第193話 今回の立ち位置(後編)




 堅勇さん家にて。


 今後について意見を出し合っていく内に、俺は直接戦わなくていい的な感じとなる。

 三年生的には「これまでの自分達が犯した自責の念」もあるようだ。


 リョウとシンは後輩を傷つけられた怒りと俺を守るという気持ちでやる気スイッチが入っている。


 そして黒原は非戦闘員として傍観しては、俺のチラ見しながら不敵にほくそ笑んでいた。


「――んじゃ早速、茶近を揺さぶりたいと思う。神西、悪いが付き合ってくれないか?」


「堅勇さん、付き合うって何を?」


「ボクがキミを闇討ちして再起不能にしたように演出し、その画像を茶近に送ってやるんだ。奴のことだ、ボクを隣町に呼び出して『T-レックス』総出でリンチしようと仕掛けてくるだろう」


「どうして堅勇さんを?」


「ミカナを取り合うため、邪魔者を排除するためさ……茶近の中では、天馬と勇魁はリタイアしたと思っているからね。残るはボクだけになるだろ? 『T-レックス』総出で隣町で移動するより、ボク一人の方が手間は掛からないと思う筈だ。それにボクを本気で再起不能にしたいのなら総出で来ないと、まず勝てないと判断するだろう」


 確かに堅勇先輩は一人で暴走族を壊滅に追い込んでいる実績があるからな。

 茶近先輩を含め、腕利きの奴を数人チョイスして連れて行っても勝てるかどうか……。

 いっそ呼び出して、数でモノを言わせるのが無難だろう。


「それに茶近はミカナに自分が喧嘩チームのリーダーだと知られたくないと思うよ。彼女がそういう存在を嫌うのをよく知っているからだ。後はボクの家柄への牽制かな……裏社会と繋がっていると未だに信じているからね」


 いや、それガチじゃん。

 この部屋にくるまで、強面の黒スーツと何人もすれ違っていますよ。


「本当なら土地勘のあるこの町に誘き出したいが、堅勇の言う通り難しいだろうね」


「勇魁、大丈夫だよ。隣町にいるボクのファミリーの子なら地理を含め詳しく教えてくれるさ……実は結構前から『T-レックス』のことも調べがついていたんだ。リーダーの存在以外だったけどね」


 きっと『獏田 流羽』って子だな。

 耀平の元相棒だった情報屋だった女子か……。

 その子の協力があって、耀平もなんとか戻ってこれたんだ。


 まさか話題の喧嘩チームのリーダーが違う町から来ているとは思わなかっただろう。


「どちらにせよ、鳥羽先輩次第ってことだな……俺達が乗り込むタイミングとかはよぉ」


「そういうことだ、火野。そう時間は掛からない、明日か明後日って感じかな?」


「先輩。いっそのこと、サキだけじゃなく、勇磨先輩や勇魁さんにも倒したってことにしたらどうですか? あれから結構時間も経っているし、その方が辻褄を合わせやすくて、向こうも呼び出しやすくていいんじゃないですか?」


「なるほど……蓋を開けてみれば、天馬と勇魁も無事でこちら側で徒党を組んでいるって構図か。いいね浅野、さぞ茶近も虚を突かれるだろう。流石は王田家に仕える有能な専属秘書の息子だ……策略や暗躍はお手の物だね」


「両親は関係ないですよ。俺自身が似たようなことばかりしてきましたから……」


 今も堂々と暗器を隠し持っているしな。

 マジ怖えーよ、俺の親友。


「そういうことだから、天馬と勇魁も協力してくれ。特殊メイクとか速攻で用意させるから」


「「わかった」」


 こうして俺を抜きにして、男達の話合いは終わった。




 今回除外された身として、安堵と同時に不安も過る。


 みんなに任せていいのだろうか……。


 信用できないとかじゃない。


 仲間達、全員が最強の戦闘狂集団だ。

 今から『T-レックス』の連中が崩壊していく有様が目に浮かんでくる。


 問題は――勇岬 茶近。


 こいつだけは、何か一筋縄じゃいかないと思えてしまう。

 遊井や王田のような、身勝手な坊ちゃんとは違う、猟奇的な闇を感じる。


 追い詰めれば追い詰めるほど巨大化する深淵の闇に住む化け物に――。




 それから。


 俺は堅勇さんに連れられ、天馬先輩と勇魁さんと共に画像撮影に協力した。


 ヘルパーの珠美さんが特殊メイクをしてくれて、俺が通学する帰宅路で、さも闇討ちされて再起不能にされたように偽装する。


 撮影には、盗み撮りを趣味とする黒原が本領を発揮し、それっぽい画像がいくつか撮れた。




「それじゃ、神西。何かあったら連絡するよ。茶近の反応や情報も送るようにするから、安心して冬休みを楽しんでくれ」


 帰り際に、堅勇さんが言ってくれる。


「色々とありがとうございます……本当に俺は何もしなくていいんでしょうか?」


「まぁ、ボクが言えた義理じゃないが、茶近の件はボクらの責任だと思うからね……今更ながら、キミやミカナを巻き込んですまないという気持ちもあるかな」


 堅勇さんの穏やかな微笑みに、以前の攻撃的な言動と行動が嘘のように消失していると感じた。


 前に、勇魁さんとジークンドーの練習をした時にも思ったが、俺と拳を交えた人は大抵更生してくれているような気がする。


 なら茶近先輩もと思うが、周囲から「相手が悪すぎる」と忠告を受けている感じだ。

 とりあえず、みんなを信用して任せてみようとは思っているけど……。


「わかりました。連絡待ってます……もし何かあったら、俺も駆け付けますので」


「ああ、そうだな……万一の場合、ミカナのことを頼むよ。その為に、キミを残したといっても過言じゃない」


「え?」


「なんでもないさ、慕って来る女子達を泣かせないようにね。それが複数の子と本気で付き合う秘訣さ」


 何気に助言をくれる、恋多き先輩。

 俺はあんたと違うぞと思いながら、何気に似た部分もあるので否定できない。


 まぁ、いいや。


 この機会に深い話をしてみよう。


「堅勇さん、前から聞きたかったんですけど、一体何人のファミリーがいるんですか?」


「……う~ん、その子によって付き合い方は色々で別々だからね。年上の女性で気づけば結婚していたファミリーもいたからな……マメに会ったりやり取りしているのは、12名くらいかな」


 12名か……凄い。

 下手したら、それ以上いるかもってことだよな。


「女性同士が堅勇さんを取り合ったり喧嘩したりとかしないんですか?」


「するよ。それを調整するのがボクの役目さ……分け隔てなく中立にね。基本、みんないい子だから割り切ってくれるよ」


 なるほど、少し愛紗達に似ているのか?

 いや、そこを一緒にしたらいけないと思う。


 彼女達は、決められない俺を気遣ってくれているだけだ。


「まぁ、ボクが言えることは、どんな状況でも『覚悟』が必要ってことだね。ボクの見立てでは、キミはとっくに出来ているようにも見えるけどね」


「俺がですか?」


「でなければ、そこまで頑張れないだろ? だからボクらも、キミとミカナのことをある程度は容認しているんだ。そこは自信を持ってもいいと思うよ~」


 そうなのか?

 天馬先輩も勇魁さんも、そういう目で見てくれているのか?


「だから今回は休みたまえ。茶近にはキミの気持ちや頑張りは伝わることはない……奴は昔から、そういう男なんだ」


 堅勇さんは最後に一言を告げ帰って行った。




 俺はもどかしさを感じたまま、家へと帰る。



 が――。


「キャァァァ! サキ~、その顔どうしたのぉ~!?」


 家に入った瞬間、詩音と遭遇し叫ばれた。


「え? 何が?」


「アイちゃん、レイちゃん、すぐ来て~! サキが大変だよ~!」


 詩音の呼びかけで、愛紗と麗花が駆け付けてくる。


「サ、サキくん、大丈夫!?」


「一体、誰にやられたの!?」


 え? 何言ってんの、この子達?


「なんだよぉ、耀平のお見舞いで堅勇さんの家に行って戻って来ただけだよ」


「「「え!?」」」


 さっきから何に驚いてんだよ? ん、待てよ……。


 俺は玄関の壁に立て掛けてある鏡で自分の姿を確認する。


「あ!? しまった! メイクを取るのを忘れていた!」


 偽装画像を撮って、そのまま帰宅したんだ。

 今の俺は顔中、血塗れの痣塗れの状態である。


 そりゃ驚き心配もしてくれるか……。


 俺は黙って洗面所に行き、メイクを落としてから三人に説明することにした。




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