第11話 イサセリヒコ

コン、コン。コン、コン。


ワ「お、ご到着とうちゃくかな」


ワカタケヒコががり

ドアをけると

そこに


せんほそくスラリとした

うつくしい青年せいねん

ラル○ローレンのこんのスーツにつつ

黒縁眼鏡くろぶちめがねからすこ緊張きんちょうした表情ひょうじょうのぞかせて

っていた。


丁寧ていねいでつけたやわらかそうなかみ

マスカットのようなさわやかなかおりを

ほのかにただよわせている。

はだとおるようにしろく、

かみ色素しきそうすいせいか、

はかないようなうつくしさが女性じょせいてきにもえる。


ワ「どうぞ。はやかったじゃん」


イ「お邪魔じゃましまーす……」


ちょっとはにかみながら、

ワカタケヒコにエスコートされて

イサセリヒコが入ってきた。


もなくはこばれてきた

えたシャンパンを

男達おとこたちはイサセリヒコを歓迎かんげいしている。


モモソヒメ一人ひとり

こしけてしまったように

ソファからうごけないでいた。


先程さきほどまでソファにくつろいで

ヨレヨレになっていた

男達おとこたちのスーツは

ろしてのようにととのっている。

こころなしかみな

背筋せすじもピンとびて

笑顔えがお五割増ごわりましだ。


モ(……みんな……ちょっと若返わかがえってる?)


モモソヒメはぼんやりと

男達おとこたちつど窓辺まどべながめていた。


イサセリヒコは眼鏡めがねはずし、

すっかりリラックスした様子ようす

談笑だんしょうしている。


モ(…へんね……まずくないのかしら、

イサセリヒコと、

ウラとワカタケヒコ……)


かんがえようとするが、あたままわらない。


モモソヒメは、今日きょう

ウラを酒場さかばしてから

いままで、

えずの生中なまちゅうはじまり、

なまレモンちゅうハイを三杯さんばい

ぬるかん二合にごう

ビールだいジョッキ、

シャンパン、あかしろワインと、

延々えんえんつづけ、

そしてしゃべつづけているのだ。


ふと、

からだがソファにふかふかくどこまでも

しずんでゆくような感覚かんかくおそわれた。


モ(あぁ、もうダメ~💫)


思考停止しこうていししたモモソヒメは

気持きもさそうに

ねむりにちていった。


ウラが

しのあしでソファにちかづき、

モモソヒメのかおのぞむと


見慣みなれた寝顔ねがおがそこにあった。酒場さかば寝落ねおちするとき、彼女かのじょはいつも、

半笑はんわらいでくちけている。


ワ「……ねむっちゃった?」


ウラは、くと

ウンウン、と

真面目顔まじめがおうなずいてせた。


男達おとこたち

部屋へやおくにある、

重厚じゅうこうおもむき

おおきなダイニングセットの

すみかたってこしろし、

かおわせて

ひそひそと話始はなしはじめた。


初老しょろう紳士しんし孝霊天皇こうれいてんのう

壮年そうねん色男いろおとこ大物主おおものぬし

からだ頑強がんきょうだがなみだもろい青年せいねん、ウラ、

成人せいじんしたてのやんちゃ坊主ぼうず、ワカタケヒコ、

そして、

深窓しんそう美青年びせいねん、イサセリヒコ。


統一感とういつかんまったくない

かおぶれである。


ほのぐら部屋へや片隅かたすみつどかれらはまるで、

とぎくに冒険ぼうけんする

魔法使まほうつかい、商人しょうにん戦士せんし勇者ゆうしゃ妖精ようせい

たび一団いちだんが、いよいよクライマックス、

ラスボス(モモソヒメ)との対決前夜たいけつぜんやに、

宿屋やどや攻略方法こうりゃくほうほうっているかのようだ。


大男おおおとこ戦士せんしウラが、

ひかえめにくちひらいた。


ウ「あのー……モモソヒメのとおり、

昔話むかしばなしおにになっているぼく誤解ごかいこう、

おっしゃってましたけど……」


かけによらず気弱きよわ戦士せんし

勇者ゆうしゃワカタケヒコがが加勢きせいする。


ワ「そうだよ、父上ちちうえ、どうするんだよ。

おれ面倒めんどうなのいやだからね。

ブログだとか、インスタだとか、

モモねえにすすめたりしないでよ?」


魔法使まほうつかいの孝霊天皇こうれいてんのう

シャンパングラスを

余裕の《よゆう》みをせた。


孝「いやいや、そのけんならば、

もう充分じゅうぶん任務完了にんむかんりょうですよ」


ワ「……?どういうこと?」


孝「今日きょう、こうしてみんなはなしたことが、

地上ちじょうみなさんにつたわればわけだから。

そうでしょ?

あとは、書記しょきかたにおまかせするとして……」



枝(……書記しょきというのは、この著者ちょしゃか?)



孝「いや、まてよ?いかん!

肝心かんじんの、桃太郎伝説ももたろうでんせつ後半こうはんがまだだった!

……おぉ、そうだ、ちょうど

イサセリヒコもてくれたことだし、

桃太郎伝説ももたろうでんせつ結末けつまつは、こちらの主人公しゅじんこう

くわしくはなしてもらおうかな」


孝霊天皇こうれいてんのうが、

イサセリヒコに目配めくばせした。

かれ桃太郎伝説後半ももたろうでんせつこうはんの、主人公しゅじんこうである。


イ「え……え?ぼく?……」



……………………



イサセリヒコは、

モモソヒメのふた年下とししたおとうとで、

ワカタケヒコとはおなどしである。


ワカタケヒコは、

モモソヒメやイサセリヒコとは

異母兄弟いぼきょうだいであった。


孝霊天皇こうれいてんのうには、きさき四人よにん

全部ぜんぶ八人はちにんいた。


病弱びょうじゃくだったイサセリヒコは、

おなどしのワカタケヒコが

にわまわってあそぶのを

るのがたのしみだった。


ワカタケヒコは、

にわつかまえたむし蜥蜴とんぼ

ひろったんできたはな

イサセリヒコにせては、

それをつけた場所ばしょや、

ったときのことをはなしてかせた。


あめには

すごろくあそびや福笑ふくわらいをして、

イサセリヒコの部屋へやあそんだ。


ワカタケヒコが突然とつぜんなくなってから、

イサセリヒコはしずみがちだった。


そんなイサセリヒコに、

孝霊天皇こうれいてんのう

たびはなしかせた。


さむくにあつくに

うみふねしま山奥やまおくたき

おおきなくまや、鹿しかれ、

めずらしいや、薬草やくそう……

どんなはなしもイサセリヒコには

たのしくて仕方しかたがなかった。


けれども、孝霊天皇こうれいてんのう

鬼退治おにたいじはなしをしたは、

こわくてねむれなかった。


あるとき孝霊天皇こうれいてんのうが、

ウラとワカタケヒコのはなし

かせると、

イサセリヒコはとてもよろこんだ。


大好だいすきなワカタケヒコが、

吉備きび冒険ぼうけんをして、仲間なかまとも

吉備きびまもってらしている姿すがたあこがれた。


自分じぶんもいつか吉備きびってみたい、

そうって、

イサセリヒコはかがやかせた。


孝霊天皇こうれいてんのう

地方ちほう出掛でかけるときにイサセリヒコを

同行どうこうさせるようになった。

そして、

孝霊天皇こうれいてんのうとイサセリヒコは

おに退治たいじしないために

各地かくち奔走ほんそうしたのだった。


大人おとなになったイサセリヒコは、

崇神天皇すじんてんのう朝廷ちょうてい

ぐん従事じゅうじした。


勿論もちろん事務方じむかた裏方うらかたである。

せんほそいイサセリヒコは、

体格的たいかくてきには全然ぜんぜん兵士へいしにはかなかった。

しかし

孝霊天皇こうれいてんのうについて

日本各地にほんかくちたびした経験けいけん知識ちしきが、

遠征えんせい準備じゅんびにとても役立やくだった。


また、イサセリヒコは、

軍人ぐんじんたちの面倒めんどうがる

事務的じむてき仕事しごとたすけるので

人望じんぼうあつかった。


出征しゅっせいには無縁むえん日々ひび

おくっていたイサセリヒコだったが、

いつか吉備きびゆめ

わすれていなかった。


四道将軍しとうしょうぐん派遣はけんまったとき、

イサセリヒコは

さきげて

吉備きびきをもうた。


まさか、

これまで事務方じむかた一辺倒いっぺんとうだった

イサセリヒコが

遠征えんせい希望きぼうするとは、

と、

だれもがおどろいた。


しかし、ほど

吉備きびにいるワカタケヒコは

イサセリヒコの兄弟きょうだいである。


そもそも吉備きびへの派遣はけんは、

大和統一やまととういつ報告ほうこく

くようなものだ。


久々ひさびさ兄弟きょうだい再会さいかい機会きかい、と

崇神天皇すじんてんのうこころよ

イサセリヒコの吉備行きびゆきを承諾しょうだくした。


イサセリヒコは大喜おおよろこびで

たび準備じゅんびりかかった。


ところがその矢先やさき

あねのモモソヒメが

んでしまったのである。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る