第201話 ナルシスト勇者と狂乱勇者の戦い
~火野 良毅side
「――茶近、どうやら周囲が大人しくなったようだ。キミのご自慢の『T-レックス』も終わりだよ」
「フン! 元々ストレス解消目的で、この町で暴れていた時に気づいたら勝手に出来上がっていたチームだ! 卒業前に抜ける予定だったんだよ!」
「ストレスか……『勇岬家茶道』、あるいはもう一つの『古武道』の方か?」
「勇岬家そのモノだ! 家訓だの躾だの『勇磨財閥』なんかより遥かに厳粛なんだぜ! 好き勝手ナンパしているテメェとはちげーんだよ!」
「隣の芝生は青く見えるものさ……神西にだって同じだ。彼は彼なりに悩み苦しみ努力している。お前程度が軽んじていい相手じゃない」
堅勇先輩の言葉に、興奮ぎみだった茶近の表情が緩む。
「……すっかり変わったな、ケンユ。前はそういう奴じゃなかったよな? 俺らで組んで天ちゃんを裏で陥れたり、ユウちゃんとの仲を険悪化させたり、お前だってノリノリで加わってたじゃねぇか?」
「そうだな……今更ながら悪い事をしたと思ってるよ。だが、テンパ赤ゴリ……いや天馬と勇魁は、そんなボクを許し仲間だと思ってくれている。だから、こうして一緒に行動しているんだ」
堅勇先輩……今、天馬先輩のこと「テンパ赤ゴリラ」って言いかけたぞ。
いいことっぽい話をしているのに台無しじゃねーか?
「要は神西に負けたもんだから、収まり悪くて感化されただけだれろ!? そうすりゃ、ミカちゃんも気を良く受け入れて傍にいてくれるからだろ!? 俺は違う! それじゃ意味がねぇ!」
「……茶近、今からでも遅くないぞ。戻って来い……ミカナだってそう望んでいるし、ボクらだってお前と一緒に卒業したいと願っている」
「うっせー! 男に興味のないテメェが言ってんじゃねぇ! 俺は負けてねぇ! そうだ、ミカちゃんを手に入れて初めてテメェらに勝ったと思えるんだよ! ましてや神西なんぞに負けてられるか!?」
話が平行線になってるな。
それこそサキじゃないが奴をボコって、腐りきった目を醒まさせるしかないようだ。
『T-レックス』の連中もあらかた鎮圧したし、その気になりゃいつでも加勢に行ける。
いくら隠れて『古武道』を極めていようと、ほぼ同レベルの連中を五人相手に勝てるわけがないのは明白だ。
茶近とて引っ込みがつかない状況とはいえ、それくらいわかるもんだが……。
対する堅勇先輩は深く溜息き、右手に持つ
独特であるフェンシングの構え、
「――ならば腕づくで屈服させるまでだ、茶近!」
「やってみろよ~! 『勇岬流柔術』の恐ろしさをテメェに叩き込んでやるよぉぉぉ、あああああ!!!?」
茶近は表情を変える。
どんなにキレ気味に興奮しても、常に細めていた双眸が見開き、鬼のように形相を歪ませた。
――まるで、鬼神。
そう思ってしまった。
何か悪い予感がする。
俺は駆け込み、堅勇先輩に加勢しようと近づいた。
「火野、手を出すな……」
堅勇先輩が横目で睨み、俺を制してきた。
この人も本気モードに入っている。
迂闊に入ったら、敵味方関係なく返り討ちにされそうだ。
シンや天馬先輩、それに勇魁さんも手が出せない。
それくらいの緊迫感が二人の間で交差していた。
ダッ!
堅勇先輩は踏み込み、喉元に向けて突きを放つ。
超精密かつ鋭い、電光石火の一撃。
「狙いがわかればよぉ!」
茶近は逃げずに踏み込んだ。
なんと喉元に迫る一撃を紙一重で躱しきる。
そのまま腕を伸ばし、堅勇先輩が突き出している右手首を掴む。
しかし、
「――悪いがボクの勝ちだ!」
既に堅勇先輩は左手に別の
鋼鉄の鞭が撓り、茶近の顔面にヒットする。
「ぶっ――な、なんだと!?」
茶近は怯み、せっかく握った手首を離して退いてしまう。
その隙を堅勇先輩は見逃さず、さらに追い打ちをかけるかの如く、両剣を振って攻撃を与えていく。
忘れてた。
そういやこの人、白コートの中に何本か剣を隠し持ってたんだ。
つーか、実は二刀流だったのか、この先輩……。
堅勇先輩の攻撃は休まることなく、まるで映画を見ているかのように華麗な剣舞が振るわれ、茶近を襲う。
刃が無いとはいえ、実戦用に改造され強化された鋼鉄製のフルーレから繰り出される一撃。
衣類の上からでも威力は十分であり、確実に茶近を追い詰めていく。
普段のニヤけた童顔は見る影もなく、腫れ皮膚や裂傷して無惨な姿に変貌している。
にしても堅勇先輩は容赦ない。
いや逆か……。
早く終わらせるために心を鬼にして徹底的にボコってんだ。
嘗ての仲間の暴走を止めるために――。
天馬先輩や勇魁さんが止めに入らないのもそのためだ。
その中に、親交の浅い俺とシンが口を出せるわけもない……。
「ぐぇっ!」
最後の一突きが喉元にヒットする。
茶近はそのまま地面に倒れた。
堅勇先輩は、寝そべる茶近の喉元に剣先を翳し眺める形で脇側に立つ。
両肩を上下に揺らし、酷く呼吸を乱しているように見える。
「ハァ、ハァ……もういいだろ、茶近。負けを認めろ、悪いようにしない」
「うぐぅ……舐めんな、ケンユ……この程度の攻撃で俺を屈服させたと思うなよ! ガキの頃から、躾と称して散々両親にボコられてんだよ! それでも、へらへら笑ってなきゃならない環境をテメェらは味わったことがあるのか! ええ!?」
茶近は負けを認めるどころか威勢よく恫喝してくる。
尋常じゃない異様な感じだ。
何故、三人の先輩達の間で、茶近だけ別格扱いだったのかわかってきたぞ。
――こいつは異常だ。
しかも生粋の自己中心的な野郎でもある。
どんなに誠意を込めても、こいつには伝わらねぇし何も響かない。
恐ろしい程の執念と執着、あるいは強迫概念か。
おそらく目的を果たすまで、どんな手を使っても突き進んで行くだろう。
相手の気持ちなんぞ、そっちのけでな。
今までは天馬先輩達の陰に隠れて引き立て役のポジだったが、神楽先輩がサキと距離を縮めたことで、こうして早々に明るみに出た。
ただそれだけのこと。
もし、サキが介入して天馬先輩達の仲を取り持たなければ、きっと卒業前頃にはさらに酷い事になっていたかもしれない。
より神楽先輩を巻き込んだ悲惨な結末を迎えていたと思う。
「茶近……お前だけが特別じゃないんだ。ボクや天馬、勇魁だって立場があり他人にはない重荷を背負っている……だから、ミカナのような強く自由で偏見を持たない女子に心から惹かれた……違うか!?」
「ああ、そうだ! だから渡さねぇ!! ミカちゃんは誰にも渡さねぇんだよぉぉぉぉ!!!」
茶近が叫んだ瞬間。
バチッ!
堅勇先輩の足元が一瞬だけ、火花のような何かが発光した。
「アウチッ!?」
苦痛の表情を浮かべる、堅勇先輩。
突然、ガクッと膝から崩れ落ちる。
「もらったぞ、ケンユ!」
茶近は咄嗟に上半身を起こし、
そのまま堅勇先輩の脇下に蹴りを当て、柔道技の『巴投げ』の要領で、真後ろへと放り投げた。
「ぐぅ!」
堅勇先輩はコンクリートの上に背中を強打する。
右手首と肘の関節を極められた状態で投げられたので受け身は取れなかったようだ。
意識を失ってしまったのか、堅勇先輩はピクリとも動かない。
「油断したな、ケンユ……」
茶近はゆらりと起き上がる。
その片手には『スタンガン』が握られていた。
野郎! 寝そべっているうちに、堅勇先輩の足元に浴びせやがったんだ。
強力なスタンガンだと服の上からでも十分に効果はあるからな。
まともに食らってしまったら、当然立っていられないだろう。
その上で、あんな投げられ方をされたら、堅勇先輩でなくてもひとたまりもあるまい。
にしてもだ。
「いくら喧嘩とはいえ、スタンガンとは随分と姑息じゃねぇか、ああ!?」
俺は茶近に近づき一喝する。
「火野……ケンユだって武器持ってんじゃねーか? それに服の中に画鋲を仕込んでいるテメェなんかに言われたくねーよ」
痛いところついてきやがって……。
しかしオメェも、30人のチームで襲ってきたじゃねぇか?
そもそもこっちは、五人しかいねぇんだ。
素手で挑むわけねーだろうが!
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