第188話 女神からの不意なお願い




 鳥羽 堅勇さんから、耀平を預かっている経緯を聞いた。


 俺のために、相当無茶してくれたらしい。



「それで耀平は大丈夫なんですか!?」


「ああ、勿論。念のため今日、遊井病院へ精密検査した。脳は問題ないとのことだが、右腕肘の靭帯が損傷しているらしい。大体2週間はギブス固定だそうだ」


 そうか……命に別状はないのは良かったけど、思いの外重症のようだ。


「俺の後輩を……許せねぇ! 『T-レックス』だっけか!? 今から隣町に乗り込んで全身シメてやるぜぇ、ああ!」


 リョウが元ヤンモードを発揮し完全にブチギレている。

 こいつも自分のことより、他人のことで怒り狂うタイプだ。


「リョウ……気持ちは痛いくらいわかるけど、まだ堅勇さんの話は終わってない。少し落ち着こう……千夏さんも怯えてるぞ」


 内心では俺も怒りで煮えくり返っているが、一緒にブチギレてられないと気持ちを落ち着かせる。

 現に千夏さんはリョウの腕にしがみつき、涙を潤ませ震えていたからだ。


 そして、愛紗や麗花や詩音も同様に不安そうな表情を浮かべている。


 ただ夏純ネェと鞠莉さんは空気を読んでなく、二人仲良くソファーで飲み潰れている。

 それを天馬先輩と大智くんと萌衣ちゃんで介抱していた。


「わ、悪りぃ、千夏……。んで、鳥羽先輩、耀平は今どうしてんだ?」


「さっき言ったろ、ボクの家に丁重に預かっている。ファミリーにも頼まれてんだ邪険にはしないさ。別に怪我が完治するまでいてもらっても構わない」


 堅勇さんのファミリーか。

 なんでも隣町の子で中学の頃、耀平と情報屋のコンビを組んでいたらしい。


 リョウも顔を知っており、『獏田ばくた 流羽るわ』っていう名らしい。


 けど特に付き合ってないにせよ、自分の知り合いの子の彼氏に匿われるのって少し複雑かもな。


「あとでお邪魔していいですか?」


「ウチに来る分には構わないけど、明日にしてくれ。あまり夜分になると、ウチの年寄りがうるさいんでね」


 あの裏社会に精通しているお爺ちゃんか?


 堅勇さんも、どこか『王田家』と事情が似ているようでまるで異なっている。

 少なくても、この人は悪戯に頼ったりはしないようだ。

 そんな奴なら、今頃俺はもっと大変な目に遭っているだろう。

 危ない変人先輩だけど、そういう面では好感を抱いてもいる。


「わかりました。明日、リョウとみんなでお見舞いに伺います……それにしても、勇岬さんが隣町で騒ぎを起こしている『T-レックス』のリーダーだったなんて……」


「予想していた通りさ。それに風瀬が実際に見て体験してくれたおかげで、構成員の数や茶近の戦い方が見えてきた。上手く行けば先手が打てるかもしれない」


「鳥羽先輩、何か考えがあるんですか?」


「ボクも火野と同じ気性でね……敵を待つとか、びくびくした防衛策は好きじゃない。敵意がある以上、速攻で抑え込んだ方がいいだろう。その方が周囲を巻き込まないで済むし大切な人にも危険が迫ることもない」


 先手必勝か……確かにその通りだけどな。


「でも、勇岬先輩は俺を標的にしているなら、いっそ二人で会って決着をつけた方が……」


「神西は強いのは認めるが、茶近とは相性が悪い。風瀬の損傷を見ればわかるだろう。やるならボクか勇魁、それに浅野辺りか……そういや火野も喧嘩スタイルは別だよな?」


「どんな野郎でも戦いようっすかね~」


 リョウが自身満々で言い切る横で、俺は不服そうに顔を顰める。


「何故、俺じゃ駄目なんですか?」


「キミは優しすぎる……ボクとやり合った時も結局、メリケンサックを防御としてしか使わなかったろ?」


「そりゃ、そうですけど……」


「天馬にせよ、勇魁にせよ、そしてボクにせよ……キミを斃す気で挑んでいるけど、心のどこかではセーブしていた方だと思う。今だから言えるが、憎み切れない何かがキミの魅力でもあるからね」


 言われてみれば、天馬先輩も柔道家として挑んできたし、勇魁さんは投げや極めさらに急所技を控えてくれた。

 堅勇さんも俺の提案に乗ってくれた上での勝負だった。


「茶近にはそういう感情は一切ないと思ってくれ……出会った時から、そういう男だからね。きっと本気で潰す気で向かってくると思うよ」


 勇魁さんからも似たような言動を聞いたことがある。

 四天王の内、一番何を考えているかわからない奴だと。


「まぁ、鳥羽先輩……今後どうするかは明日、耀平の見舞いついでに相談しましょーや。女の子達の前で話す内容じゃないっすよ」


「そうだね。ボクとしたことがごめんよ、可愛らしいレディ達」


 リョウに指摘され、堅勇先輩は愛紗達に片目をつぶりウィンクしている。

 彼女達はドン引きしていた。


「あのぅ、堅勇さん」


「なんだい?」


「耀平の件、ありがとうございます」


 俺は頭を下げて見せる。


「勘違いするなよ」


「え?」


「ボクはキミを支援するが、あくまでミカナのためだ。神西に何かあったら、彼女も弟妹さんも、ここの家に居づらくなるだろ? いっそボクの家に来てくれれば、みんな一生面倒見てあげるけど、天パゴリラと勇魁がうるさいからね」


 そんなの、ただ単に振出しに戻っちまうだけじゃねーか。

 あんたもファミリーをどうするつもりよ?


 まだ美架那さんに未練があるのだろうか?

 しかし、今は頼りになる味方であるには変わりない。


「ただいま~っと。あれ、堅勇? どうしたの? また闇討ち?」


 美架那さんはバイトから戻ってくる。

 何気に物騒なボケをかましながら。


「やぁ、ミカナ。お邪魔してるよ~ん。てか室内じゃ闇討ちできないさ~、ハハハハッ!」


 堅勇さんは腹を抱えて爆笑している。

 実際やられた身として笑えない冗談だ。


「お~い! 誰か助けてくれ~! この姐さん達をなんとかしてくれよぉ!」


 リビングのソファーで天馬先輩が叫んでいる。

 酔っぱらっていた夏純ネェと鞠莉さんに絡まれ背中に蹴りをくらっていた。


 俺とリョウで止めに入り、二人を部屋に閉じ込めておく。




 少し雑談をして、堅勇さんは帰って行った。


 その帰り際、今はまだ美架那さんへ勇岬先輩の件は話す必要はないと言われ黙っておくことにし、デパートで購入したお返しのクリスマスプレゼントだけを渡した。


 どの道、明日のお見舞いで、どうするか話し合うことになるだろう。

 少なくても、それまでは彼女に余計な心配を掛けさせる必要はないと割り切った。


 それから、リョウと千夏さん、天馬先輩は帰って行く。


 鞠莉さんは帰宅不可能とし、一晩俺の家で泊まることになる。




 クリスマスプレゼントを渡した後、リビングにて。


 美架那さんから、ある報告が挙げられる。


「サキくん……お母さん、二日後の退院が決まったんだ」


「えっ、本当ですか? 良かったですね!」


「うん、ありがとう……」


 言葉とは裏腹に、美架那さんは浮かない表情をしている。


「どうしたんですか?」


「あのね……お母さん、少し手足に麻痺が残っちゃってね。年明けに回復期病棟に再入院が決まっているの……リハビリ目的でね」


「そうですか……」


「だから大智と萌衣、このままサキくんの家に泊めてもらっていい?」


「ええ勿論。ミカナさんはどうするんです?」


「正月はお母さんの傍で介護するつもり、病棟のベッドでないと一人で立ったりは、まだ難しいみたいだからね。勿論、大智と萌衣の送り迎いとかで顔を出すようにするから……」


「それなら俺が送り迎いしますよ。ミカナさんはお母さんの傍にいてあげてください」


「ありがとう……やっぱりサキくんは優しい」


 美架那さんは瞳を潤ませ、俺に微笑みかける。


 ――やっぱり綺麗な人だ。


 人柄が滲み出ているというか……笑顔が本当によく似合う。


 こんな素敵な人が、本当に俺のこと?

 そう思うだけで胸の奥がムズ痒い。


「ミィカさ~ん! サキに頼るのは全然構わないけど、ちょっかいかけつもりなら、必ず一言あたし達に言ってくださいね~!」


「しぃちゃんったら、何度もそんな暇ないって言ってるでしょ?」


 鋭い直観を働かせる詩音に、美架那さんは否定してくる。


「ミカナさん、わたし達も協力いたしますから、何でも言ってくださいね」


「愛ちゃん、ありがとう! いつも助かってるよぉ」


「そうね。私も微力ながら協力いたします……しかし一つ問題がありますね」


 麗花は形の良い顎先に指を添えて眉を顰める。


「麗ちゃん、何が問題なの?」


「ええ、ミカナさん……お母さんが再入院する『遊井病院』ですよ。あそこ、大きいだけで本当にしょーもない所ですよ。父に相談して、どこか良い病院を紹介いたしましょうか?」


 そう真顔で言ってきた。


 愛紗と詩音も「そうだよね……」と深刻な表情を浮かべる。

 三人にとって因縁深い場所なだけに仕方ない。


 俺と美架那さんは、彼女達の過剰な反応に対して、ただ絶句するしか術がなかった。






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