第204話 女神の気持ち、交わした約束
~神楽 美架那side
「茶近……私、天馬も勇魁も堅勇も……そしてキミも、ずっと大切な友達だと思っているの。少し癖は強いけど、この三年間キミ達と会えて楽しかったよ……でも、あくまで友達としてだからね。四人の中から誰かを選ぶとか付き合うとか……考えたことなんて一度もないわ」
「――神西はどうなんだよ?」
茶近は間髪入れず問い詰めてくる。
私は一瞬戸惑う。
どう返答していいか迷ったからだ。
そして考える。
どう誤魔化すべきか、その回答を――。
いや。
駄目よ。
茶近には正直に想ったままの気持ちを打ち明けるべだ。
でなければ、彼はずっとこのままだと思う。
周囲にわがままを当たり散らし、誰か傷つけていく。
それこそ、サキくんやみんなを……。
「好きよ。後輩とか友達と違う……一人の男の子として。だからと言って、サキくんとどうなりたいかは考えてないわ。彼には、これまで私事で散々迷惑を掛けてしまったから、その資格はないと思っているのよ。でも生活が落ち着いたら、なんらかの形で恩返しをしたい……」
「やっぱりそっか……ミカちゃんに気持ちがあるなら、いくら神西をブッ飛ばしても、俺に振り向かせる可能性は低いか……」
茶近は明るくおどけた口調で残念がる。
どこまで本心で言っているのかわからない。
けど少なくても、今の彼のダメージでサキくんに戦いを挑むような真似はしないだろう。
いくら幼少から古武術を習っていても万全でない限り、あの強いサキくんが負ける筈はない。
それこそ私でも人質にとらない限り、茶近に勝機はない筈だ。
「ミカちゃん……」
「なぁに?」
「さっきからジャンバーのポケットの中、光ってるよ。誰かから連絡来ているんじゃね?」
茶近に指摘され、点灯しているスマホを確認する。
――サキくんからだ。
頻繁に着信とメールが届いていた。
ずっとマナーモードにしていたから気づかなかったのね。
病院内じゃ使用しないようにしていたから。
「少し席を外すわ」
「ミカちゃん、また戻って来てくれる?」
「ええ、キミとの話はまだ終わってないしね」
私がそう答えると、茶近は嬉しそうに微笑んで見せる。
普段のわざとらしさとは違う、純粋な笑顔だ。
今の茶近には少なくても私に対する悪意や敵意は感じられない。
至って穏やかであり、私と二人っきりで話していることを楽しんでいるように感じた。
実際、彼と個人でここまで深く話したことはなかったと思う。
私は一端、病室から離れて連絡可能なブースへと向かう。
ようやく、サキくんと連絡を取り合うことができた。
**********
美架那さんから、これまでの経緯を聞くことができた。
っと言っても、二人が何を話したのかは触れられず、大まかな部分だけだけど。
何はともあれ、彼女が無事そうで何よりだ。
そこだけは、ホッと胸を撫でおろした。
しかし、まさか茶近先輩と一緒だったとは……。
逃亡した当初は美架那さんを奪うため色々悪巧みを企んでいたらしいけど、正直に全てをぶっちゃけたところを考えると、少なくても彼女に危害を加えるつもりはないようだ。
きっと傷ついて追い詰められた精神状態で、久しぶりに美架那さんの優しさと思いやりに触れ、考えを改めたのかもしれない。
それだけ茶近先輩にとって、美架那さんは『女神』であり尊い存在なのだろう。
気持ちはわかる。
俺とて美架那さんに同じ想いを頂いているのだから……。
ただ俺にとって、彼女はあまりにも眩しすぎる女神様であり――。
ましてや愛紗達のこともあって、あえて考えないようにしていたんだ。
だけど、ひょっとしたら美架那さんは俺に異性として好意があるかもしれないって聞いたら……。
この先、彼女とどう関わっていけばいいのか……。
『私、もうしばらく茶近に付き添うわ。サキくんに手を出させないよう、言い聞かせるからね』
「俺、迎えに行きます。今の勇岬先輩の状態だと、俺に何かしてくるとは思えませんし、ミカナさんのことが心配ですから」
『ありがとう……嬉しいよ。でも、茶近のことは私にも責任があるし、これは上級生としてのけじめでもあるからね』
天馬先輩達みたいなことを言う、美架那さん。
あれだけ綺麗な女子なのに、やたら漢気がある。
そこも彼女の魅力でもあるのだけど。
「じゃ、落ち着いたら連絡ください。俺、ずっと待ってますから」
『うん、ありがとう。そうする……じゃあね』
美架那さんは優しい口調で連絡を切る。
切ない余韻が流れた――。
~神楽 美架那side
サキくんとの連絡を終え、私はぎゅっとスマホを両手で握りしめて胸に添える。
やばいと思った。
彼の声を聞いて、優しさに触れるほど……。
自分の気持ちにセーブが利かなくなっていると実感する。
初めて男の子に感じる気持ち。
ましてや年下の後輩なのに……。
きっと愛ちゃん達もこんな想いを抱いて、三人で一緒にいるのだろう。
姉妹同然の仲の良い幼馴染だからこそ成立する関係。
そもそも私なんかじゃ入る枠はないのかもしれない。
また、その資格もない――……。
私は、茶近のいる病室へ戻る。
いつの間にか点滴が終わり、彼は起き上がれるまで回復していた。
「茶近、大丈夫なの?」
「うん。医者からは二日くらい安静すれば、今からでも家に帰っていいと言われているよ~」
「じゃ家に帰るの?」
「まさか、あんな家に帰っても安静になんかできないよ……それより、ミカちゃん。連絡、誰から?」
「え? ああ、サキくんよ。明日に備えて、早く帰るって言ってたから、私のこと心配してくれてたのよ」
「そう……俺のことは?」
「話したわ。大した話題にならなかったけどね。多分、火野くんから聞いているんじゃない?」
「だよな~、チェッ」
茶近はふざけた口調で舌打ちをする。
自分がやらかしたこととはいえ、きっと気が気じゃない筈だ。
サキくん達も、今の状態である茶近に自分達から何かすることはないけど、このまま放置することはないと思う。
隣町での騒動も考え、私なら警察沙汰にする。
そうなれば、茶近とて無事じゃすまない筈だ。
学校どころか、下手したら実家にもいられるかどうか……。
詳しくは聞いたことないけど、あの四人の中で茶近の家柄はそれだけ厳粛だと聞いたことがある。
「……ねぇ、茶近。キミはこれからどうするの?」
「考え中」
「そう……でも、サキくんには手を出させないわよ。これだけは強く言わせてもらうわ……もし、ここで約束できないなら、私から警察を呼ぶまでだからね」
「ミカちゃんなら、きっとそうするだろうね……だけど、ミカちゃん」
「何よ?」
「神西に何か言われたの?」
「ん? どうして?」
「目の周りが真っ赤だよ……まるで泣いていたみたい」
「え?」
茶近に言われて、私は壁に設置されている鏡を見た。
指摘された通りだ。
きっと、サキくんと話していたから――。
彼を想いつつ、自分の気持ちに見切りをつけようと思ったから……。
自分でも気づかないうちに、サキくんの存在が次第に大きくなっている。
そう認めざる得ない……。
「……ミカちゃん。俺ェ、神西と会って話してみたいんだけど、いいかな?」
「会って話す? サキくんと?」
「そう。安心してくれよ、平和的な話し合いさ。どの道、この傷じゃ神西とやり合える状態じゃないからね……あいつ、天ちゃん達三人にタイマンで勝つほどのバケモノだよ」
確かにそうだけど……何か胡散臭い感じもする。
これ以上、彼に迷惑を掛けたくない私としては気が咎めてしまう。
ふと、茶近は傷だらけの手で、私の手を握ってきた。
「じゃ、こうしようよ――……」
茶近は私にある提案をしてきた。
一瞬だけ耳を疑ったが、今の茶近は私に嘘をつくとは思えない。
「……信じていいの、茶近?」
「ああ、勿論。俺、基本は嘘つきだけど、ミカちゃんだけには嘘をついたことねーよ」
自分で言う? そーゆーこと。
けど、私に対して包み隠さず全てを打ち明けてくれた点は信じていいのかも……。
「わかったわ。もう一度、サキくんに連絡してみる」
「それじゃ、俺は看護師呼んで今すぐ退院するわ」
「身体は大丈夫なの? 『提案のこと』は傷が癒えてからでもいいんじゃない?」
「その方が、ミカちゃんに俺の本気が伝わるだろ? どの道、病院じゃ話しにくいし」
確かにそうだけど……。
私は戸惑いつつ、再びサキくんに連絡することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます