第180話 順代わりのクリスマス・イヴ(後編)
やっぱり美架那さんが実は俺のことを……。
いつも堂々としている彼女から見慣れない態度に、鈍い俺でさえそう思ってしまった。
違う違う、調子に乗るな……美架那さんからも「感謝の意味」だって言われたじゃないか。
けどもしも……俺のこと異性として見てくれているなら……。
やばい。
今でさえ、どっちつかずの有様なのに……余計に迷走してしまう。
俺はそんな筈はないと自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせる。
冷静になったところで、美架那さんから貰ったプレゼントを開けてみる。
――財布だ。
シンプルでオシャレなセンスのいい牛革製である。
色々な意味で、美架那さんらしい実用性のあるプレゼントだと思った。
「こりゃいいな……ありがたく使わせてもらおう」
俺は呟き、自分の部屋へと戻る。
寝巻に着替えつつ、愛紗達からの連絡を待つことにした。
そんな中、黒原が大智くんとシューティング系の対戦ゲームをして遊んでいる。
見た目と違い面倒見が良いようだ。
しかし、それには黒原のある思惑があるようで……。
「……僕の勝ちですね」
「黒のお兄ちゃん、バカ強すぎだよ~」
「……子供とはいえ、ゲームとはいえ手加減しませんので」
微妙に容赦のないことを言う、黒原。
「……キミ、大智くんでしたね。約束通り、僕が勝ったので話してもらいますよ」
「何を?」
「キミのお姉さんのことですよ……特にプライベートのことをね」
「うん。別にいいけど、お姉ちゃん、いつもモデルの仕事とバイトばかりだよ」
「……恋愛事情は?」
「わからない。僕的には、サキお兄ちゃんがお勧めだけどね……でもサキお兄ちゃん、他のお姉ちゃんとべったりで……」
やめてくれ、大智くん。
特に黒原なんかに暴露するの。
本当のことだけど……。
「……なるほど副会長、そういうことですか?」
「何だと?」
「……難攻不落の牙城を攻めるには、まず本丸(身内)から……流石は異能、大した策士です」
「別に下心なんてないよ! 大智くんの前で変なこと言うなよな!」
「黒のお兄ちゃん、異能って何?」
「……選ばれし者が持つ能力です。通称、『無自覚たらし』とも言います、はい」
「黒原、やっぱ泊らずに帰れ!」
流石の俺もムカついてきた。
「……すみません、冗談です。あまりにも素敵な環境なので、男子代表としてつい嫉妬してしまいました」
「そ、そういうもんか……」
黒原の言いたいこともわからなくもない。
普通の男ならそうだよな……。
俺も高二の一学期頃までは、そう思っていたからな。
嘗ての『遊井 勇哉』に対して――。
それが色々あって、俺がそれ以上の存在となっている。
勿論、遊井のような女子達を自己満足の道具にしたり、手を上げるような最低なことは絶対にしない。
どちらかと言えば、堅勇先輩のような付き合いに近いだろうか。
だから、あの人に酷い目に遭わされても憎み切れなかったんだ。
いっそ、堅勇先輩みたいに『全員に対して本気』の方がいい気もしてくる。
けどモラル的にどーよって気もするけどね。
ブブブブブ
俺のスマホが鳴る。
詩音からLINEだ。
準備できたから、来てほしいという内容だ。
俺は黒原と大智くんに席を外す胸を伝え、自分の部屋を後にした。
彼女達が寝泊まりしている部屋へと向かう。
「サキくん、待ってたよ。入って」
パジャマ姿の愛紗が出迎えてくれて、俺を中に入れてくれる。
麗花と詩音もおり、二人とも見慣れたパジャマ姿だ。
でも、やっぱり女子のそういう格好を間近に見るとドキドキしてしまう。
「それで用事って何?」
とりあえず床に座って、目前の三人を見据える。
「「「はい、これ」」」
三人は声をハモらせ、それぞれ可愛らしく包装された袋と箱を差し出した。
俺はそれを受け取る。
「……これは、クリスマス・プレゼント?」
「そだよ~、用意していたって言ったしょ」
「うん……ありがとう。でも俺、みんなに何も用意してなくて」
「いいよ。サキくんには、わたし達だっていつも沢山してもらっているんだからね」
「そうね、生徒会といい……これまでの事だって本当に助けられてるわ」
「だから気にしたくていいよ、サキ~」
愛紗と麗花と詩音が優しく微笑みかけてくれる。
本当にいい子達だと思う。
だからこそ、ちゃんとしてあげたいんだ。
「それじゃ、俺の気も収まらないよ。明日、四人でどっかいかない?」
「え? わたしは別にいいけど、サキくんは大丈夫なの?」
愛紗の言葉に、俺は「ん?」と首を傾げるも、ふと自分の身に置かれた現状を思い出す。
そういや、勇者四天王がまだ一人残ってたんだ。
――
まだ燿平から情報も聞いてなかったな。
以前の犯罪集団じゃあるまいし、人通りの多いデパートとかなら問題ないと思う。
なんならリョウのカップルも誘えばいい。
「リョウと千夏さんも誘えば大丈夫だろ? 行くとしてもデパート中心だし」
「そうね、私はいいと思うわ。せっかくの冬休みだし、家にばっかりいたら、サキくんも滅入ってしまうでしょ?」
「あたしもいいよ~。ねぇ、アイちゃん行こ~」
「うん、みんなが行く気なら、わたしも行きたい」
満場一致で明日の予定が決まったぞ。
久しぶりに四人で羽根が伸ばせそうだ。
俺はそう考えながら背筋を伸ばしていると、三人は急にもじもじと話し合い始めた。
なんか小声で「誰か言いなさい」っと押し付け合っている。
「どうしたの、みんな?」
「……あ、あのね、サキくん。実は、わたし達まだサキくんにあげたいモノがあって……」
二人の押し付けられた愛紗が切り出してきた。
「あげたいモノ? プレゼント以外で? え、何?」
「と、とりあえず、サキ君は20秒ほど目を瞑って頂戴!」
「麗花、目を瞑るって……どうして?」
「いーから、サキィ、目を瞑るの!」
最後、詩音に強い口調で指示され、俺は渋々両目を瞑る。
とりあえず、20秒を数えてりゃいいか……。
っと楽観していた。
すると――
ちゆっ、ちゆっ、ちゆっ。
それは一瞬だった。
額に両頬へと、とても柔らかく微かに震える感触が伝わる。
甘い吐息達と共に。
俺は、え? と首を傾げつつ、両目を開ける。
ちなみに、まだ10秒経ったか否か。
――すぐ目の前に、三人の顔があった。
愛紗、麗花、詩音……。
頬を染めて瞳を潤ませている彼女達。
可愛らしく綺麗な三人の美神。
何だ? 俺は……今、何をされたんだ?
あの素敵な感触……まさか、三人同時にキスされたのか?
「お、おお、おい……」
「ごめんね、サキくん驚いたでしょ?」
「私達も気持ちが抑えきれなくて……ついね」
「三人同時ならルール違反じゃないってノリで……でも迷惑だったよね? ごめんね、サキ」
やっぱり、そうか……けど、そういう問題なのか?
でも全然、まったく迷惑じゃないよ!
逆に心臓が破裂して脳みそが蕩けそうになるくらいドキドキして熱い。
俺の中のテンションが……もう、かなりやばい。
顔から火が出るというか、もう糖分取り過ぎて視界がくらくらして意識が朦朧としてくる。
「あ、ありがとう……うん、嬉しいよ、うん、うん」
駄目だ。
もう自分で何を言っているのか不明だ。
これ以上、何かされたら頑なに押さえ込んでいた理性さえ、失ってしまうかもしれない。
「――あっ、サキ! 雪だぁ!」
詩音が突然、声を上げる。
その言葉に、愛紗と麗花が窓の方を見た。
「あら、本当ね……初雪かしら」
「えへへ、サキくん見て、ホワイト・クリスマスだよ」
愛紗に促され、俺も窓から景色を眺める。
さらさらと降ってくる雪、薄っすらと染まって真っ白にいく光景。
どこか優しく神秘的な気持ちになっていく。
しかも、大切な彼女達とこうして一緒に見ることができたんだ。
これぞ、まさしくホワイト・クリスマス――。
神様からのプレゼントだろうか。
つい、そう思えてしまう。
こうして俺の人生で、一番幸せで甘いクリスマス・イブが過ぎていった。
──────────────────
時季外れネタで申し訳ございません。
もう少しだけ続きます(^^)
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