第210話 再び後輩の面会に行ってみた




 午後、リョウとシンに待ち合わせをして合流する。

 そのまま三人で、堅勇さん家に向かった。


 静養している後輩の燿平に会いに行くためだ。


「結局、サキが勇岬と決着をつけたようなもんか……複雑な気分だな」


 道中、リョウが複雑な表情を浮かべている。

 この親友二人にだけ、俺が茶近さんとタイマンして勝った旨を伝えた。

 一応、美架那さんと愛紗達には言わないよう口止めした上だ。


「堅勇さんとみんなが、あの人をあそこまで追い詰めてくれたおかげで、俺も怪我せずにすんだけどね……」


「それでもだ、サキ。立ち間接とはいえ、極められそうになったタイミングで前宙して回避するなんて、俺でも難しいぞ……プロレスで見た事はあるけどな」


 シンが感心した様子で褒めてくる。


「一か八かの思い付きだよ。たまたま上手くいっただけさ」


「そうかもしれないが……リョウといい、ボクシングをやっている奴はプロレス技術も精通しているのか?」


 んなわけねーだろ、シン。

 俺とリョウからすれば、戦闘服着て色々な『暗器』使いこなす、お前の方が十分におっかねーよ!


 とりあえず、この暗殺者アサシンは放っておいて。


「あと、やっぱりミカナさんの影響だろうなぁ……勇岬先輩、スタンガンとか改造したスタングレネードとか持っていたからな。それ使われていたら、今頃どうなっていたことか……」


 それ以前に、勝負するきっかけを作ったのは俺なんだけどね。

 俺がはっきりさえすれば、あの場は戦わずに済んだのかもしれない。


 だからって嘘はつけなかったし、答えも出せなかった。


 それは今でも同じなわけで――。




 堅勇さんの家に着く。


 相変わらず立派な門構え。

 嫌味を通り越して見惚れてしまう。


「……そういや、堅勇さんって戻っているのか?」


「知らねー。つーか俺、あの人の連絡先知らねーし。いつも俺の家で泊っている勇磨先輩伝手でやり取りしていたからな」


「俺も勇魁さんの連絡先しか知らない」


 リョウとシンからの返答。

 考えてみれば、あの堅勇さんが好き好んで『男』しかも後輩とやり取りするガラでもないか……。


「サキはどうなんだよ?」


「俺からは連絡先を教えたよ。だけど、肝心の堅勇さんから返答が来たことがない……流石に登録されているとは思うけどね。きっと、やり取りするタイミングがなかったんだろ」


 果たして堅勇さんが不在でも家に入れてくれるだろうか?

 まぁ、初めてじゃないし、燿平の話をすれば問題ないと思うけど。


 とりあえず、インターフォンを押す。


『はーい。どなたですかぁ?』


 聞き覚えのある女性の声。


 介護ヘルパーの『園部そのべ 珠美たまみ』さんだ。


 丁度いいや。

 この人、美架那さんの知人で俺のこと「好青年」って褒めてくれていたようだからな。

 きっと俺を覚えてくれているだろうし、融通を利かせてくれるだろう。


「神西です。後輩の見舞いに来たんですけど」


『ああ、神西くんね。ミカナちゃんから色々聞いているよ~』


 色々って何?

 今の関係性だけに過敏に反応してしまう。


「あのぅ、家に上がらせてもらっていいですか?」


『ごめんね……ケンちゃんが不在の時は誰も上がらせちゃ駄目だって言われているの』


「そうですか……」


 まぁ、介護が必要なお爺さんもいるみたいだし防犯上仕方ないかもな。

 つーか堅勇さん、まだ戻って来てないのか。


『待って。ケンちゃんに連絡して確認してみるわ。OKだったら問題ないから、少し待っててくれる?』


「はい、待っています」



 ――数分後。



『どうぞ~』


 どうやらOKを貰ったようだ。


 ゆっくりと正門が開けられる。

 一度見たとはいえ壮観な光景だ。


 俺達は敷地内へ入り歩いた。

 今回は出迎えてくれる人物は不在なので、俺達だけで屋敷まで行くしかない。


 屋敷に到着すると、玄関先に女性が立っている。

 さっき応対してくれた、『園部 珠美』さんだ。


「こんにちは~、先程はありがとうございます」


「いいえ、ミカナちゃんとお母さん元気? 仕事終わったらお家に行く約束しているんだけど……」


「ええ、お二人共元気です。ただミカナさんお一人だと大変かもしれません」


「ミカナちゃん凄くしっかりしているけど、まだ高校生だし仕方ないね。ケンちゃんにも許可もらっているから、夜だけでも泊りに行こうと思っているの」


「え? そうなんですか? それは助かると思います!」


 思わず歓喜の声を上げてしまう。

 夜とか、美架那さん一人でどうするんだろうって心配していたからな。


 珠美さんは、プロの介護ヘルパーだから心強い味方だ。


 遠隔ながら堅勇さんもナイスな配慮をしてくれる。


「フフフ……」


 珠美さんは俺を見つめて、何故か微笑んでいる。


「何か?」


「だって神西くん、まるで自分のことのように喜んでいるから、なんだか微笑ましくてね」


「えっ……」


 そういう風に見られていたのかと戸惑ってしまう。


 まぁ、傍にいるリョウとシンと違い、確かに俺一人だけテンションを上げていたけどさぁ。

 

 なんだかんだ、美架那さんの事情を知り親交を深めているってことか……。

 言わばそれだけ、俺にとって彼女の存在が大きくなっているのかもしれない。



 それから屋敷に入り、珠美さんの案内で、燿平が静養している部屋へと入った。


 今回、路美はいないようだ。



 燿平はベッドで寝ており、頭部に包帯と右腕に三角巾をしたままの状態だ。

 顔色は良く、大分回復した様子が見られる。


 だが覇気がなく、高い天井を見上げたままぼけ~っとしていた。


「――おい、燿平。大丈夫か?」


「……ん? ああ、火野さんこそ……元気そうで何よりっす」


 なんか様子が可笑しくね、こいつ?


「どうしたんだよ? 何かあったのか?」


「サキさん……いえ、何もないっす。ただこうも暇だと、なんだか豪華な牢獄に入れられているような気がしてきて……一人で部屋から出れねーし。話し相手いねーし。自分でスマホも壊しちまったから、とにかく退屈で……最近じゃテレビが唯一のマブダチっす」


 おまけに24時間監視付きらしいからな。

 隔離を通り越して監禁されているみたいだ。


「仕方ないな、後輩……武士の情けだ。俺のタブレットを貸してやろう。昔、『あの人』の指示で動いた『ブッ倒した奴リスト』が入っているが、そのデータだけは絶対に見るなよ」


「恩に着るっす、先輩……」


 シンは身につけていたショルダーバックからタブレット端末を取り出し渡している。

 燿平は嬉しそうに受け取っていた。


 普段、険悪な二人だけに一見して微笑ましも見える光景だが……。


 昔の『あの人』って、もろ『王田 勇星』じゃん。


 そんなやばい内容のリストが入ったタブレットを自称『元情報屋』に貸していいのか?

 絶対に見るぞ、そいつ。

 だって病気だもん。

 じゃなかったら怪我までしてここで厄介になっているわけないしょ?


 少し場が和んだ所で、俺達から燿平に向けてその後の説明と報告を行う。



「……そうだったんっすか。たった五人で、あの『T-レックス』を壊滅させるなんて流石っす。あと、勇岬にタイマンで勝ったサキさんも相変わらずのバケモノっす」


 ん? 地味に俺だけイジられてんのか?

 まぁ、いいや。


「堅勇さんのおかげで、勇岬先輩も相当深手を負っていからね……あの傷のまま真っすぐ警察に行ったようだけど、それからどうなったかはわからないんだ」


「暴力沙汰で自首ってのも、相手がいて立証されるもんだろ? その状況だと事情徴収だけを受けて親が呼ばれて家に帰っているんじゃないか? 中学の頃、俺もよく親父とお袋が保護者として呼ばれてたぜ」


 リョウは明るい口調でさらりとカミングアウトしているが、決して笑える内容じゃなかった。


「――茶近なら、今頃は隣町にいるよ」


 俺達以外の声が聞こえた。

 若い男の声だ。


 いつの間にかドアが開けられ、ナルシストっぽい長い金髪で堀の深い顔立ちをした男が入ってくる。


 鳥羽 堅勇さんだ。

 どうやら今帰ってきたらしい。


 自宅用の『バランス・スクーター』に乗って近づいてきた。

 一見して普通っぽいが、時折背中を庇うような仕草が見られる。


「堅勇さん? 傷はもう大丈夫なんですか?」


「足に食らったスタンガンのダメージはもう消えているよ。茶近に投げられ際、背中を強く打ったが生活をする上では支障ないさ」


 堅勇さんは微笑み気丈に振舞う。

 本人がそう言ってるし、俺達は深く言及しないようにした。


「鳥羽先輩、さっきの話……どういう意味ですか?」


「ああ、火野。それはね――」


 堅勇さんは知っている情報を俺達に話してくれた。




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