第12話 天上の再会

イ「……ねえさんが、

吉備きび手紙てがみいていたのが

あとかったんです。

ぼく吉備きびくのを

すごく心配しんぱいしていた内容ないようでした。

ぼくのせいでんでしまったのかとおもうと、

もうわけなくて……」


イサセリヒコはうるませて、

ソファで寝息ねいきをたてている

モモソヒメのほう見遣みやった。


孝霊天皇こうれいてんのうは、イサセリヒコのグラスに

シャンパンをいでやりながら


孝「イサセリヒコ、それはちがう。

彼女かのじょは、ただいそがぎたんだよ。

ずっと天皇てんのうしたがっていたし、

きみら、ほとんかおわせなかったでしょう」


イ「そうですね、ぼくらは交流こうりゅうほとんど……

それはむかしからです。

ねえさんとはとしちかいんですが、

ワカタケヒコのように

一緒いっしょあそんだおぼえもないし……

ねえさんは、ちょうエリートってかんじで、

勉強べんきょう巫女みこ修行しゅぎょう大忙おおいそがしでした」


ワ「へえー、……でもさ、

それって、三年さんねん讃岐さぬきでサボってたぶん

まってた勉強べんきょう

いそがしかったんじゃないの?(笑)」


ワカタケヒコが茶化ちゃかすと


孝「そうそう。

そうなんだよ、ワカタケヒコ。

そういうおまえは、

ずっと吉備きびからかえらず、

とうとう勉強べんきょうというものを

しなかったのではなかったかな」


孝霊天皇こうれいてんのうがワカタケヒコにけた笑顔えがおは、だけわらっていなかった。



ワ「あら……///そうだったかしら……」


ワカタケヒコが

そそくさとせき

ワインをりにったのを

一同いちどうわらいがこったが、

ワカタケヒコがあわててせいした。


モモソヒメが、うー……ん……、と

寝返ねがえりをったのだ。


シー、と口元くちもとゆびてて、

ワカタケヒコが

おそるおそるモモソヒメをうかがう。

規則的きそくてき寝息ねいきが、かすかにこえる。

どうやら、こさずにんだようだ。


ウ「モモはすこかせてあげましょう。

いつにもして、

今日きょうはよくんでいましたから……」


ワ「でも、なんでだろ?あの人、

オレとイサセリヒコが仲悪なかわるいとおもってない?」


ウ「そ、それは……(汗)」


孝「モモソヒメはイサセリヒコが

吉備きびったのをていなかったからね。

まだ、ほら、にたてホヤホヤで、

わけからなかったんでしょ(笑)

になるならいつでもに行《い

》けたのに、

大和やまと呆然ほうぜん

自分じぶん葬儀そうぎ準備じゅんびながめていたよ」


ワ「あー、そうなんだ。

それで、

大和やまともどったおれわりに

イサセリヒコが吉備きびって、

ウラをしたとおもってるわけか」


モ「したどころか、

くびったんでしょ!?」


ギクッとして男達おとこたちくと、

モモソヒメが仁王立におうだちしていた。


イ「く、くびっ?!……」


ウ「……モモ、ごめん!

だますつもりはなかったんだ……!!」


イサセリヒコのこえいきおいで

突然とつぜんウラががった。


『…………え?』


モモソヒメをふくめ、一同いちどうみな

じっとふかあたまげているウラを

つめた。



………………



自分じぶん葬儀そうぎわり、

自分じぶんのいない朝廷ちょうてい

日常にちじょうもどしてきたころ


自覚じかくしたモモソヒメは

がつくと

天上てんじょうにいた。


いつのにか、

地上ちじょう見渡みわたせる見晴みはらしのおか

たたずんでいた。


モモソヒメは、地上ちじょう見下みおろし

吉備きびはどのあたりかとらした。


しばらくすると、

はるあらしのような一陣いちじんかぜ

モモソヒメはかおそむけた。

その拍子ひょうしに、

おか天辺てっぺんに、枝下桜しだれざくら大木たいぼく

があるのをつけた。


さくらはちょうど満開まんかいになっている。

はなおもさでえだほとん地面じめんとどきそうだ。


その大木たいぼく根元ねもとこしろすと、

まるではな御簾みすかこまれているようだ。

ほのあま桜色さくらいろのそよかぜほほでる。

モモソヒメはさくらみきあずけ、

やがて微睡まどろみ、ゆめた。


ゆめなか、モモソヒメは吉備きびき、

ウラやワカタケヒコと再会さいかいよろこんだ。

あかるくおだやかな瀬戸せとうみ

ウラのふね讃岐さぬきたずねると

なつかしいおじいさんおばあさんが

歓迎かんげいしてくれた。

ウラは、おこめのおれいにと、

稲刈いねかりを手伝てつだった。

たくましいふとうで軽々かるがる

おおきな稲束いなたば次々つぎつぎはこぶ。

仕事しごとはかどり、村人達むらびとたち大喜おおよろこびだ。


木陰こかげ一休ひとやすみするウラは、

モモソヒメのつくった

おおきなおむすびを頬張ほおばる。


しあわせそうなウラの笑顔越えがおごしに

える風景ふうけい

すべてが金色きんいろかがやいてうつくしい。


村人達むらびとたちこえ稲穂いなほれるおと

そんなざわめきも、

まるでひとつの音楽おんがくのようになって

かぜにのってすずやかにながれてくる。


そんなゆめているうちに、

モモソヒメは当時とうじ姿すがたちかづくように

若返わかがっていた。


目覚めざめると、

さくら御簾みすこうにやはり

地上ちじょう見下みおろして

たたず人影ひとかげえた。


モ「…………ウラ……?」


モモソヒメがゆっくりとがり、

そっとさくらえだをくぐったとき

一陣いちじんかぜさくらはなびらをさらって、

その人影ひとかげけた。

いた人影ひとかげは、やはり

ウラであった。


モ「ウラ!」


ウラは一瞬いっしゅんおどろいた様子ようすだったが、

出会であったころわらぬモモソヒメに、

なつかしそうに、いとおしむように微笑ほほえんだ。


ウラはまだ、地上ちじょうにいたころのままの

姿すがただった。かおしわつかれのいろ

ふかきざまれている。

としかさねてもなお屈強くっきょう肢体したい

ボロボロにやぶれたふくから所々ところどころ

あらわになっている。


モモソヒメはおか

ウラのむねんだ。

モモソヒメのから

大粒おおつぶなみだあふし、

まらなくなった。


ウラはだまって、

やさしく、まるで孫娘まごむすめくように

おおきなてのひらおだやかに

モモソヒメの背中せなかさすっていた。


桜吹雪さくらふぶき二人ふたりかすませるほど

なくそそぐ。


いつしか二人ふたり足下あしもとには

さくらはなびらがもり、

丘一面おかいちめんがピンクにまっている。


やっとモモソヒメがんだころ

ウラの姿すがたもモモソヒメと出会であった当時とうじ

ように変化へんかしていた。


あわいピンクの絨毯じゅうたんうえこしろし、

二人ふたり吉備きび見下みおろした。


ウラがなくなった吉備きびでは、

イサセリヒコが大吉備津彦おおきびつひこ

ワカタケヒコが小吉備津彦こきびつひことなって、

吉備きびおさめている。

人々ひとびと相変あいかわらず活気かっきちていた。


二人ふたりはじっとだまったまま

吉備きびていた。






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