第7話 鬼退治

孝霊天皇こうれいてんのうは、わかころ数年間すうねんかん

出雲いずもにいたことがある。

当時とうじは、気候きこう寒冷かんれい作物さくもつみのらず、

人々ひとびとえにくるしみ国中くにじゅうれていた。

そのため、

中国地方ちゅうごくちほうかなめである出雲いずもくに交渉こうしょうし、

大和やまと介入かいにゅうして農業指導のうぎょうしどう治安回復ちあんかいふく

そうとしたのである。

その大役たいやくまかされたのが、

皇子おうじ笹福ささふくみこと(孝霊天皇こうれいてんのう即位前そくいまえ)だった。


笹福ささふくみことは、

出雲いずもかう道中どうちゅう

おにおそれられているぞく

いくつも退治たいじした。


ったおおくのむらで、

おにわるさをしてこまっている人々ひとびと

おにおそれて、たすけをもとめてくる人々ひとびと

笹福ささふくみことは、大勢おおぜいてきた。


ところがいま

ワカタケヒコは

吉備きび

おに一族いちぞくとも

らしているという。


孝霊天皇こうれいてんのうは、  

それを

自分じぶんたしかめずには

いられなかった。


ワカタケヒコは、

モモソヒメをってしたのが

むっつのときだったので、

もうすぐ十歳じゅっさいになる。

まだまだおさないながらも、

ちち孝霊天皇こうれいてんのうおしえをまも

むらため健気けなげつとめていた。


ちち突然とつぜん来訪らいほうに、

ワカタケヒコは、

はじまずそうにしていたが、

もどしにたのでない、

とわかると、

大喜おおよろこびで、ちちむら人々ひとびと紹介しょうかいした。


むら隅々すみずみまでりつくし、

事細ことこまかに、いきいきと

案内あんないするワカタケヒコに

孝霊天皇こうれいてんのうほそめた。


吉備きびくには、

ウラのつたえた鉄器作てっきづくりで

らしがゆたかになり、

人々ひとびとみな活気かっきあふれている。

そして

ウラは吉備冠者きびかじゃとして、

みなしたわれていた。


よるには、県主あがたぬしササモリヒコが

盛大せいだい歓迎かんげいうたげひらいた。


孝霊天皇こうれいてんのうは、

おに風貌ふうぼうをした大男おおおとこウラが、

村人むらびとじって

たのしそうにおおきなこえわらい、

さけわすのを

不思議ふしぎ気持きもちでつめた。


けて

しずかになった屋敷やしき縁側えんがわ

孝霊天皇こうれいてんのうとササモリヒコの二人ふたり

すずしい夜風よかぜほほまし、また

ゆっくりとさかずきわしながらくつろいでいた。


孝「……ウラくんをみていると、

わたし退治たいじしたおにたちが

おもされます……」


そして、

さかずきさけうつつきに、視線しせんとした。


一方いっぽうのササモリヒコは、

もう中天ちゅうてんかりかけている

満月まんげつ見上みあげるように

背筋せすじばして

よるんだ空気くうき

胸一杯むねいっぱいむと、

それを一息ひといき

すようにった。


サ「むすめおにさらわれたとさわぎになったとき

もどったむすめはじめになんったとおもいますか?

みんなかまえていておどろいた。

迷子まいごになった桃太郎ももたろうかえったのでみんな大喜おおよろこびしたのかとおもった』

ってうんです。

それをいてわたしは、むすめ

自分じぶん迂闊うかつおにさらわれたことを

誤魔化ごまかそうとしているのかとおもったんです。

そうしたら、

はらちましてね。

そのあとむすめが、やまでの出来事できごと

ウラのつく鉄器てっきはなしをしても、

なんにもあたまはいってきませんでした。

二度にどおにやまちかづくな!』

むすめにも村人むらびとにも、ただそのように、

きつくさとしました。」


孝「…………まあ、たしかに、

ワカタケヒコは、むすめさんかられば

ただの迷子まいごだったのでしょう(笑)」


サ「今思いまおもえば、あのときむすめしんじて

わたし一度いちどでもウラのもとたずねていたら、

ウラにながあいださびしいおもいを

させずにんだろうに……

すまないことをしました。

正直しょうじきいますとね、こわかったんです。

わざわざおにいにきたくありませんよ。

それに、ウラも

あれ以来いらいむらちかづかなかった。

かれらはいつのにか、

しまうつっていたんです。」


孝「……ワカタケヒコはそのとき

ウラくんについて

なにはなさなかったのですか」


サ「ワカタケヒコくんにしてみれば、

ウラにいもしなかったわけですからね……

ワカタケヒコくんは、本当ほんとう勇敢ゆうかん皇子おうじだ。

ももからあらわれた、

ただならぬとうといおひとだということは、

皇子おうじまえからみなかっていました。

けれどもかれは、身分みぶんれても

すこしも我儘わがままわず、

じつによくはたらく。

桃太郎ももたろうしたしまれ、

とても可愛かわいがられています。

あのは、村人むらびと

おにやまはいわたしむすめかけたというので

たすけに準備じゅんびをしているところへ、

桃太郎ももたろうらしているおばあたんです。

桃太郎ももたろうがひとりで県主あがたぬしむすめたすけに

してった、

いかけて助太刀すけだちしてやってくれ』という。

正義感せいぎかんつよかれのことだ、

本当ほんとうにその出掛でかけるかもしれないが、

しかし流石さすがに、けわしいあのおにやま

ひとりではいるのは危険きけんだ。

わたしたちはやまいそ出発しゅっぱつすることにしました。

そうしたらそこへ、

むすめがワカタケヒコくんつないで、

たのしげにうたなんかうたいながら

かえってきた。」


孝「ハハハ……」


サ「緊張きんちょう一気いっきゆるみました。

みな安堵あんどして、もうそのは、

二人ふたり無事ぶじいわってめやうたえの

まつさわぎになりました。

そしてわたしが、『おにやまちかづくな!』

一喝いっかつしたきり。

何事なにごともなく、月日つきひってしまった」


孝「じつは、わたし即位そくいするまえに、

出雲いずもつかわされたことがあります。

寒冷かんれいつづいて食糧難しょくりょうなんになり、

各地かくち人々ひとびとくるしんでいたときだった。

この地方ちほうかなめである出雲いずも大和やまと介入かいにゅうし、

とも治安ちあん回復かいふくしようとしたのです。

そのときわたし出雲いずもかう道中どうちゅうで、

いくつもおにばれるぞく退治たいじした。

実際じっさいあらくれものぞく沢山たくさんいたし、

そのせいでおそろしいったった

どく人々ひとびと沢山たくさんてきました」


孝霊天皇こうれいてんのうつき見上みあげ、つづけた。


孝「しかしウラくんは、

あらくれものではなかった。そして、

いまみなとも平和へいわらしている……」



大和やまともどった孝霊天皇こうれいてんのうは、

その

おにうわさると、

そのおもむき、

おにらえて

事実じじつたしかめるようになった。


すると


食糧難しょくりょうなんからあらたな土地とち

もとめてきたひとや、

あらそいで土地とちわれた難民なんみん

など、

ウラとおなじような素性すじょう

つものがほとんどだったのである。


れられず

おにぞくわれているうち、

本当ほんとうあばれ、わるさをするように

なってしまったものもいたが


やむぬすみをはたらいた仲間なかま

ころされてしまった、と

なみだながらにかたものもいた。


孝霊天皇こうれいてんのう

かれらにあたらしく土地とちあてがったり、

周辺しゅうへん人々ひとびととのあいだって和解わかいさせた。


鬼退治おにたいじをすることはくなり、


いつしか

おにうわさかれなくなっていた。


大和やまとには聖人せいじん天皇てんのうがいるといて、

外国がいこくからうつ人々ひとびとえ、

朝廷ちょうてい対応たいおういそがしくなった。

またそうした人々ひとびとにより

工芸等こうげいなど発達はったつ

くにゆたかになった。











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