第183話 情報屋の潜入調査(前編)




 堅勇先輩が耀平を預かっているだと――?


 なんでそんなことなっているんだ?


「鳥羽先輩……」


「堅勇でいいよ」


「じゃあ、堅勇さん、どういうことですか?」


「僕のファミリーの一人が隣町に住んでいてね。その子も元情報屋まがいのことをしていて、風瀬のことを知っていたんだよ……隣町でボロボロになっていた彼を匿って、ボクに連絡してきたんだ。それで、ボクが迎えに行って匿ったってわけさ……浅野から、『T-レックス』について探り入れていると聞いてたからね」


「ってことは……耀平をボコボコにしたのって……」


「まぁ、そういうことだろうな」


「んで、堅勇先輩よぉ! 燿平は無事なんっすか!?」


 リョウが詰め寄るように聞いてくる。


「ああ怪我をしているけど意外と元気だよ。本人は怪我よりも、自分でスマホを壊してしまったことにショックを受けているけどね。けど『貴重な情報を入手したっす』と満足気でもあるかな……クリスマス・イヴにそんな目に遭って満足しているんだから、もう彼は病気だね」


 確かに病気だけど、堅勇さんにだけは言われたくない。


 しかし耀平が隣町で怪我まで情報収集していたなんて……全然、知らなかった。

 それに自分でスマホを壊したなんて、だから俺がいくら連絡しても反応がなかったんだな……。


 一体、何があったんだよ……耀平?






~風瀬 燿平side



 三日前に遡るっす。


 あれから、俺はずっと隣町で幅を利かせる『T-レックス』っという喧嘩チームについて情報を集めていたっす。


 しかし調べれば調べるほど、よくわからない連中であるとわかった。


 特にリーダーとされる『デス・スマイルのチャコ』と呼ばれる人物についてだ。


 普段は『地獄の番人』と通り名を持つ、馬場と牛田という屈強の男達が取り仕切っているらしい。

 縄張り闘争で、この二人でさえ手に負えない相手である場合のみ、その『チャコ』というリーダーが加わるといった構図だ。


 そして評判通り、『チャコ』は合気道に似た何かの体術を使い、圧倒的な強さを見せている。

 戦っている最中でも、常に笑っていることから『デス・スマイル』と呼ばれているのだ。


 ――っと、ここまでは隣町の情報屋のルートでわかったっす。


 だが肝心な『チャコ』っというリーダー格についてはさっぱりだ。


 隣町の情報屋であり、嘗て俺とコンビを組んでいた女子である『獏田ばくた 流羽るわ』から、それ以上の聞けることはなかった。

 あくまで仮説だが、『チャコ』は普段別の町に住んでいるのではないかと言うのだ。


「別の町っすか……」


 サキさんに頼まれた『勇岬ゆうさき茶近さこん』を調べているも、特に何か問題を起こす人物ではない。


 常に問題を起こしていたのは、あの四人の中では勇磨さんが常連だったっす。


 あの後、サキさんが『壱角兄妹の謎』を暴き、実は他の三人も相当イッちゃっている連中だと判明したっす。


 どうやら、勇磨さんを隠れ蓑に陰で暗躍していたようだ。


 まぁ、壱角の兄はサキさんにボコられて、すっかり更生したようっすけどね……。


 けど先にサキさんに暴かれて、元情報屋として悔しいっす!

 完全に勘が鈍ったと実感したっす!


 だから『勇岬 茶近』のことだけは、この俺が暴いてやろうとしたのだ。


 しかし、まるっきり尻尾がない……こいつ、お尻つるつるっす。


 確か奴も古武道をやっているという情報もあったっすね……。


 さっきの仮説と照らし合わせると、どうも『茶近さこん』と『チャコ』が重なって見えてくる。


 だがあくまで仮説であり憶測の範疇。


 情報とは確証のあるものでなければならないっす。



 そんな中、隣町の情報屋である『獏田ばくた 流羽るわ』から連絡が入る。


『耀平、久しぶり。あんた、まだ「T-レックス」について調べてるの?』


「ああ、流羽るわか……まぁね、けど『チャコ』って奴がどうも浮かばないっすよ」


 獏田 流羽は元々同じ町に住んでいたが、隣町の高校に入学したことで引っ越している。

 そしてまだ現役の情報屋を生業としているのだ。


 っと言っても、彼女は「誰と誰が付き合っている」とか「どの先輩が浮気している」とか、もっぱら『恋バナ』系である。

 俺のような『ヤンキー事情』とは異なるので比較的、安全圏と言えばそれまでだ。


 だが『恋バナ』も案外侮れない。


 意外な形で、リンクして有力な情報へと繋がる場合がある。


 特に、セフレが多かった『王田 勇星』の件では、彼女は大いに貢献してくれ実績もあった。



『いいこと教えてあげよっか?』


「なんっすか? 学割料金で頼むっすよ」


『んな基本料金じゃないんだから……まぁ、いいわ。昔のよしみで、タダで教えてあげる』


「恩に着るっす」


『――今、「チャコ」が私の町に来てるよ』


「なんだって、本当っすか!?」


『ええ、「ブラック・マウス」って別チームをやっつけるためにね。そこのリーダーである三木こと「ミキ・マウス」ってのが格闘家らしく、相当強いらしいわ』


 ミキ・マウス……連呼したら何かに引っかかりそうっすよ。


「その三木っていう格闘家と戦うために、『チャコ』が来ているっすね……?」


『そっ、だから上手く潜入すれば、そいつの顔が拝めるかもね』


 確かに流羽の言う通りだ。


 これはチャンスかもしれないっす!


 T-レックスのリーダー、『デス・スマイルのチャコ』の正体と戦い方がわかれば、よりサキさんの有利に働けるっす!


「流羽、サンキュっす! 今から、そっちに向かうっす!」


『今からって……あんた明日、終業式でしょ?』


「関係ねぇっすよ! 疼くんっすよ……この俺の情報屋としての血がなぁ!」


『……足を洗った癖に……別にいいけど、私は関わらないからね。何かあっても自己責任よ』


「わかってるっすよ!」


 こうして、俺は隣町へと向かったっす。





 その日は遅かったので、ビジネスホテルに泊まった。


 え? 高校生が一人で泊まれるのかって?

 ウチは両親は地方で暮らしており、俺だけ祖父母の所に住んでいるので、祖父母に保護者として頼めば問題ないっす。


 問題は『T-レックス』の連中がどこに潜伏しているかだが、流羽から大まかな情報を得ている。


 さらに、サブリーダー格である馬場と牛田の素顔も入手済み。

 まずは、こいつらに接触しようと思ったっす。



 俺は伊達である丸眼鏡を外し、マッシュルームカットにパーマを当てた。


 いつもの格好じゃ舐められるの確実っすからね。

 少しでも、それっぽく見せないと駄目っす。






 そして、次の日。


 上手く牛田と馬場に接触を図り、さもT-レックスに憧れる後輩を演じることにした。


「お願いします! どうか俺をT-バックに入れてくれっす!」


「T-レックスだぁ、コラァ! テメェ、舐めてんのか!?」


「やめとけ、牛田。こいつ、たった一人で、俺達が狙っていた『ブラック・マウス』の兵隊を三人もボコってんだ。強えーよ」


 ブチギレる牛田に対し、馬場が宥めている。


 こいつら二人共、苗字通りのルックスっす。


 どちらも長身で筋肉質の男達。

 牛田は短髪で『闘牛』のような顔立ち。

 馬場は長髪の面長で『馬顔』であった。


 こうして見ると強そうだが、どこかモブっぽい気もするっす。


 俺も手ぶらでは仲間に入れてもらえないと考え、敵対するチームの雑魚をシメ上げたわけだ。


 それは直接、この目で『チャコ』を拝み、奴の戦いを見定めるため。

 目的さえ果たりゃ、適当にバックレるだけっすよ。


「お前、風間って言ったな? 今日は大事な『戦』前で、丁度リーダーが来ているんだ。特別に合わせてやるよ」


「マジっすか!? 恩に着るっす!」


 馬場の言葉に、俺は歓喜の声を上げる。


 よし、上手く潜入したっすよ!






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