第211話 忘れていた新たな予定
なんでも、あれから茶近先輩は警察に自首後、手当てを受けてから身柄を拘束されたようだ。
そして本日、隣町の警察署へ連行されたらしい。
あくまで隣町で起きていた問題であり、管轄は向こう側にあるからだとか。
「まだ茶近はどうなるかはっきりしないが、きっと事情聴衆を受けてほとぼりが冷めれば身元引受人、つまり両親の下へ帰されるんじゃないか? 首謀者とはいえ未成年だし、あくまで不良同士の喧嘩での事件だからね」
「他の『T-レックス』連中も同じですか?」
「そうだね。既に何人か事情聴取だけされ、問題のない者はその日に帰されているようだ……まぁ、火野が倒した『鬼頭』って奴は色々と余罪があるようだから、そのまま勾留され鑑別所行きらしいけどね。実際に被害に遭ったカップルも警察に被害届を出しているようだし、今度こそ少年院じゃないかい?」
つまりそれなりのことをしてきた奴らは、法の下で公正に裁かれるようだ。
当然の処置だな。
堅勇さんは話を続ける。
「ついさっき、ルゥちゃんからの情報によると、連中の
これで完全に『T-レックス』は解散になったわけだな。
少なくても燿平の敵討ちは取れたってことだろう。
俺も連中の影に怯えなくて良くなったってことだ。
「勇岬先輩はどうなるんですかね? ご両親ってそうとう厳しいんですよね?」
「警察から連絡を受けた茶近の両親は、既に隣町に向かっているようだ……一応、彼を引き取る気はあるようだね。しかし、神西が言うように厳粛で特殊な家柄だからね。しばらく自宅で軟禁されるんじゃないかい? ウチの学校も今頃は大騒ぎになっていると思うよ」
逮捕されていないとはいえ、これだけの騒ぎ。
停学……下手したら退学か。
自業自得だから仕方ないけど。
「天馬と勇魁は、茶近が自宅に戻ってきたら話をしたいと言っている。その際はボクも同席するつもりだ。これからのことを互いに話し合い、何とか四人で卒業できるよう一緒に頑張ってみるよ」
長年それぞれの思惑で偽り傷つけ合い、あれだけのことがあったにも関わらず、それでも見捨てず手を取り合って助けようとしている。
当人達は自覚してないけど、なんだかんだ打ち解けた仲の良い『親友』であり『仲間』達なのだろう。
そういう意味では、茶近先輩は幸せだと思う。
「どうやら、これで全て解決したみたいで何よりっすね……俺も頭はなんともないようだし、これで堂々と家に帰れるっす!」
燿平がしれっと強調しながら言ってくる。
しかし堅勇さんが思いっきり首を横に振るった。
「何を言っているんだい、風瀬。その右腕が完治するまでの冬休みいっぱい、キミはこの家にいなければならないじゃないか? キミの保護者である祖父母さんにはボクの方から連絡しているからね。ご了承も頂いているんだ」
「え!? 何、勝手なことしてんっすか!? こんな怪我、なんとでも言い訳できるっす! もう俺を家に帰してくれっす!」
「駄目だね。ルゥちゃんにも言われているんだ……キミをしっかり看るようにとね。ボクはファミリーの願い事は可能な限り聞き入れるようにしている。自らの戒めと思い諦めたまえ」
「そ、そんな~、酷いっす! 流羽の奴、俺に何か怨みでもあるっすか!? 火野さん、サキさん、先輩ッ! この人に何か言ってやってくださいっすよぉ~!!!」
燿平は半泣きで訴えてくるが、俺達は何も言えない。
どちらかと言えば、堅勇さんの方が正しい気もしてくるからだ。
少し可哀想だと思いつつ、俺達は荒療治だと割り切ることにした。
「あっ、そう言えば堅勇さん。ミカナさんの件で『園部さん』を貸して頂きありがとうございます」
俺は話題を変えつつ、当人に頭を下げて見せる。
「珠ちゃんのことかい? ミカナが元バイト仲間として彼女に相談してきたらしいからね。ボクは珠ちゃんの意向を尊重し、ミカナのためだと思って許可しただけだよ。但し貸すのは夜だけさ。日中はお爺ちゃんが寂しがるからね……夜中なら『若い連中』がいるからお世話する分には問題ないよ」
若い連中?
あの廊下ですれ違う、強面の男達か?
それこそリョウから、あの連中は『本物』じゃないかって話もある。
つーか、この先輩の家が実は一番ヤバくね?
こうして俺達は、燿平のお見舞いと報告を終わらせ屋敷を出た。
勇者四天王とのトラブルも落ち着き、これでようやく冬休みを満喫できそうだ。
無事に年も越せそうだし、みんなで過ごす年末年始の旅行も楽しみだ。
帰宅途中、俺がそう考えているとスマホに誰かから連絡が入る。
「――黒原から?」
珍しい男からの着信。
てか、こいつを忘れてたわ(笑)。
黒原も少し事情を知っているから、無事に解決したくらいは伝えておくか。
俺はスマホの着信を押して応答する。
「俺だけど、どうした黒原?」
『……突然の連絡すみません、副会長。いえ、明日はどうするのかと思いまして』
「明日? 何かあったっけ?」
『……お忘れですか? 同じ生徒会の会計で後輩である「軍侍」さんのバスケの試合ですよ。何度か彼女の前で、副会長が糞爽やかに『俺ぇ、生徒会総出で必ず応援に行くわ~、デヘヘへ』って言ってたじゃないですか?』
糞爽やかって何よ?
あと「デヘヘへ」なんて言った覚えねーぞ!
勝手に話を盛って誇張させんなよな!
普段、俺をどんな風に思ってんの!?
だが確かに「生徒会総出て応援に行く」とは言った。
色々あったとはいえ、忘れていた俺が悪い。
「そっか……バスケのインターハイだったな。うん、もう問題は解決したし、応援に行くよ。愛紗達には後で確認するよ……シンはどうする?」
「同じ生徒会として応援に行こう……ただ、ユウリとアズサも誘っていいか?」
同じクラスの天宮さんと来栖さんね。
シンの彼女……じゃなかった友達になった。
「いいんじゃないか? 人数多い方が盛り上がるだろうぜ。リョウはどうする?」
「俺か? 俺はその子とは接点ねぇけど、燿平が世話になった子でもあるし、家にいてもうるさい姉貴と勇磨先輩しかいねぇからな……千夏とデート感覚で良ければ見に行くわ」
流石、俺とシンより一歩も二歩も先に進んだ男。
デート感覚ってはっきり言えるところに余裕を感じる。
「っというわけだから、黒原。明日、9時に駅前で待ち合わせして行こうぜ」
『……わかりました。僕の存在を忘れて皆さんだけでとっとと行かないでくださいね』
「ネガティブな奴だな。シンも一緒なんだ、そんなことするわけないだろ?」
シンは黒原ラブリーだからな。
寧ろ天宮さんと来栖さんから嫉妬されないかの方が不安だ。
そんな感じで。
急遽……いや、俺がど忘れしていただけだけど――明日の予定が埋まった。
これも冬休みが故の醍醐味だと開き直る。
リョウとシンと別れ、自分の家に着いた。
愛紗達はまだ帰って来てないようだ。
夏純ネェが一人、リビングでテレビを見ている。
いつも子供達と一緒だったからだろうか、どこか背中が寂しそうだ。
「……おかえり、サキちゃん。すっかり静かになったわ」
やっぱり寂しいらしい。
昔から母性的なところのある従姉だからな。
「俺がいるじゃん。あと愛紗達も、みんなもうじき帰ってくるだろうし……子供達も正月が終わったら、また泊りに来てくれるよ」
「……そうだね。今日もマリーを呼んで飲み明かすわ」
夏純ネェ、リョウの姉ちゃんである鞠利さんとすっかり友達になってしまった。
別にそれはいいんだけど、酔っぱらった勢で二人して俺の部屋に入って寝顔を覗き込んでくるから質が悪い。
前は大智くんが一緒だったから、それだけで済んでいたけど今夜からしばらく不在だからな。
気を付けないと、何をされるかわかったもんじゃない。
部屋のドアにカギはないから、せめて侵入した時にわかるようにしないと……。
そう考え、空き缶を加工して忍者屋敷で侵入者用の『鳴子』を作り始める。
一時間くらい経ったころ、ようやく愛紗達が戻ってきた。
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