第200話 恐竜チームVS勇者チーム
~火野 良毅side
「茶近、あの画像は全てフェイクさ。最初からボクは誰も手にかけてないよ……寧ろ徒党を組んだと言っておこう」
「んじゃ……神西は?」
「無事だよ。今頃、ミカナと一緒にいるんじゃないのか?」
しれっと答える堅勇先輩に、茶近は目を細めながらも奥歯を噛みしめ拳を震わせている。
「ケンユ……お前、それでいいのか!? お前だけじゃない! 天馬も勇魁もだ! あんなモブキャラのような雑魚に、俺らのミカちゃんが取られちまうんだぞ!!!?」
サキに噛みつく奴は大抵、奴を軽んじる傾向がある。
モブキャラの癖に生意気だってな。
サキはモブなんかじゃねーよ。
少なくても、あいつに味方して、この場で集まった連中はそう思ってないぜ――。
「茶近、俺は……ミカナが幸せになれれば、それもいいと思っている」
「天馬に同じだな。誰を好きになり、どうするかはミカナ自身が決めること。それに僕達は神西君には沢山迷惑を掛けてしまったからね」
「せめて、ボクらの中での落とし前だけはつけさせてもらう……それが上級生としてのけじめって奴だろ?」
先輩達は言い切った。
この人達は決して聖人じゃないし、物分かりのいい人柄では決してない。
紆余曲折して、ようやくサキを認め受け入れた面子だ。
何より凄いのは一切逃げようとせず、問題児とされる先輩達と正面から向き合った、サキ自身にあると思う。
あいつはあいつで悩み負傷しながらも、神楽さんを守り先輩達の愚行を正すため振るいたくもない拳を振るって今の関係に至っているんだ。
隣町でチンピラを集め、ぬくぬくと王様気分を味わっていた茶近とは違う。
ましてや、そんなクズ野郎に神楽さんが靡く筈もない。
「ぐ、ぐぅ~! どうやらすっかり腑抜けになっちまったようだな、お前ら……もういい! 増えたといっても、たかが五人じゃねぇか!? どっかの戦隊モノじゃあるまいしよぉ! テメェら、徹底的にボコってやれ――っ!!!」
茶近こと『デス・スマイルのチャコ』が雄叫び発し、『T-レックス』のメンバー達が一斉に襲い掛かってきた。
「上等だぜ! 鳥羽先輩、作戦通りで行こーぜ!」
「わかった、火野。あのデカい奴を頼むぞ!」
そして各々が迅速に行動に移した。
天馬先輩、勇魁先輩、シンの三人が、30名の『T-レックス』を足止めする形で相手にし、堅勇先輩が茶近と対峙する。
俺は鬼頭って頭の悪そうな大男を相手にするって手筈だ。
無論、作戦通りに上手くいくとは限らない。
実際、三人が取りこぼした『T-レックス』のメンバー達の何人かは、茶近を守るため堅勇先輩へと立ち向かて行く。
しかし、堅勇先輩はコートから
武器を持っているとはいえ、相当強ぇーな。
サキとやり合った時は何か迷っていた感じもあったからな。
その時の差が出ているって感じだ。
だがそれは、天馬先輩や勇魁さんにも言える。
天馬先輩は容赦なく相手をぶん投げ、コンクリートの下に叩きつける。
柔道技の怖さをふんだんに発揮していた。
勇魁さんもジークンドーならではの急所攻撃をしては、向かって来る相手を完全に沈黙化していく。
怒涛のような流れる攻撃は、明らかにサキと戦った時とは違う、俺すらびびっちまう連続攻撃だ。
シンも負けてはいない。
つーか、こいつが一番ヤバかった……。
得意の打撃技で『T-レックス』のメンバー達を打ちのめすと、そのままNo.2である『牛田』と『馬場』へと向かって行く。
「なんだ、このガキ!? たった一人で俺ら二人を相手にすんのか、ああ!?」
「腕に覚えがあるようだが、俺達はその辺の奴らとは違うぞ!」
「御託はいい……行くぞ」
普段見られない、シンの表情。
静かな闘志、いや殺意か?
間違いなく、王田の指示で動いていた『
「くらえ!」
牛田が殴り掛かってくるが、シンは躱す気配はない。
それどころか首元から、スッと何かロープのようなモノを出し、牛田の腕に巻き付けた。
「何だと――うぐ!?」
牛田が驚いた間もなく、シンは巧みにロープを腕に絡めて関節を極める。
そのまま背負い投げの要領で、牛田を投げ飛ばした。
牛田は関節を極められた状態で投げられてしまい受け身が取れず、頭部からコンクリートに叩きつけられ動かなくなった。
「牛田!? テメェ!」
馬場が立ち向かって行くが、迂闊に踏み込んで来ない。
少しは頭が切れるのか、足を使ったフットワークを駆使しながら相手の出方を伺っている。
シンは表情を変えずに、自分から馬場の間合いに入り顔面にストレートの拳打を受けると思ったが――。
左の掌から歪な形をしたナイフのような武器を出現させ、馬場の手首に絡ませて受け流す。
シンはより馬場の懐に入り込み、カウンターの一撃を顔面に浴びせて最後にハイキックで仕留めた。
この間、10秒も経っていない。
仮にもNo.2の二人を相手に秒殺とは……。
そんなシンと目が合う。
しれっと奴は左手に握られた武器を俺に見せてくる。
「……リョウ、一見これは『カランビットナイフ』に見えるが刃はない。手首を絡めてカウンターを打つためのオリジナル暗器だ」
別に聞いてねーよ。
何、安心してくれみたいな言い方してんの、こいつ?
どっちにしても戦闘服着て暗器を忍ばせている時点で危険人物には変わりねぇからな。
「テ、テメェ~! なんでさっきからオレを無視してんら~、コラァァァ!!!?」
俺と対峙する大男こと『鬼頭』が、痺れを切らして怒鳴っている。
そういや、先輩達とシンの戦に見惚れて、こいつの存在を忘れていたぜ。
この鬼頭って奴、他のメンバーから相当嫌われているのか、誰も加勢に来やがらねえ。
おかげで俺はフリーな状態で、こいつと向き合う形で膠着しているわけだ。
「悪りぃ。暇だったから他の連中の戦いに見惚れてたわ~」
さりげなく挑発してみた。
案の定、鬼頭は頭部から血管が浮き出るくらいキレ始める。
「この野郎~ッ! オレをバカにしやがったな~!! ブッ殺す~!!!」
ブチン!
嘘のようだが確かに聞こえた何かが切れる音。
鬼頭は俺に掴み掛かって来た。
が――。
「い、痛で~っ! 何だこりゃあぁぁぁぁ!!!?」
鬼頭が俺の胸ぐらを掴んだ瞬間、悲鳴を上げる。
俺はニヤリとほくそ笑んだ。
「袖と襟首に画鋲を仕込んでいるんだよ、バーカ」
「き、汚ねぇぞ……それにオレをバカだと言ったな~?」
「喧嘩ならこれくらい当然だろ? だからバカって言ったんだ。テメェこそ、元ヤンを舐めんじゃねーぞ!」
俺は言いながら踏み込み、鬼頭の脇腹に左のレバーブローを叩き込んだ。
「ぐふっ!?」
長身の鬼頭は蹲り、頭と顎が下がる。
よし、射程距離だ。
バゴン!
俺は右アッパーを放ち、顎先にジャストフィットに食らわせた。
「ガァ……」
鬼頭は脳震盪を起こし足元がふらつく。
「ほんじゃ、仕上げといくぜ」
俺は素早く背後に回り込み、両腕を胴回りに回して担いだ。
そして、
ゴッ!
バッグドロップで後頭部をコンクリートへと叩きつけた。
鬼頭は大柄の体格が災いし重みで激しい衝撃を受ける。
おまけに顎も砕いてやったのでWダメージで完全にKOだ。
「……まっ、こんなもんだな」
俺は立ち上がり、鬼頭の状態を確認する。
クズ野郎だから手加減はしなかった。きっと、あばら骨も何本かイッてるだろう。
これだけの恵まれた体格だ。
万一、相撲とかプロレスをやっている奴ならタイマンなんか挑まない。
フィジカルじゃ勝てる自信はないからな。
だが流羽の情報で、こいつは頭の悪い宝の持ち腐れ野郎だってわかった。
ゴリ押し野郎なら、俺にとってその辺のヤンキー共と変わらない。
普段通りボクシング技術を交えた喧嘩戦法で勝つだけだ。
「リョウ……俺の戦闘服を冷めた眼差しで見ていたが、お前も変わらんぞ」
「本当に火野君はボクサーなのかい? 最後のアレ、プロレス技だろ?」
「流石、俺が崇拝するマリーの姐さんの弟だ。『触らぬ火神』は伊達じゃないぜ」
シンを筆頭に、勇魁先輩と天馬先輩が戦いながら感想を漏らしている。
一応、褒め言葉として受け止めておくぜ。
周囲を眺めると、味方達は快勝して大方片付いているようだ。
今更、俺が加勢する必要もないらしい。
たった五人の手で壊滅させたんだ――これで『T-レックス』も終わりだな。
そう思う一方で、堅勇先輩と茶近は対峙し睨み合っていた。
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