第9話 モモソヒメ①

ワカタケヒコが、

ソファにあず

ワイングラスを照明しょうめいにかざして

あざやかなあかけるひかり

ながめている。


ワ「オレ、

むかしッからおもってたんだけどさ、

モモねえは、ちょっと、

おんなかどうかうたがわしいよなあ。

まあ、無理むりもないのかなあ、

色恋いろこい無縁むえん人生じんせいだったから……」


ウ「でも、おれ出会であったころは、

せっせと野良仕事のらしごとしてるわりには色白いろじろだし、

可愛かわいらしかったけどね……?」


ワ「あらら?ウラにい

やっぱりちょっと、

モモねえがあったのか……?

もう、遠慮えんりょしなくてもいいんじゃないの?

ロリコンとかわれないでしょ」


ワカタケヒコがした。


ウ「いや!!いやいやいや……!!!

そんなことはない。だんじてない!」


モ「…………そんなに否定ひていする?

ウラ、あやしいナァ…………

もしかして、

じつわたしのことに入ってた??」


ウ「やめなさいって……(汗)」


大「……モモ、おまえはどうなんだよ?

讃岐さぬきではさびしいときに、

いつもウラがはなしいてくれたんだろ。

そのことをはなすとき、

まえ随分ずいぶんうれしそうだったけど……?

そういえば、大和やまとかえってからも、

またすぐ吉備きびきたいなんてって、

さわいだらしいじゃないか」


大物主おおものぬし

からかうようにった。


孝「そうそう、だからわたし

吉備きびときは、

モモソヒメにはつからないように

こっそり出掛でかけたもんねェ……」


孝霊天皇こうれいてんのうも、かたすくめる。


孝「まあ、それにしても、

あの桃太郎ももたろうとかぐやひめは、

本当ほんとうに、偉業いぎょうげたなあ……

て、おやバカかな?」


大「いえいえ、たしかに偉業いぎょうですよ。

……と、いうことは、あの、

モモソヒメがんでったイタズラは

イタズラとえなくなってきたな」


大物主おおものぬしは、

スモークサーモンをパクッとべて、

モモソヒメにウインクした。


ワ「?」


モ「?……どういうこと?」



……………………



モモソヒメの鉄拳てっけんたおれた大物主おおものぬしが、

しばらくしてがると、

モモソヒメはかたわらで、座卓ざたくひじいて

こっくりこっくり、居眠いねむりをしている。

余程よほどつかれたとえて、

べかけのしいもを

ったままねむっている。

大物主おおものぬしは、モモソヒメを寝床ねどこはこび、

布団ふとんをかけてやった。


大「もう、いいとしなんだから、

無理むりするなよ……」


そうって、

部屋へやていこうとがった途端とたん


モ「……だれがおばあやて?」


モモソヒメが大物主おおものぬし足首あしくびつかんだ。


大「ひッ?!おまえ……びっくりするだろ~。

それに、ぉ、おばあとは言ってないぞ……?」


身構みがまえる大物主おおものぬし


モ「かえらないで」


大「…………!?

あらら、めずらしく

可愛かわいらしいことをうじゃないか」


モ「いつも、わたしねむっている

かえっちゃうから、さびしいのよ。」


大「……そうか?」


モ「たまには一緒いっしょにいてよ」


大「かまわないが……おれは、

あさになると姿すがたわるよ」


モ「いいよ、たい」


大「……わかった。しかし、

ほかものこしにでもたら

おどろくだろうから……

そうだな、そこにある

櫛笥くしげにでもかくれていようか。」


モ「……櫛笥くしげ……?」


モモソヒメは寝呆ねぼけて、

じかけている。


大「まあ、わかったから

いまはとにかくなさい。

やすみ、また明日あした。」


モ「……おやすみ……」


モモソヒメは

もなく寝息ねいきをたてはじめた。

しながら大物主おおものぬしは、

その寝顔ねがおていた。


まどからほのかな月明つきあかりが

モモソヒメのかおらし、

つかれをりにする。


大「頑張がんばぎだよ……」


大物主おおものぬしは、モモソヒメをいたわるように

そっとむねき、かみでた。


やがてそらしらみはじめた。

大物主おおものぬし姿すがたえ、

しずかに寝床ねどこはなれた。


モモソヒメが、

たし櫛笥くしげのことをおぼえているのか、

それがすこになったが、

大物主おおものぬし約束通やくそくどおかくした。


モモソヒメが目覚めざめると、

となりにいたはず大物主おおものぬしのぬくもりは

すでめてしまっていた。


ちいさくいきをつき、

それからからだばしてがった。

一瞬いっしゅんかる目眩めまいがしたようながしたが、

いつものことだ、とがった。


しかしその途端とたん

あたま激痛げきつうはし目眩めまいおそわれた。

咄嗟とっさかたわらのたなけたが、

意識いしきうしなってたおんだ。


そして、

モモソヒメはそのまま

息絶いきたえた。


たなかれていた櫛笥くしげは、

モモソヒメがたおれた拍子ひょうし

ゆかちて、

ふたすこいていた。


おおきな物音ものおときつけて

いえのものがあわててやってた。

ると、モモソヒメはすで息絶いきたえ、

すぐそばちていた櫛笥くしげから、

白蛇しろへびかおのぞかせていた。



……………………



大「おまえさー、

白蛇しろへび変化へんげしたおれ

おどろいてひっくりかえって

んだとか、われてたよな……」


モ「ごめんね……

ぬしのせいじゃないのに……

それにわたし櫛笥くしげのことわすれてて、

ぬしがかえっちゃったとおもって、

ちょっとおこってた……エヘヘ」


大「……そうじゃないかとおもったよ」


大物主おおものぬしは、ワインをあおった。


モ「あ!でも!

ちゃんと櫛笥くしげたとしても、

ひっくりかえることはなかったわよ。

ぬしの白蛇姿しろへびすがた可愛かわいいもんねェ」


大「何言なにいってんだ、

可愛かわいいなんておもっていないだろ」


ワ「へえ?こっちでも

白蛇しろへび姿すがたになること、あるんだ?」


モ「天上てんじょうだといつでも変化へんげできるから、

ちょっと嵩張かさばるな、とおもったら

変化へんげしてもらって、ふところ仕舞しまうの」


ウ「嵩張かさばる……(どういうときかな……)」


孝「仲睦なかむつまじいねえ」


ウ「…………(そうなのか……?)」


モ「でも、いつのにかして、

地上ちじょうあそびにっちゃうのよね(怒)」


ワ「相変あいかわらず、ぬしにいさんは

プレイボーイだな!」


何気なにげないワカタケヒコのいのに、

キッ、とモモソヒメの視線しせんするどくなった。


ウ「はっ!……もしかして、時々ときどき

モモの機嫌きげんわるいのって…………」


モ「そう!!いてよウラ~~、

今日きょうもさ、わたしが、ほんのちょっと

ふところに入っててね🎵ってったら、

いつのにか、

サーッといなくなっちゃって……

わたしはひとときもはなれたくないと

おもってるのに……………………うぅ……」


ワ「あらら、またいちゃったよ?

……モモねえ、それウソきだろ」


ウ「仕舞しまうのもどうかとおもうけど……」


大「お、かってくれる?流石さすが、ウラくん

どうせ邪魔じゃまになるんなら、

ちょっと地上ちじょう巡回じゅんかいしてこようかな、

おもうんだよね。

それにね、

ふところがもうすこ豊満ほうまん

居心地いごこちければいいんだけどさ……」


わるがはやいか、

モモソヒメの鉄拳てっけんぶ。

しかしその刹那せつな

大物主おおものぬし白蛇しろへびとなって

テーブルのしたもぐんだ。


モ「きい~~‼️」


孝「流石さすが大物主おおものぬし

よめあつかいにれておるな」


地団駄じだんだむモモソヒメ。

男衆おとこしゅうは、大笑おおわらいいした。


ウ「……それにしても、

急死きゅうしだったとはな……

それってやっぱり、過労かろうだろ?

モモ、仕事しごと大変たいへんだったんだな!」


ワ「……(流石さすがウラ!えうまいなあ)」


孝「大和朝廷やまとちょうていが、国家統一こっかとういつ

仕上しあげにかかったときだったからね……」


父親ちちおや孝霊天皇こうれいてんのうさらたすぶねした。


大「……(たすかった……)」


大物主おおものぬしはこそこそとテーブルのしたから

かおし、モモソヒメの様子ようすうかがう。


モ「そうそう。大変たいへんときでね~、

色々いろいろあったわ~~。

疫病えきびょうでしょ、食糧難しょくりょうなんでしょ……

神事全体しんじぜんたい体制たいせい再構築さいこうちく

佳境かきょうはいってたし……

そうだ、疫病えきびょうしずめるとき

ぬしにたすけてもらったのよね」


いつのにか姿すがたもどした大物主おおものぬしは、

チーズを片手かたてにワインをんでいる。


大「ああ。そういや、

一緒いっしょ仕事しごとしたこともあったな。

あのときの巫女姿みこすがたのモモ、

凛々りりしくて、可愛かわいかったんだよなあ。

憑依ひょういするのが勿体もったいないくらい……」


モ「何言なにいってんのよ///」


モモソヒメは、葡萄ぶどうふさごとつかんで、

まんではくちほうんだ。


ワ「ぷ。れてる」


モ「うるさいなあっ///」


大「しかしモモは、随分ずいぶん無理むりしてたよな。

ウラの一件いっけん以来いらい外国がいこくからの移民いみんえて、

崇神天皇すじんてんのうころには

外交がいこうもえらくさかんになってたしなあ」


モ「それは、

いそがしかったけれどうれしいことよ。

敵対てきたいするくに移民いみん同士どうし

意外いがいにこっちで仲良なかよくなったりして、

結構けっこうほかくににとっても

いことがあったのよ。

ウラや、お父様とうさまのおかげよね~」


ウ「おれなにもしてないよ。

ワカタケヒコがいなければ、

吉備きび人々ひとびとあゆることも

できなかったんだ。

移民いみんみちひらけたのは、

孝霊天皇こうれいてんのうがあってこそだしな」


ウラは、モモソヒメのグラスに

ワインをぎながらった。


すると

ゆっくりブランデーグラスを

らしていた孝霊天皇こうれいてんのうは、


孝「わたしのしたことは、所詮しょせん真似事まねごとだよ。

モモソヒメやワカタケヒコをならって、

偏見へんけんはらっただけだ」


と、おもむろにグラスをかか


孝「かぐやひめ桃太郎ももたろう

そして、ウラくんに!!乾杯かんぱい~~」


ウ「?!」


おどろいたウラに、孝霊天皇こうれいてんのう

やさしく微笑ほほえんだ。


孝「ウラくんは、辛抱しんぼうして、

あきらめずに頑張がんばっていたじゃないか。

モモソヒメが讃岐さぬき頑張がんばれたのも、

わたしおに正体しょうたいることができたのも、

きみのおかげだ。ありがとう」


ふたた孝霊天皇こうれいてんのうがグラスをかか

みんな賛同さんどうした。


モ「あー、た。むし赤鬼あかおに


ウ「いてない(泣)」







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