掛でかけ、

キノコりや栗拾くりひろいにきょうじる。

紅葉もみじあざややかにいろづいている。


兵「いいときたなあ、

遊山ゆさんにはぴったりの季節きせつだ」


兵「イサセリヒコさまよるにはもどるのかな」


兵「モモソヒメさま葬儀そうぎのために

すぐ大和やまともどるとっていたからな」


兵「せっかくたのだから、

もう2、3にちゆっくりしたいなあ」


兵「大和やまとかえったら、訓練漬くんれんづけだしなあ」


兵「ほか将軍しょうぐんについていたら、

こうはないかなかったぞ」


兵「きたひがしったぐんは、

大変たいへんいくさになったらしいからな」


兵「モモソヒメさま葬儀そうぎわせて

慰霊いれいをするってきいたよ」


兵「あぁ、それであの大掛おおがかかりな斎場さいじょうててるわけか」


兵「モモソヒメさまは、武力行使ぶりょくこうし

なげいておられたそうだ」


兵「大和やまと統一とういつされたあかつきには

いくさなど無縁むえんつづくといなあ」


兵「そうだなあ、訓練くんれんもなくなるといなあ」


兵「訓練くんれんはするんじゃないかな……」


兵「……」


兵「ま、まぁまぁ今日きょう折角せっかく

訓練くんれんから解放かいほうされたんだから

たのしもうよ⁉️」


よるにはってきたキノコを

たっぷり入れた味噌汁みそしるつく

ひろったくりいて

夕餉ゆうげたのしんだ。


ちょうどそのころ

中山なかやまりにていた

モモタロウだん少年達しょうねんたち

陣営じんえいちかくをとおりかかった。


モ「……なんか、いいにおいがするぞ?」


美味おいしそうなにおいに

せられて

石盾いしだてそばまでやってると、

その隙間すきまからなかのぞいた。


モ「この匂いは…キノコじるかな」


ところがんできたのは、においの正体しょうたいとは裏腹うらはらに、

やままれたよろい弓矢ゆみやだった。


モ「!やばい!これ、じんだ!!」


モ「なに?!」


モ「げろ!!わなかもしれないぞ」


少年達しょうねんたち

一目散いちもくさんむらもどった。


そして

団員だんいん召集しょうしゅうし、

ササモリヒコの屋敷やしき

ウラをびにたのだった。


モ「はたかったんだ。

でもたしかに、よろい弓矢ゆみやがあった」


ウ「何人なんにんくらいの軍勢ぐんぜいだったか、わかるか」


モ「十人じゅうにんくらい」


モ「なんだ、それっぽっちか。

本当ほんとうぐんなのか?山賊さんぞくじゃないか?」


青年せいねん一人ひとりった。


モ「どっちでもいいや、

おれたちではらおうぜ!」


モ「いや、もしかしたら、べつ場所ばしょにも

じんっているかもれないぞ」


ウ「そうだな…べつ方角ほうがくたしかめてみるか。

つきあかるいから、みんな油断ゆだんするなよ」


ウラが指揮しきり、

数名すうめいべつ方角ほうがくやま偵察ていさつき、

のこりが武器ぶき用意よういすることになった。


いくさ準備じゅんびみなおそれととも

異様いよう興奮こうふんおぼえつつ、

機敏きびん準備じゅんびすすめた。


ウ(……いま吉備きびめるとしたら……)


ウラは、ササモリヒコの屋敷やしきのある

高台たかだい見上みあげた。


すると、屋敷やしきほうから

イヌカイタケルとトメタマヒメが

はしってるのがえた。


必死ひっし形相ぎょうそうで、

たがいにもつれるあしかばいながら

やっとこさ、ウラたち

ところへたどりくと、


イヌ「まだ、…攻撃こうげきなど…していないな?」


ト「みんな、……いて……」


二人ふたりたがいにもたって、

へたりんでしまった。


ウ「なんだ?大丈夫だいじょうぶか?」


いきえになっている二人ふたり

モモタロウだん少年しょうねん


モ「やっぱり、もう引退いんたいだな。

タマねえさんとタケルにいさんは

もうタマばあさんと、タケルじいさんだ」


ト「なんだってえ…(怒)」


イヌ「いやたしかにな、…さけなぞんで

こんなときに……奇襲きしゅうでもされたら、…もう

むかしのようには……いかんのう…」


ト「なにを……あんたは

ササじいみたいになってんのさ!」


かたいきをしながらも、トメタマヒメが

イヌカイタケルの背中せなか平手打ひらてうちちを

見舞みまいした。


イヌ「あいたぁッ‼️」


イヌカイタケルが地面じめんした。


あつまったモモタロウだんみんな

大笑おおわらいしていると


ホッとした表情ひょうじょうでウラがった。


ウ「どうやら、いくさにはならない、

ということらしいな?」


イヌ「……そう、そういうことなんだよ」


どっこいしょ、とがり、

ふぅー、とおおきくいきいて、

イヌカイタケルがわらった。


モ「ええぇー、なんだよ、

あれ、てきじゃなかったのか?」


ト「かったじゃないか、

何事なにごともなければ、それが一番いちばん


モ「ちぇ、せっかくおれ桃太郎ももたろう

相応ふさわしいところをせるチャンスだったのに」


ウ「何言なにいってんだ、さっき屋敷やしきて、

『どうしよう、てきんできたら』

狼狽うろたえていたのはおまえだったろう」


モ「///……」


モ「でも、せっかく武術ぶじゅつならっても、

全然ぜんぜん使つかえないんじゃ、つまんねえよな」


ウ「武術ぶじゅつたたかうためにおしえているんじゃない!」


ウラが

いつになくつよ態度たいどったので

青年せいねんも、少年しょうねんも、イヌカイタケルも

トメタマヒメも、うごきがまった。


むしこえかぜおとさわがしい。


ウラは、ハッとして、それからとぼけるように

蟀谷こめかみをポリポリといた。


ト「こんなところでれちゃって

どーすんのさ。いいよ、たまには、

もっと説教せっきょうしてやんなよー」


モ「お小言こごとは、おばはんだけで

腹一杯なかいっぱいですよ~」


ト「だれだ~?!今言いまいったの!」


みんなわらった。


イヌ「…さて、解散かいさんだ!みんなはなし明日あした

今日きょういそいでかえれ。けるんだぞ。

明日あしたはササじい屋敷やしき集合しゅうごう!」


モモタロウだん解散かいさんし、

それぞれの帰路きろについたころ


中山なかやまでは、イサセリヒコが

茸汁きのこじるなべころげたままの

まわりで

ぐっすりねむりこけている兵士達へいしたち

必死ひっしこしていた。


































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