第16話 決意

ウラは、イサセリヒコをると

どうしてもモモソヒメをおもしてしまう。

イサセリヒコの陣取じんどって

モモソヒメのことばかりたずねていた。


五「…それでねえさんは、大和やまとかえるなり、

またすぐに吉備きびきたいと

駄々だだをこねたそうですよ」


ウ「また吉備きびへ……

そうか、そうか……」


ウンウン、となみだぐみながらうなずいて、

ウラはさかずきさけをグイっとした。

イサセリヒコのさかずきさけぎ、

自分じぶんさかずきにもさけぎ、


ウ「それで?」


五「ちち吉備きびたずねるとき

ねえさんに内緒ないしょ出掛でかけたそうです」


ウ「なんと…一度いちどくらいれてきても

かったのではないか?もしや、

またしてかぬように

宮中きゅうちゅうめていたのか?!」


五「いえいえ、そんなことはないです(笑)

ねえさんは、められたり

強制きょうせいされてつらそうなことは

ありませんでしたよ。

たまに宮中きゅうちゅうかけると

ねえさんはあかるくてたのしそうで、

まわりの人々ひとびとなごませていました。」


そううとイサセリヒコは

手元てもとさかずきとした。

自分じぶんすこうるんだ

さかずきさけうつっている。

やはり自分じぶんでも

モモソヒメにているとおもう。


イサ(ねえさんがここにいたら、

きっと、やかましいくらいに

宴会えんかいがるでしょうね…)


ウ「……モモソヒメ……」


吉備きび村人むらびと懸命けんめい手伝てつだい、

自分達じぶんたちには沢山たくさんのおむすびをつくって

そしてえばいつも可笑おかしなはなし

わらわせてくれたモモソヒメ。


ウ「大和やまともどっても、

モモは相変あいかわらずの

モモソヒメだったんだなぁ……」


ふと、にわほうをやると、

ひろはなした縁側えんがわこうに、

あかるくにわらす満月まんげつえる。

そこにモモソヒメがいて

わらってこちらをているようながした。


みんなもウラにつられて、

うつくしいつきひかりらされるにわ

ながめた。


しずまりかえった座敷ぎしき

すずやかなかぜ夜露よつゆにおいをはこんでくる。


ササモリヒコが、

しずかにった。


サ「ウラ。御前おまえさんも一度いちど

里帰さとがえりしてみてはどうじゃ」


ウラはハッとして、

ササモリヒコにいた。


モモソヒメにも、いま

おなじことをわれた。


そんながしたのだ。


ウ「ササじい、でもおれ……」


サ「本当ほんとうにお父上ちちうえは、御前おまえさんを

国王こくおうとしてくにとどまらせようと

かんがえているのかのう?

これまでお父上ちちうえはずーっと

なにもわず

っていてくれたんじゃろう?」


ウ「ササじい……」


ト「吉備きびことなら、

あんたがそだてたモモタロウだん

いるじゃないか。もちろん、

あたしらだって、まだまだ現役げんえきだよ!

ワカタケヒコとウラがしばら留守るすにしたって、

大丈夫だいじょうぶ心配しんぱいしないでっといでよ」


イ「ウラにいさん、何年なんねんぶりの帰郷ききょうだ?

ちゃんとてこいよ、

どこもかしこも、すっかり景色けしき

わってるんじゃないか?」


使A「そうですねえ、いくさあと

まち様子ようす随分ずいぶんわりましたし」


使B「そうそう、

あたらしい宮殿きゅうでんも、ウラさまにご覧頂らんいただかねば。

場所ばしょすこわって…」


ウ「ぇえ!いてないよ?」


使B「ウラさま、……おはなししましたよ」


ト「あんたがいてないんじゃん〰️」


みんなわらった。

ウラはうつむいてあたまいた。


ウ「そうだな……」


使「ウラさま!それでは」


ウ「ああ」


使者達ししゃたちは、ってよろこんだ。


サ「ウラ。百済くだらってみて、

そこで、自分じぶんがどうしたいかを、

たしかめておいで。

国王こくおうになろうとおもえば、もちろん

それでもいいんじゃ」


ウ「ササじい……」


ササモリヒコは、やさしく微笑ほほえんで、

ゆっくりとふかうなずいた。


にわらす満月まんげつひかり

一層いっそうあかるくなったようにえた。



けて、

そろそろおひらきにしよう

みなこしをあげかけたとき

トメタマヒメが

なにやらそとさわがしいこと

づいた。


ト「なんだろうね?こんな夜中よなかに」


ウ「だれかいるのか」


ウラががり、様子ようすった。

屋敷やしきまえにいたのは

モモタロウだん少年達しょうねんたちだった。


ウ「どうしたんだ、こんな夜中よなかに」


モ「ウラにい!!大変たいへんだよ、中山なかやまに、

てきじんがあるみたいなんだ!!」


ウ「えぇ?!」


モ「いま仲間なかま偵察ていさつってる」

モ「どうしよう、てきんでたら」

モ「俺達おれたちで、吉備きびまもらなきゃ」

モ「いま兄貴あにきらもびにってるんだ」


モモタロウだんは、

十代半じゅうだいなかばのこの少年達しょうねんから

二十代半にじゅうだいなかごろ青年達せいねんたちまで、

総勢そうぜい20人程にんほど集団しゅうだんだ。


それがこれから集結しゅうけつして

てきむか準備じゅんび

はじめようということらしい。


部屋へやなかまで、

緊迫きんぱくした少年達しょうねんたちこえ

こえてくる。


イサセリヒコが、

きゅうさおかおになった。


イサ「すみません!!

もしかしたら、いや、それは

間違まちがいなく、わたし陣営じんえいです!」


同時どうじ


ウ「ちょっと様子ようすてくる!」


ウラのこえかさなった。


ト「え、え、ちょっと?イサセリヒコ、

いまなんて…??……あ!

って、ウラ!!」


トメタマヒメはあわてておもてしたが、

一瞬いっしゅん躊躇ちゅうちょしていたすきに、ウラと少年達しょうねんたち

むらほうりてってしまった。


ト「なんあしはやいの……」


座敷ざしきもどったトメタマヒメは

おろおろしているイサセリヒコに

あゆった。


ト「あなた、いま

じんっているって言《い

》ったの?」


五「すみません…目立めだたないように

たせていたつもりなのですが、

わたし兵士達へいしたちれてきました。

一応いちおう四道将軍しとうしょうぐんとして派遣はけんされたのです」


サ「!!、四道将軍しとうしょうぐん…?!」


ササモリヒコはかすかにかお強張こわばらせた。


イサセリヒコはあわてて


五「ぐんといっても、かたちばかり、

道中どうちゅう護衛ごえいとして、ねんのために

れてようなものです。

わたしは、武力行使ぶりょくこうしをするつもりは

はなからありません!本当ほんとうです!!

まさか、つかるとは…」


必死ひっしうったえるが、

みな動揺どうよういろかくせない。


油断ゆだんさせておいて

襲撃しゅうげきする作戦さくせんだったのか……?


なごやかな酒宴しゅえんから一変いっぺん

座敷中ざしきじゅう不穏ふおん空気くうきつつまれた。


ササモリヒコは、

射抜いぬくようにするど

イサセリヒコのつめていた。


イサセリヒコの

いつわりのいろえない。

しかし

一瞬いっしゅんでもらしたら…

と、きびしく見据みすえたササモリヒコの

そのに、ぬくもりが宿やどると

イサセリヒコはおもわずなみだぐんだ。


サ「さあ、いそごう」


イサセリヒコはそのこえ

表情ひょうじょうめ、

みな一礼いちれいして、った。


五「おさわがせして本当ほんとうもうわけありません。

いまぐにわたし陣営じんえい撤退てったいして

大和やまともどります」


サ「タケルとトメタマヒメは、

ウラとモモタロウだんいかけなさい。

大和やまとぐん攻撃こうげき仕掛しかけでもしたら、

かえしのつかないことになるぞ」


イヌ・ト「はい!」


サ「イサセリヒコ殿どの

ワカタケヒコと

ともにここへもどられるのを

っていますぞ」


イサ「…はい!」


イサセリヒコは中山なかやま陣営じんえいへ、


そして


イヌカイタケルとトメタマヒメは

村外むらはずれに集結しゅうけつしている

モモタロウだんめるため、


みな一斉いっせい屋敷やしきしていった。


あとのこったのは、

ササモリヒコと

呆然ぼうぜんくす百済くだら使者達ししゃたち


サ「大丈夫だいじょうぶ出発しゅっぱつ準備じゅんびはじめなされ」


ササモリヒコはわらってった。


使A「しかし…」


サ「なあに、イサセリヒコ殿どの撤退てったいすれば

すぐにきます」


ササモリヒコは

縁側えんがわむら見渡みわたした。


つきも、むら見守みまもるように

あかるくらしていた。





























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