第2話 竹取桃太郎①

第七代だいななだい孝霊天皇こうれいてんのう御世みよ


やっつのとしになったモモソヒメと

むっつのとしのワカタケヒコは、

ちちである天皇てんのうからものたまわった。


そのばんは、

あかるい満月まんげつ宮廷きゅうていにわ

ひるのようにらして、

にわ中央ちゅうおう鎮座ちんざする

銀色ぎんいろかがやおおきなたけのこと、

桃色ももいろまる風船ふうせんのような、

そのふたつのもの輪郭りんかく

はっきりとかびがらせていた。


おさな二人ふたり歓声かんせいをあげて

にわすと、そのものまわりで

はしゃぎまわって、

ピカピカのボディにさわってみたり、

なかのぞんだりした。


モモソヒメには、ももかたちをしたもの

ワカタケヒコには、

たけのこのようなかたちものあてがわれた。


どちらもそらぶことができ、

とく筍型たけのこがたほう高速こうそく移動いどうができる。


ちち孝霊天皇こうれいてんのうは、

興奮こうふんめやらぬ二人ふたり

もどして、さとした。


このものは、

前達まえたち立派りっぱ大人おとなになるようねがって

つくったものだ。


ワカタケヒコ、おまえ

こまっているひとがいたらすぐに

このものんでいけるように、

立派りっぱつよおとこになるのだよ……


二人ふたりらは、

父上ちちうえやさしい眼差まなざしで、

しかし厳格厳格態度たいどで、

大和やまとくにおさめるための

大切たいせつなおはなしをするのを、

熱心ねっしんいていた。


しかし、モモソヒメは

ものになって仕方しかたがない。

ちらちらとにわほうにして

かなくなってきた。


モモソヒメは、

ももきたち風船ふうせんみたいなものよりも、

筍型たけのこがたのピカピカの格好かっこいいもの

ってみたかったのだ。


ワカタケヒコは、

をキラキラさせて

父上ちちうえはなし熱心ねっしんいている。


モモソヒメは、少し後退あとじさりした。


ワカタケヒコが父上ちちうえ

このものにはいつれるのかとたずねた。


父上ちちうえがにっこり微笑ほほえんで、

ワカタケヒコをひざせ、

かたりかけているすき

モモソヒメはそっと

筍型たけのこがたものしのり、

サッとり込むと、

使つかかたらないまま

操縦盤そうじゅうばんいじり、

発進はっしんした。


ドカーン!とはげしい発射音はっしゃおん

ワカタケヒコと孝霊天皇こうれいてんのうくと、

筍型飛行船たけのこがたひこうせんは、すで空高そらたか

がっていた。

そして

あっというほしのようにちいさくなり、

えてしまった。



これが物語ものがたりはじまりだった。



孝「なんと、モモソヒメか?!

……やれやれ…………」


孝霊天皇こうれいてんのうあきがおでためいきいたとき、


今度こんどはワカタケヒコが、

パッとひざからり、にわした。


ワ「ぼくが、姉上あねうえたすけにまいります!!」


うがはやいか

ももものむと、

やはりわけもわからず操作そうさして発進はっしんした。


しかし、モモソヒメがにらんだとおり、

そのものはまるで風船ふうせんそのものだった。


いそいであねいかけたい

ワカタケヒコの気持きもちとは裏腹うらはら

フワリとかびがると、

ゆらゆられながら、

ゆっくりと上昇じょうしょうしてゆく。


それでもついには、

つきまれるように、

ワカタケヒコも夜空よぞらえていった。


おおきなものふたつともったあと

広大こうだいにわにポツンとのこされた

孝霊天皇こうれいてんのうは、しば夜空よぞら見上みあげていた。


その表情ひょうじょう

どこか満足まんぞくげだったのを、

夜空よぞらかぶ

あかるくおおきな満月まんげつだけが

ていた。



桃型飛行船ももがたひこうせん

ちからきるまでフワフワとさまよんで、

とうとう墜落ついらくしたのが吉備きびくにだった。

かわち、ながされて……

そしておばあさんにたすけられた。


一方いっぽう、モモソヒメは、

発進はっしんしたいきおいそのままえがいて、

讃岐さぬきくに竹林ちくりん墜落ついらくしていた。

その時、機体きたい地面じめんふかくめりんで

水脈すいみゃくたり、そこから

清水しみずがこんこんときだした。


地震じしんのような轟音ごうおんおどろいたおじいさんが

竹林ちくりんにやってきて、

ものからしたモモソヒメに

遭遇そうぐうした。


水不足みずぶそくくるしんでいた

その土地とち人々ひとびとは、

ひかたけのこ清水しみずともあらわれた

モモソヒメを

みずかみあが歓迎かんげいした。


ワカタケヒコも、モモソヒメも、

其々それぞれ土地とち人々ひとびとたすけられたが、

ものこわれ、すぐにはかえることが

できなかった。


さて、

ワカタケヒコがたすけられた吉備きびくにでは、

やまおにみついていると

人々ひとびとおそれていた。

そしてあるとき

県主あがたぬしむすめおににさらわれた、

うわさった。


おさないワカタケヒコは、

父上ちちうえおしどお人々ひとびと平安へいあんまもるため、

そのむすめたすけようと勇敢ゆうかんに立ち上がった。

いつもおばあさんがつくってくれる、おやつの吉備団子きびだんごたずさえ、

一人ひとりいさんで出掛でかけていった。


おどろおどろしいくらやまり、

おにしろらしきとりでにたどりいた

ワカタケヒコが、

勇気ゆうきしぼって城門じょうもんをかけたとき

そこからむすめてきた。

県主あがたぬしむすめだった。


おににさらわれたというのは間違まちがいで、

むすめみずからついてき、

めずらしいてつ道具どうぐ

せてもらっていたという。

そろそろいえのものが心配しんぱいするので

かえろうとしていたところだ、

というのでともやま

そろってむらもどったところ、

村中むらじゅう大喜おおよろこびしておまつさわぎになった。


村人達むらびとたちは、

おさないながら勇敢ゆうかんおにやま一人ひとりはいり、

無事ぶじ県主あがたぬしむすめかえった、

桃太郎ももたろうみんな大切たいせつにした。


県主あがたぬしササモリヒコは、

二度にどおにやまには近付ちかづかぬよう、

むすめにも村人達むらびとたちにもつよかせた。


そのおにあらわれることもなく、

村人むらびとみな

いつしかおにのことをわすれてしまった。



………………



モ「もとはといえば、

わたしがいけなかったのよね……」


モモソヒメがしおらしくためいきいた。


おもばなしはなかせるうちに、

モモソヒメのやさぐれたこころなごみ、

いつのにか三人さんにんとも着物姿きものすがた

変化へんかしている。


モモソヒメは、

黒地くろじ大輪たいりん花模様はなもようはいした

大正たいしょうロマンふう着物きものゆるこなして、

座卓ざたく頬杖ほおづえをつき、伏し《ふ》がちに


モ「あのころは、わたしもまだまだ

あそびたいさかりでしょう?やっつだもの。

そんな、フワンフワン

かぶだけのようなもの

つまんないじゃない?」


ウ「は、はぁ……」


着流きながしにした、

葡萄茶ぶどうちゃくろのよろけじま着物きもの

浅黒あさぐろたくましいウラによく似合にあっている。


モモソヒメに相槌あいづちちつつも、

ワカタケヒコにると、

どうやら雲行くもゆきがあやしい。


ワ「なんか、おもしたらはらってきたぞ。

おれはとうとうあの高速飛行船こうそくひこうせんることが

できなかったんだよな……」


ワカタケヒコは

モモソヒメをにらみながら

片膝かたひざてて自分じぶんさかずきに酒を注ぎ、

浅葱色あさぎいろしろ毛万筋けまんすじ着物きもの胸元むなもと

遠慮えんりょなく肌蹴はだけて、大仰おおぎょうさかずきけた。


ウ「ま、まぁ、まあ……

モモソヒメも、あんなことになるとは

おもってなかったもんな、おどろいたよなあ?!」


モ「そうなの!ほんのちょっと、ためしに、

ってみたかっただけだったのよ……

かってくれる?」


モモソヒメがウラのさかずきさけそそいだ。


するどつきで二人ふたりのやりりをている

ワカタケヒコに、

今度こんどはウラがさけそそいだ。


ウ「いやー、はなしたらのどかわいたな!

ははは、乾杯かんぱい~……」


ウラは二人ふたりはさまれてさかずきけながら、

そのときはじめておもった。


(おれおに間違まちがわれたの

やっぱり納得なっとくいかないかも……なき)


天上てんじょうよるながい。

















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