兎に角、モモソヒメの話を聞こうか。

枝茂樹喜貴

第1話 天上酒場で酔いどれ姫が

モ「なんにもらないくせに!

あと勝手かってなことって、

悪者わるものにしたり正義せいぎ味方みかたにしたり!

みんなバカ!」


ウ「……ちょっと、けよ」


モ「なんで?ウラはいいの?

みんな悪者扱わるものあつかいされて平気へいきなの?

ずーっと、ずーっと、

おに】ってわれてるんだよ?」


ウ「いいんだよ。んだことだろ。

なあ、……おい、くなよ?!

とうおれ納得なっとくしてるし、

それでいいんだよ。そうだろ?」


モ「だって……

本当ほんとうのことをってしい。

ねえ、ちゃんとはなそうよ。

あの時何ときなにがあったか。

おなじことかえして

くるしむひとがいるの、

もうていられないよ!」


ウ「……かえす?

なんだよそれ、どういうことだよ」


モ「みんな、いつだって、

正義せいぎあくだってめつけて、

攻撃こうげきしたり、てたり、

きずつけるようなこと、ずっと

やってるじゃん!

バカみたい!」


ウ「おいおい、それがおれのせいって?」


モ「だから!ウラはわるくないんだよ!

それをちゃんと知らせてたら、

悪者わるものにされなかったんじゃない?

だからね、いまだったら、いまだから、

みんないてくれるとおもう。

それで、もう正義せいぎあくだなんてことが

馬鹿馬鹿ばかばかしいってかってしい……」


ウ「モモ……」



ガラリ



ワ「あー、やっぱりここにいた。

モモねえちゃん、っぱらってンのか?」


ウ「お、タケぼうたすかった……

まいったよ。また、モモが、

おれらのことみんなはなすとかしてさ……」



ここ、天上てんじょう酒場さかばですっかりっぱらい、

カウンターでれのおとこからんで

わめいているのは、

かつて、かぐやひめのモデルになった

ヤマトトトヒモモソヒメ。

からまれているのは

桃太郎伝説ももたろうでんせつおにとされている、

ウラという異国いこく皇子おうじだ。

そこへやってたのは、

桃太郎ももたろうのモデルとなった半分はんぶん

ワカタケヒコである。


桃太郎ももたろうにはもう半分はんぶんのモデル、

イサセリヒコがいる。このイサセリヒコと

モモソヒメは姉弟きょうだい、ワカタケヒコは

二人ふたりとは異母兄弟いぼきょうだいである。3にんとも、

第七代天皇だいななだいてんのう孝霊こうれい天皇てんのうの子だ。


カウンターでとぐろをいていた

モモソヒメがワカタケヒコにづき、

がって両手りょうてをブンブンって

手招てまねきした。



モ「わーい、タケちゃん!

やっとたー。おそいよ、も~。

ね、ね、ちょっといてよ。

やっぱりさ、ちゃんとおう!

いまならさ、ブログとか、インスタとかさ、

なんでもはなせるでしょ。あれ、やってよ。

得意とくいでしょ、タケちゃん。ね、ね。」


ワ「……おればれてねえし。

なにが、やっとただよ。さがしたんだぞ。

そんで、なに?ブログ?

もういいよ。ほら、かえるぞ、

このっぱらい!」



かつては、かがやくようにうつくしい、とか、

かぐわしいほどうつくしい、と評判ひょうばんになり、

かぐやひめばれていたモモソヒメだが、

臙脂えんじいろしろいラインのジャージにおがみ

くろぶち眼鏡めがねで、左手ひだりてにホッピー、

右手みぎて鳥串とりくし姿すがたは、

とても大和やまと姫君ひめぎみにはえない。

まるで昭和しょうわ貧乏下宿生びんぼうげしゅくせいだ。

おなじく深緑色ふかみどりいろのジャージをワカタケヒコに責められて、地団駄を踏んでいる。



モ「あー、ひどい!ね、ひどいよね!

ウラ、なんとかって!

いっつも生意気なまいきこまるんだ、このおとうと!」


モモソヒメは、とり

ワカタケヒコの鼻先はなさききつけた。


ウ「……うん、じゃ、かえろうか。」


モ「えー!えー?なんなんで?やだ!!

今日きょうこそちゃんとはなす!」


ウ「わかった、わかったけど、

一回帰いっかいかえろうか。な。

それからでも、おそくはないだろ。」


モ「ウラはいっつも、そうやって、

はぐらかすよね。……そんなふう

おんなもはぐらかしてたんでしょ」


ワ「うわー……ウザいなあ……

ウラはえらいよなー、

なんでこんなのとってンの」


ウ「え///ってないでしょ。

主人しゅじんおこられるから、

そのかたは、やめて」


ワ「いや実際じっさい

モモねえを世話せわしてるのは

ウラにいさんでしょ。

あのご主人しゅじんはほら、かよこんだから」


ウ「いや、おれは、あくまで友人ゆうじんとしt……」


ワ「本当ほんとうたすかるよ。モモねえちゃんさ、

主人しゅじんへの不満ふまんもりにもって、

相当そうとうイライラしてるからさ、

なにかにつけておれたってくるんだよね。

ウラにいさんがいてくれなかったら、

おれ今頃いまごろどうなってるか……(なき)」


モ「ちょっとそこ!

なにをこそこそはなしてんの!

すわってほら、みなさいよ。

あ、すいませ~ん、こっちお酒追加さけついか~」


ウ「あーあたのんじゃったよ」


ワ「こりゃあさまでコースかな?……

ま、そんならおれましてもらおうか。

今日きょうは、ねーちゃんのおごりでしょ♥️

すみませーん、お品書しながせて~」


ウ「おまえら……なかよしなんだよな、結局けっきょく

……それじゃ、おれかえってもいいかn……」


モ・ワ「ダメっ!!」


しろいTシャツにブルーのジーンズ姿すがた

さわやかなウラは、

Tシャツのそでからたくましくびる浅黒あさぐろうでを、

臙脂えんじ深緑ふかみどりのジャージ二人組ふたりぐみ

がっしりつかまれ、とらわれた宇宙人うちゅうじんさながら、

にんではせまくなったカウンターから

おく小上こあがりへと連行れんこうされた。


ワ「大体だいたい、モモねえ、

なんだよこのジャージ。やめてくれよ。

おれ、さっきまでお洒落しゃれしてたんだぜ。

ねえちゃんが、やさぐれオーラすから、

へん格好かっこう感染うつっちゃったよ」


ウ「……ぷぷ。

いや、でもさ。やさしいおとうとだよな、タケぼうは。

モモに同調どうちょうしてるわけでしょ」


ウラにわれて、ワカタケヒコは

かおあからめた。


ワ「なにを……、そういうことではない!

ダサい、ダサいんだよ!

なんとかしろよモモねえ‼️」



ワカタケヒコはブツブツ文句もんくいながら

小上こあがりへがってドッカとすわんだ。

すぐにあたらしくさけさかなはこばれてきた。


ウ「ま、なにはともあれ、乾杯かんぱい!」


ウラにうながされて、二人ふたり仏頂面ぶっちょうづら

グラスをげた。


ワ「……ぷはー…………で?

ももねえちゃんは、なにをそんなに

わめらしちゃってんの。

はやしてスッキリして、この

やさぐれオーラをなんとかしようよ。

おれ、ホントやだ。このジャージ!」



モモソヒメ、ワカタケヒコ、

そしてウラの物語ものがたりは、

竹取物語たけとりものがたり桃太郎物語ももたろうものがたりとして、

かたがれているが、

じつはひとつの物語ものがたりだということは、

あまりられていない。


そしてさらに、

時代じだいとともに都合良つごうよ変化へんかしながら

かたがれた昔話むかしばなしではない、

かれらの真実しんじつ物語ものがたりがあるというのだ。

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