第195話 久しぶりのやり取りと駆け引き




 それから、俺は従妹である『神西 和心』こと、ニコちゃんに直接連絡することにした。


「――もしもし、ニコちゃん。夜分にごめんね」


『大丈夫だよ、サキ兄ぃ久しぶりだね。どうしたの?」


「夏純ネェから聞いたんだけど、冬休みはこっちに来れないんだって?」


『……うん、少し迷ったけど一応は受験生だからね。サキ兄ぃ、ニコに会えないと寂しい?」


「そりゃ寂しいさ。でも、それだけウチの高校に入りたいんだなって意気込みを感じているよ」


『うん、先生から今の内申点でも問題ないって言われているけど、念には念を入れてね……絶対に受かりたいから』


 偉いなぁ、ニコちゃん。

 俺が受験した頃より、遥かに立派な心掛けだ。


「わかった。合格するよう祈っているから頑張れよ。受験の時はウチに来なよ」


『ありがとう……ねぇ、サキ兄ぃ聞いていい?』


「なんだい?」


『またガールフレンド増えたの?」


「え!?」


 直球的な質問に思わず声が裏返る。

 瞬時に夏純ネェから何かしら聞いたんだと思った。


「まぁ、なんて言うか……色々あって、ある先輩とその家族が泊まっている状況ではあるんだ。別に何かあるわけじゃないからね」


『うん、夏純ネェからもそう聞いてるよ。生徒会の副会長してたり、なんだかんだで他人のトラブルに巻き込まれているっぽいって……心配はしたけど、でもサキ兄ぃらしいなって思ったよ。けど無茶だけはしないでね』


「そ、そう……ならいいけど。心配してくれて、サンキュ」


『でもね』


「でも?」


『ニコのことも、忘れちゃ嫌だよ』


「……そんなわけないだろ? これまでずっと一緒にいたんだ。これからだって一緒なんだし」


『別にそういう意味じゃないんだけどね……』


「違うの?」


『……相変わらず鈍いね、サキ兄ぃ。でも声が聞けて安心したよ……来年は必ず行くからね』


「ああ、待ってるよ」


『それと、愛紗さんと麗花さんと詩音さんによろしくね。女の子を期待させて泣かしちゃ駄目だからね』


「わ、わかったよ……それじゃ」


 なんだ、ニコちゃん……まるで堅勇さんみたいな口振りだ。

 そもそも俺、女の子泣かしたことねーし。



 こうして、ニコちゃんと連絡を終わらせた。


 思春期とは聞いていたけど、声を聞く限り特別俺に対してどうということはなかったな。

 寧ろ俺のことを心配してくれたり、前向きに受験に取り組む姿勢を感じほっとする。


「……受験、頑張れよ。ニコちゃん」


 そう願いつつ、俺は床に就いた。 






~勇岬 茶近side



 敵対していた喧嘩チーム、『ブラック・マウス』を壊滅させ、勢いに乗る俺達『T-レックス』。


 このまま縄張りを広めようかと考えていた矢先。

 ある男からLINEが届いた。


 ――鳥羽 堅勇からだ。


 メッセージと共に、ある画像が幾つか添付されている。


 その画像を開いた途端、俺は目を疑った。


 神西がボコられ、道端で倒れている様――。

 奴だけじゃない。

 天馬や勇魁までも、同じように徹底的に痛めつけられ倒されていた。


 嘘だろ!? まさか、これ全部……堅勇が一人でやったってのか!?


 驚愕しスマホ画面を見入っている中、奴か連絡が入る。



『茶近、画像見てくれたかい? ご要望通り、神西を排除し病院送りにした。ついでに邪魔そうな、天馬や勇魁も同様だ……少し連絡が遅くなったのは、そういうわけだからね』


「ああ、そうみたいだな……ケンユ、一人でかい?」


『見ての通りだ、全て闇討ちだけどね。ファミリーの協力があれば、連中の行動や情報なんて簡単に手に入るからね……造作もなかったよ』


 マジかよ、こいつ……ファミリー恐るべしだな。


 いや、堅勇自身の強さか。


 神西だって雑魚じゃない。

 ここ数ヵ月で飛躍的に進化して成長を遂げた男だ。

 実戦経験だってそこそこある。

 さらに天馬といい、俺が最も脅威を抱いていた勇魁までも……。


 流石、嘗て暴走族を壊滅させたことのある男。

 俺が恐れていた通り、ここぞの爆発力は半端ないってか。


『これで満足だろ、茶近?』


「ああ、やっぱケンユはやべぇよ……んで、ミカちゃんはどうしているんだ?」


『ミカナかい? さぁな……まだ神西の家にいるんじゃないか? まぁ、いざって時はボクの方で彼女を引き取るよ、家族ごとね』


「なんだって?」


『邪魔者は全て排除したからね。今のミカナが頼れるのは唯一ボクだけだろ? そういや、キミもいたっけな茶近。今、どこにいる?』


「……生憎、近くにはいねーよ。隣町にいる」


『隣町? 何故だ?』


「例の『T-レックス』のリーダーとやり取りしてんだよ。万一、ケンユが失敗するかと思ってよぉ。その心配はなかったみたいだけどな……」


『そうか……それは好都合だ。じゃ、ミカナはこのままボクが貰うことにするよ。三人を倒した駄賃としてね』


「んだと!?」


『だってそうだろ? ボク一人で働かせ、キミは何もしないで隣町で遊んでいただけだよな? あくまで相応の労働対価ってやつだ。それにさっきも言った通り、ミカナはもうボクしか頼れる者はいない筈さ。まぁ、言葉巧みに誘えば困窮した彼女も受け入れてくれるだろう」 


 堅勇の野郎!


 俺が不在なことをいい事に、そのまま美架那を奪うつもりだ!

 野郎……調子に乗りやがってぇ!


「待てよ、ケンユ! 俺らの誓いを忘れたのか!? 美架那に関して互いに決着つけるのは卒業までって決めたじゃねぇか!?」


『だったら、とっとと戻って来たらどうだ? 決着をつけてやるよ、茶近』


 クソッ! こいつ……すっかり調子に乗ってイキってやがる!


 だがどうする!?


 仮に俺一人で戻っても、みすみす闇討ちをくらいに行くようなもの。


 奴のファミリーは侮れねぇ!

 下手したら街中を歩く女達が、堅勇の味方になっている気さえしてくる。

 あの王田と違い、こいつは女を粗末にしない分、余計にそう思えてしまう。


 それに堅勇自身の強さも脅威に違いない。


 こうなりゃ一か八か。


 堅勇をこちらの町に誘き出すよう仕向ければ――。


「ああ、そうだな。早々に決着はつけるべきだな……しかし、俺がそっちに戻るのはフェアじゃなくね?」


『フェアじゃないだと』


「だってよぉ、ケンユの手口って大抵闇討ちじゃん……俺が戻った途端ファミリーの女だかが、ケンユにチクり入れて今度は俺が闇討ちされるんじゃね? んな状況下で呑気に戻ろうと思わないぜ」


『だったら、指を咥えて見てればいい……お前がそうしている間に、ボクがミカナを頂くだけさ』


 クソ野郎が……痛いところばかりつきやがってぇ。


 だが熱くなるな……先に感情的になった方が負けだ。


 ――自分の感情を押し殺せ。


 これまでずっと、そうして生きてきたろ?


「そうなる前に、俺がミカちゃんに全てを話すよ……ケンユが何をしてきたのか全てな。こうして証拠の画像だってあるんだぜ」


『何を言っている? お前だって関わっているだろ? 自分だけノーダメージで済むと思うなよ』


「いいや、俺はノーダメージだ。考えてみろ? 勇魁とつるんでいた時も、今回のケンユの行動にせよ、俺は何一つ実行してないし関わってもいない。こうして話をしているだけだぜ? それに俺は隣町にいる……立派なアリバイだってあるだろ? お前の猟奇的な行動から身の危険を感じてしまい、怖くなって隣町へ逃げたってことにしとくぜ。今から連絡したっていい。果たしてミカちゃんは誰の言葉を信じるだろうな……へへへ」


 ご親切に俺に画像を送ったことが、こいつにとって痛恨のミスだな。



 しばらく堅勇は沈黙する。


 どう切り出すべきか考えているようだ。

 それイコール、俺が交渉の主導権を握ったことを意味する。


『……どうすればフェアに決着がつけれる?』


 きた、これ。

 完全に俺の流れとなったぜ!


「逆にケンユがこっちに来ればいいんじゃね。無論、『T-レックス』のリーダーには伏せておくよ。もっとも、ケンユの噂を聞いたら流石の喧嘩チームもびびってしまうかもしれねぇし……これは、あくまで俺達二人だけの問題だ。そうだろ?」


『なるほど……わかった。準備して明後日に行くようにする。何処に行くべきか教えてくれないか? 隣町とはいえ、ボクには土地勘がないからね……』


「ああ、わかった。出来れば平和的に話をしょーぜ。俺、今まで誰とも喧嘩したことないから超弱えーし、ケンユには絶対に勝てそうにないからな……」


『わかった……切るぞ』


 堅勇はスマホを切った。



 よし! 思いの外、上手く誘導してやったぜ!


 所詮は変態ナルシスト野郎だ。


 案外ちょろいもんよ……へへへ。




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