第3話 竹取桃太郎②

吉備きびくに

おにおそれられていたのは、

じつ異国いこく皇子おうじだった。


それがウラである。


山奥やまおくかくれていたが、

生活せいかつのために自国じこくさかんだった

鉄器てっきづくりをし、ふもとむら

ろうとやまりたところ、

その姿すがた村人むらびとが、

悲鳴ひめいをあげてした。

大柄おおがら見慣みなれないその容貌ようぼうから

おにおそれられてしまったのだった。


ウ「また……」


ウラは、トボトボとやまかえっていった。


ところが、そのかえみち

一人ひとりむすめがウラにはなけてきた。


娘「そのかさせて。ってくれる?

わたしかさかぜばされてしまったの」


ウ「?かさ?これは……なべだよ」


娘「まあ!アハハハ……」


県主あがたぬしむすめだった。彼女かのじょはウラをおそれず

ウラのっている鉄器てっき興味深きょうみぶか

見入みいっていた。

ウラは、うれしくなって

かく沢山たくさんあるほか鉄器てっき

色々いろいろせてやった。


娘「むらひとたちも、こんな道具どうぐ使つかえたら

さぞいいでしょう。また、てもいい?」


ウ「もちろん!大歓迎だいかんげいだ!」


けれども、

そのむすめ二度にどやまおとずれなかった。



ウラのくには、

大陸たいりくひがしはしにあるちいさなくにだが、

てつ豊富ほうふゆたかだったため、

まわりの国々くにぐにからの侵略しんりゃくえなかった。


ウラはいくさきらい、くにはなれた。

そのとき国王こくおうはウラに子供達こどもたちたくした。

戦禍せんかまれ、おやうしなった子供達こどもたち

いくさおそくに皇子おうじ

ゆる条件じょうけんだった。


ウラはもともと子供こども大好だいすきで、

子供達こどもたちもウラをしたっていた。

よろこんでウラは子供達こどもたちあずかり、旅立たびだった。


しかし、ウラたち

こころよむかれてくれる土地とちはなかった。

何処どこってもみな

ウラをるなりした。


ウラがあまりにたくましくおおきなからだつきで、

しかも鉄噐作てっきづくりできたげられた

赤黒あかぐろはだをしていたせいで、

みなおに見間違みまちがええたのだ。


仕方しかたなくウラは、

人目ひとめれぬよう、

ひるよるくら鬱蒼うっそうとしたふかやま

子供達こどもたちともかくれた。


よる、ウラにすがりつく

子供達こどもたちきしめてやりながら、

木漏こものようにわずかに

やさしいつきひかり見上みあげ、

ウラはなみだあふれそうになるのをこらえた。


ウラは時々ときどき一人ひとりふねった。

とっくに瀬戸内中せとうちじゅうおにうわさひろまり、

ウラをれるしまなどない。

そう、わかっていても、

ウラは、さがつづけていた。


瀬戸内せとうちなみおだやかだ。

島々しまじま日当ひあたりの斜面しゃめんには

黄色きいろ果実きじつ沢山たくさんみのっている。

潮風しおかぜあまかんじられた。


ウ「こんなしまで、子供達こどもたち

のびのびあそばせてやりたいな……」


一人ひとりきりの船上せんじょうで、

ウラは子供達こどもたちまえではとどめていたなみだ

すべしきって、海風うみかぜあずけるのだった。


讃岐さぬきごしていた

モモソヒメも、

大和やまとからのむかえをちわびて、

毎日まいにち浜辺はまべ一人ひとりいていた。


そしてある二人ふたり出会であった。

たがいに故郷こきょうはなれ、

さびしさをつのらせていることをり、

二人ふたりはすぐにこころかよわせた。


そのころモモソヒメは、

そのうつくしさが讃岐中さぬきじゅう評判ひょうばんになっていた。

讃岐さぬき若者わかものたちはこぞって、

おくものにモモソヒメをたずねた。

かがやくほどにうつくしいその姿すがたに、

かぐやひめばれるようになった。


しかし、もてはやされてますます

モモソヒメのさびしさはつのった。


こんなにさわがれても

父上ちちうえむかえにてくれないのは、

自分じぶんのいたずらがぎたせいだと

おもってはいたが、

いつまでもゆるしてもらえないのはつらく、

故郷こきょうこいしかった。


ワカタケヒコがものかえそうと

さがしにないか、

ももものむかえにてくれないかと、

毎晩まいばんつき見上みあげていた。


やがて、かぐやひめ評判ひょうばん

吉備きびくににもつたわった。

ひかたけのこからあらわれたかぐやひめと聞いて、

ワカタケヒコは、それがモモソヒメだと

すぐにかった。


ワ「モモねえちゃん、讃岐さぬきくににいたのか?!

なんだよ~、ぼくほうとおくまで

んでるじゃないか……やれやれ」


ところが、ほっとしたのもつかもなく、

そのかぐやひめおにさらわれた、

というさわぎがこった。


ワカタケヒコは、すぐに出発しゅっぱつした。

ばあさんがつくってくれた、

いつもの吉備団子きびだんごたずさえてうちると、

そこにイヌカイタケルがっていた。

むら一番いちばん仲良なかよしだ。

おにのところへくなら、

一緒いっしょれていけという。


そこで、二人ふたりおにやまかっていると、

県主あがたぬしササモリヒコがいかけてきた。

むすめたすけてくれたおれいに、

今度こんど自分じぶんうという。


たのもしいすけて、

三人さんにんおにやまかると、

そこへトメタマヒメがこえをかけた。

村一番むらいちばん弓使ゆみづかいで、やはり

ワカタケヒコの親友しんゆうである。


トメタマヒメがうには、

おにはもうやまにはおらず、

いま瀬戸せとしまるらしい。

そこでトメタマヒメをくわえた一行いっこうは、

うみた。

いざ出陣しゅつじんまえにして、景気付けいきづけにみんな

ばあさんのつくってくれた

美味おいしい吉備団子きびだんごべた。

そうして士気しきたかめると、

鬼ヶ島おにがしまけて意気揚々と船出ふなでしたのだった。



………………



ウ「タケぼうはやっぱり、姉思あねおもいだよなあ。

ま、誤解ごかいだったわけだけど。モモは、

おれんとこにあそびにてただけだからね」


ワ「どうせいにこうとおもっていたんだ、

吉備きびまでてるなら好都合こうつごうだろ」


ワカタケヒコは、なくった。


モ「でもさ、

わたし評判ひょうばんになっていなかったら、

タケちゃんはわたしのこと

つけられなかったんじゃないの」


ワ「う……」


モ「あんたさ、結構けっこう

吉備きびたのしくらしてたみたいじゃない、

友達ともだち大勢おおぜいつくってさ。

私は毎日まいにちなみだれていたってのに……」


ワ「おまえねえ、さっき自分じぶん

ってたんじゃなかったのかよ、

そもそもわるいのは自分じぶんだろ!」


モ「あら、父上ちちうえ大見栄おおみえって、

ぼくさがすってったってのも、

さっきたしかにいたわねえ」


ワ「なんだとお」


モ「なによお、やるィ?!」


ウ「おまえらってさ、元気げんきだよね……」


年格好としかっこうえば、モモソヒメが

二十歳はたちそこそこ、

ワカタケヒコはギリギリ成人せいじんかどうか、

そして、ウラが二十代後半にじゅうだいこうはんといったところだ。


天上てんじょうでは外見がいけん服装ふくそうおなじで

おもいのまま、そのとき気分きぶん

うつされているだけだ。

実際じっさいは、

モモソヒメよりも

ワカタケヒコはながきたが、

天上ここて、姉弟してい関係かんけいった、

そして一番元気いちばんげんき年頃としごろ変化へんかした。


ウラは、地上ちじょうでも大勢おおぜい子供達こどもたち

まもっていたためか、

どうしても二人ふたり保護者ほごしゃとして

ってしまう。

実際じっさい生前せいぜん二人ふたりより十歳程じゅっさいほど年上としうえだった。

自然しぜん関係かんけいではある。


ウ(でも、こいつらが、

おれまもってくれたんだもんな……)


座卓ざたくはさんで威嚇いかく二人ふたり

ほそめながら、


ウ「さけ合間あいまあついおちゃはいい……」


ウラはゆっくりと番茶ばんちゃすすった。


湯気ゆげこうに

あたりめやまめう。

























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