第194話 女子達の気遣いと想い
「――へ~え。良かったね、サキ。ヒノッチと先輩達に任せれば、今回は危険な目に遭わなくてすみそうじゃない?」
あれからリビングにて。
俺の説明に、詩音が安心した表情を浮かべて見せる。
「まぁ、そうなんだけどね……ここまで入り込んで、俺だけ何もしないって感じで実は違和感も覚えているんだよ」
「私はどちらも反対ね。珍しく黒原君が一番まともだと思ったわ。現に風瀬君が酷い目にあっているわけだし、隣町でも騒がれている輩でしょ? ある程度の情報があれば、それを持って警察に報告するべきよ」
麗花らしい意見。つーか正論だ。
最もあの戦闘民族集団に、その概念が薄いのは確かだ。
基本やられたら、自分達の手で倍返しって感じだからな。
俺も感化されている部分もあるから、みんなの気持ちもわかるけどね。
「……サキくんはどうしたいの?」
愛紗が不安そうに聞いてくる。
「うん、今回はみんなの好意に甘えて待機してようと思う……みんなやミカナさんの傍にいて守らなければいけないし」
「そう、それなら安心だね……サキくん、いつも一人で酷い目に遭っているから」
「はは……前に言われた『幸福な王子』みたいな感じだったね。でも、こうして支えて守ってくれる仲間達がいる。そこまで身を削るつもりもないよ」
俺は一人じゃない。
頼もしい仲間達がいるんだ。
たまには信頼して、彼らに任せてもいいだろうと思えた。
それから夕食後から一時間が経過した頃。
美架那さんがアルバイトから帰ってきた。
「ただいま~。サキくん、今日、堅勇の家に遊びに行ったんだってぇ?」
「え? ミカナさん、どうして知ってるの?」
「帰りに『
そうだったのか?
でも、賢勇さんのファミリーに入るのってどーよ?
「じゃ、ミカナさんも知っているんですか? 園部さんと賢勇さんとの関係……」
「まぁね……でも、サキくんが思っているような関係じゃないようだから誤解しないでね」
「誤解?」
「男女というより、姉や母親みたいな関係らしいわ……賢勇の家族って仲は良いけど、みんな仕事が忙しくてバラバラで幼い頃から放置されていたみたいね。唯一、お爺ちゃんだけが可愛がってくれたみたい」
「そうなんですか?」
あれ? 何だろ……なんか俺の家庭環境に似ているぞ。
「そのお爺ちゃんも、数年前から体調が悪く介護が必要となって、しばらく賢勇が面倒を見ていた時期もあったようね。そんな中、ヘルパーとして珠美さんが働くようになり、彼女の献身的な姿に胸を打たれたのか、賢勇が『ファミリーにならないか』って提案してきたそうよ」
「それで?」
「初めは、どういう意味かわからなかったけど、要は住み込みで祖父の面倒を見ながら自分の話し相手や身の回りの世話もしてほしかったみたい。それこそ母親みたいな感じでね」
なるほどね……園部さんに母性を感じ求めたってことか。
確かに、そういう雰囲気のある女性だった。
つーかファミリーって、そっちかよ。
そういや、賢勇さん。
女の子によって色々な付き合い方があるって言ってたな。
要は自分の寂しさを埋めるための疑似家族みたいな存在なのだろうか?
でも中には、三年生の『光石 琴葉』さんみたいに本気の子もいるからな。
実際の関係性がよくわからないのも確かだな。
「まぁ、賢勇さんも誰かを不幸にしているわけじゃないから……結局は当人達次第なんでしょうね」
「そうだね……珠美さんを見ていたら楽しく過ごしているようだし、そういう関係もありなんだと思うよ。私は、たとえ仕事でも堅勇の家に雇われて家族ごっこを演じるのはごめんだけどね~」
美架那さんらしい言葉だ。
彼女にとって、お金は生活のために必要であって、自分を安売りしたりはしない。
なんて言うか……堂々としてたくましく、自分の生き方に誇りを持っている。
だからみんな憧れて惹かれてしまうんだろうなぁ。
今じゃ俺も含めてだけど……。
「そういえば、サキくん。堅勇、茶近のことについて何か言ってなかった?」
「え?」
「あいつ終業式も学校に来てなかったでしょ? 堅勇の話だと何か企んでいるっぽいし……一茶近がサキくんに危害を与えないかが一番心配なんだけど」
危害を与えられる前に、仲間達が潰しに行こうとしているとは言えない。
にしても、美架那さん……。
「やっぱり、勇岬先輩のこと心配ですか?」
「心配じゃないと言えば嘘かもね……いつもヘラヘラして何考えているかわからない奴だけど、一応は三年間の親交はあったわけだしね。天馬じゃないけど、私なりに友達としては大切よ」
そうか、そうだよな……随分と歪んでいるとはいえ、茶近先輩も美架那さんを想う気持ちは本物みたいだ。
互いが歩んだ時間も濃いだろうし。
「だからって、サキくんに迷惑を掛けるのは筋違いね……だって、キミは私の大切な――」
美架那さんは不意に言葉を詰まらせ、上目遣いで俺を見つめてくる。
瞬間、胸の鼓動が激しく波打った。
妙な期待感が頭を過る。
「ミ、ミカナさん?」
「い、いや……大切な恩人だからね」
なんだ、そっちか……。
やっぱりな、そんなことだろうとも思ったわ。
軽く失望感を覚えつつ、俺は微笑を浮かべる。
「ありがとうございます。でも気にしないでくださいね……もうじきお母さんも退院してくるわけだし」
「そうね、サキくんにまた迷惑かけちゃうけど、おかげ様でなんとか家族四人でお正月が迎えられそうだよ……本当にありがとう」
「いえ、俺は何も……ただ恩を返しているだけですよ」
やはり美架那さんには、俺のことより自分の家族を優先してもらおう。
これまで、一人で頑張ってきた女子なんだから余計なことで悩んでほしくない。
微力ながらも、みんなで彼女を支えてあげなければ……。
それから間もなく。
「サキちゃん、ちょっといい?」
夏純ネェがドアをノックしてくる。
俺は「どうぞ」と部屋の中に招いた。
「どうしたの?」
まさか出かける前に、愛紗にチュウしようとしたことを咎められるのか?
っと、少しやましい気持ちが過った。
「……うん。ニコのことなんだけど、サキちゃんに連絡きた?」
親戚のニコちゃん?
そういや冬休みに来るようなこと言って全然来ないな。
今来たら、人数の多さにきっと相当驚くぞ。
「俺には連絡来てないよ……夏純ネェはやり取りしているんだろ?」
「まぁね。なんでも受験に集中したいから来れないと言ってたわ」
「受験か……俺の学校を希望しているんだよな。でもニコちゃん、夏純ネェに似て頭はいい方だと聞くぞ。当時の俺とリョウでさえ受かったんだから、そんなに厳しいとは思えないけどね」
「確実にしたいんでしょ? あの子、用心深いところがあるからね……あとはサキちゃんだよ」
「俺?」
「あの子なりに気を遣っているのよ。サッちゃん、生徒会副会長したり色々トラブルに巻き込まれて入るっぽいでしょ? ニコにサキ兄ぃはどうしているか聞かれるから、私が知る範囲のことは答えているわ」
やっぱりそうなのか……なんか申し訳ないな。
でも受験に合格したら、ずっと一緒に暮らせることになるだろうし。
それに来年の受験当日には、否応なしに家に泊まりにくるだろう。
「わかったよ。俺からもニコちゃんに連絡してみるよ。教えてくれてありがと、夏純ネェ」
「私は別によ。ただ、あの子もサキちゃんの声を聞きたがっていたからね……自分から直接連絡すりゃいいのに思春期が故にね」
「思春期? 反抗期とかって普通、親に対してじゃん……親戚の俺に抱かれてもなぁ」
「サキちゃん……鈍いのにも程があるわ。それだもの、自分の言葉に責任を持とうとしないよね?」
地味にチクリと嫌味なことを言ってくる、夏純ネェ。
何だ? どういう意味だ?
まさか子供の頃に俺が求婚したことを忘れていたことを根に持っているのか?
あれ、自分からノーカンだって言っただろ?
この従姉の心情もよくわからない。
まぁいい……。
寝る前に、ニコちゃんに連絡してみるか。
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