第186話 元相棒の恋愛事情と気持ち
~風瀬 燿平side
「二~三日、吐き気と嘔吐があったら検査を受けた方がいい。外傷は問題ないが、右腕は挫傷しているのでしばらく重い物を持たないように」
鳥羽が連れて来た医師が診断し、看護師が適切に処置をしてくれる。
やはり関節を極められ投げられたようだ。
今更ながら痛みが襲ってくる。
鳥羽は治療中の俺を眺めながら、ニヤッと微笑む。
「戻って何かあったら、すぐ『遊井総合病院』に連れてってやるよ。あそこは息子と両親はイカレてるけど医師はなんでもしてくれるからね。祖父の名を出せば、保険外でも簡単に治療してくれるよ」
思いっきり駄目駄目病院じゃん。
もうちょっと、まともな病院を紹介してくれっす。
「……鳥羽先輩には、ここまでしてもらっただけで感謝っす。別に家にまで泊めてもらう必要はないっすよ」
俺は奴の隣に立つ、流羽をチラ見しながら言った。
「その傷で家に帰ったら、一緒に暮らしている祖父母さんも心配するだろ? それに、ボクのファミリーであるルゥちゃんからも頼まれているんだ。善意じゃなく義務だと割り切ってくれても構わない」
ファミリ―か……。
確か、こいつには複数の彼女がいて総称でそう呼んでいるんだ。
嘗ての遊井や王田と違い、セフレとか遊びじゃなく、全員本気で付き合っているのは理解している。
でも、別に付き合ってたわけじゃないとはいえ、嘗ての相棒がその一員だと思うとな……。
――複雑な心境には変わりないっす。
その流羽と鳥羽が何か話している。
「ケンさん、ごめんね……迷惑かけて」
「構わないって言ったろ、ルゥちゃん。ボクらはファミリーだ。困ったことがあれば協力し合うのは当然だろ? それに風瀬のおかげで目的も果せたしね」
「そうだね……また『奴ら』情報が欲しかったら連絡ちょーだい」
「わかった。そっちも何かあったら連絡してくれよ~ん。大切なファミリーを守るくらいは戦えるからね~」
「ありがとう……あと、耀平のことをお願いします」
「オーケー責任持つよ~ん」
なんだろ?
所々だが随分と他人行儀な会話だな。
あんまり恋人らしくない。
そういや、流羽の奴、こいつとはウィンウィンのドライな関係だと言ってたな。
付き合ってはいるが、そこまで親密じゃない。
相互利益的な間柄なのだろうか?
治療を終え、俺は鳥羽が用意した車で一緒に地元へ帰ることになった。
その際、ふらついて歩く俺の身体を鳥羽が支えてくれる。
「ルゥちゃんからも聞いていると思うけど、ボクらの付き合いは契約的な間柄だからね……そこだけは覚えておいてくれ」
意味深な耳打ちをしてくる。
「……何故、俺に言ってくるっすか?」
「別に。誤解を受けたままだと、彼女が可哀想だからね……ボクは、ただファミリー達には幸せになってもらいたいだけさ。たとえボクから巣立った後でもね」
巣立つだと?
まるでグループアイドルの一人が、いずれ卒業と称してグループから抜けて独り立ちしていくように聞こえる。
「鳥羽先輩がファミリー達を本気で大切にしていることはわかっているっす。けど、結局あんた自身は何がしたいんっすか? 流羽も含めて彼女達に何を求めているっすか?」
「色々さ。本当に男女として付き合っている子もいれば、ただ寂しさを埋めるために遊びに行くだけの子もいる。中にはルゥちゃんのようにビジネス的なやり取りをしている子だっている。ボクと彼女達が求めているモノを共感し合った関係かな……だから腹を探り合っていた仲間達より、彼女達の方が余程信頼できるのさ」
俺にはよくわからないっすけど、きっと他の『勇者四天王』のことを言っているっすね。
元々金持ちすぎるが故に、一般人じゃ近寄り難いってだけで集まってつるんでいた連中っすからね。
特に共感する部分や支え合う必要もなければ、絆など生まれるわけがない。
そんな鳥羽の話は尚も続く。
「無論、強制はしない。他に好きな男ができれば巣立って行くし、また戻ってくる子もいる。そこはファミリーだからね、ちゃんと真摯に受け止めているつもりさ」
なんか女子専門の保護施設みたいな男だ。
「――神楽先輩はどうなんっすか?」
きっと、今のこいつにとって禁句ワードだろうが聞かずにはいられない。
神西さんに嫉妬して、わざわざ戦いを挑み返り討ちにされたくらいだ。
「……以前は、ボクが初めて本気で求めた女子だったけど……それこそ、ファミリーを失ってもいいと思えたほどにね」
「今は違うんっすか?」
「友達さ。そこは、ミカナに公認してもらったからね……結局、ボク自身もファミリーを捨てることはできなかった、中途半端な男だったんだ。そんな覚悟じゃ、ミカナほどの女子は振り向いてくれないさ」
悲しそうだが、何か吹っ切れた表情を浮かべる。
確かに、あの神楽さんの性格上、どんな手を尽くそうと鳥羽に靡くことはないだろう。
鳥羽は超金持ちで力もある。求めれば大抵のことはなんとかしてくれる男だ。
だが神楽さんのような自立心が強い女子だと、そういう男と付き合ったとしても、これまで構築してきたプライドさえ壊してしまいかねない。
それこそ、神西さんのようなナチュラルな優しさに心を寄せてしまうのも頷ける。
誰も生まれは選べない――それは仕方のないことだ。
だからこそ、神楽さんに適うよう努力しなければならないと思う。
どんな些細なことでも、彼女ほどの器量なら誠意として、きちんと受け止めれくれる筈だ。
鳥羽を含む、『勇者四天王』はその努力を一切しなかった。
ただそれだけのことだ。
少なくても三人は、ようやくその事に気づいたようっすけど……。
「まぁ、頑張ってくれっす。俺にはそれしか言えないっすから」
「ありがとうって言っておこう……風瀬、キミも頑張れよ」
「なんっすか? 俺に何を頑張るって言うんっすか?」
「ルゥちゃんのこと。あと、同じクラスで生徒会に入ったバスケ部の女子とも仲が良いと聞いているよ」
何言ってんっすか、こいつ?
流羽は中学の時に組んだ情報屋の相棒って言ってんじゃないっすか?
それに同じクラスのバスケ部女子って……軍侍 路美のことっすか?
あいつこそ、サキさんに夢中の片想い女子じゃねぇっすか。
どうでもいいけど、俺までそっちの世界に巻き込まないでくれっす。
「…………話にならないっす」
頭もくらくらするし身体中の痛みで、もう反論する気力もないっす。
とにかく今は休みたい。
あと、スマホなんとかしないと……。
アパートの階段を降りると、スーツを着て強面でガラの悪そうな男達が二人、黒色のセダンの前で立っていた。
何だ、この男達は……?
「祖父の知人だよ。医者と看護師ごと、ここまで送ってもらったんだ。帰りもちゃんと、ボクの家まで乗せてくれるから安心してくれ」
鳥羽はしれっと説明してくる。
何が安心してくれだ!
つーか、この人達本物じゃね?
本人は否定しているけど、思いっきり裏社会の人達を手足として自在に動かしているっすよ、こいつ!?
まぁ、ボディガードにはなるか。
流石の半グレもどきの喧嘩チームである『T-レックス』といえども、本物の人達に手を上げたりはしないっすね。
鳥羽の指示で、俺は強面の男達に抱えられセダンに乗せられる。
怖すぎてある意味、傷が広がりそうっす。
「耀平……ちゃんと回復させるのよ。落ち着いたら連絡頂戴ね」
流羽が心配そうな表情を浮かべながら窓から覗いてくる。
さっきまで毅然としていた癖に、別れ際で急にしおらしくなりやがって……。
なんだか胸がムズ痒いっす。
「わかったっすよ。本当に助かったっす。流羽も無理しないで元気にやるっす……あと、あの部屋、もう少し女らしくしたほうがいいっすよ」
「……バカ。早く帰れ」
こうして憎まれ口を言いながらの別れとなった。
何だかこの方が俺達らしいっすね。
「あの、いつもクールなルゥちゃんがああいう表情をするなんて……風瀬も隅におけないな~、うん」
セダンの中で、ぐったりする俺の向かい席で、鳥羽が長い足を組んで平和そうに笑っている。
こいつ、なんか腹立つっす。
けど助けてもらった手前、当面は頭が上がらないっす……。
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